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31話 帰還と行く先と土だるま

「蘇芳様」


 黒茶のカル木で統一された落ち着いた室内に、少女の声が響く。追憶から覚めた少年は、先程まで無人であった窓際に黒髪の少女の姿を認めて笑んだ。


「お帰りトラ。また窓から入ってきたの?」


 彼はペンを置くと、机に肘をつき顔を斜めに少女の方に向けた。


「衣筒隊長と一緒に二人連れてきたって? 珍しいな。西の方に何かあったのかい?」

「貴方の昔のお仲間に会いました」


 唐突に投げつけられた言葉に、蘇芳の動きが一瞬止まる。しかしすぐにまた微笑みの表情に戻ると、立ち上がり棚に向かって歩きだした。


「そう。誰のことだろう。元気そうだった?」


 少女は棚から茶器と菓子を取り出す蘇芳の姿をじっと見つめた。温かい黒茶が陶器のカップに入れられ、白い湯気が立ち上る。


「勾留されてたようです」

「勾留?」


 流石に蘇芳も驚きの声をあげる。片手に持ったカップがカチャリと硬質な音をたてる。


「トラは本当に誰のことを言ってるんだ? どこかの罪人にでも会ったのかい?」


 慌てるというより、ただ不思議そうな様子の少年をじっと少女は観察する。香ばしい茶の香りが漂い、彼女はひくりと鼻を動かした。さて何を口にするのが最適か。


「トラ?」

「貴方の大切な黒髪の少年が、勾留されていました。勾留の原因は恐らく黒援会との繋がりの疑惑。私が接触したのが主な原因でしょうが、それだけだと思えないから元々何らかの疑われる要素があったのかも」


 蘇芳が吐息をついた後に眉を顰めた。


「珍しく一人で出ていったと思ったら、一体ザニザニまで何をしに行ったんだい? 俺の昔の知人に会ってどうしたんだ?」

「一緒に来ないかと誘った。貴方が会いたがってると」


 蘇芳は一瞬息を飲んだ。


「……それで?」

「断られた」

「そう」


 どこか安堵したように微笑むと、蘇芳はカップに口をつけた。少女は首を傾げた。


「会いたくないのですか?」


 蘇芳はどこか幼い少女の仕草にくすりと笑う。


「そうだね──何て言われた?」

「用があるなら蘇芳様自身が会いに来いと。わからない。アイツも貴方を探してるんじゃないの。何故誘いに乗らない。非効率」


 憮然とする少女を見た蘇芳は、一瞬きょとんとした後可笑しそうに笑った。


「ははっ。非効率ね、確かに。──でもねトラ。俺は俺の意思で、あいつはあいつの意思でここまで来たんだ。だから多分、あいつの言うことが正しい。トラがあいつを連れてきても意味がない」


 少女が見詰める先で、少年は一度目を伏せ、そして上げた。そこにあるのは強い覚悟。全てを寄せ付けぬ強靭な意思。


「俺は一人でも俺の道を行く。誰からも理解されなくてもいい。例え──そう、例え常盤(トキ)菖蒲(アヤ)が俺を許さなくても。俺は」

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