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27話 門と少女と土だるま

 ぼろぼろに崩れた岩壁の中心に、ヒビひとつない綺麗な壁面が丸く覗いていた。それは大の大人が三人優に通れる大きさで、破壊の跡が残る周囲の状況と比較すると、あまりにも綺麗過ぎた。

 それら岩壁の前に、少年は立っていた。彼は包帯でぐるぐる巻きにされた腕をそっと伸べ、ぺたりと壁面にその手を当てる。壁はひんやりした冷たさを伝えるも、それ以上の何かを彼に伝えることはない。

 少年はそっと吐息に少女の名を乗せた。


「ゲートを開きたいですか」

「ッ!!」


 少年が驚愕に振り返る。つい先程までは誰もいなかったはずだ。だがそこには黒髪の女がいた。年の頃は少年より上、黒い肌に吊り上がった目許が印象的で、その姿はまるで──


「アヤ……?」


 目を見開く少年と対照的に、女は眉間に皺を寄せた。目の前にいる人物はどう見ても彼より年上なので、彼のよく知る少女でないことは明白だった。たがそれでも少年は、どこか少女と同じ空気を醸し出す相手に態度を決めかねていた。


「……貴女は、誰? ゲートって何」

「貴方の目の前にある、それです。向こうとこちらを繋ぐ門、小さな子供を飲み込んだ異界の顎」


 警戒を示す彼とは対照的に、淡々とした答えが返ってきて戸惑う。目の前の人物から敵意は感じないが、その分何を意図しているのかが全く見えない。


「貴方はあの男によって子供が封じられるのを目撃したはず。ゲートと子供は繋り、封印を確かなものにした。子供はゲートを封じ続ける──命ある限り、永遠に」

「──ッ! 何を言ってるんだよっ!?」


 真っ黒な深淵に飲み込まれる少女の姿が脳裡に浮かぶ。聞きたくなかった。それは少年の恐れそのもの。だが女はうっすらと笑い、更に続ける。


「あの男は自らの非力を、子供を贄にすることで補った。子供は今も生きてる。封印を維持する力の源として。誰に会うこともなく、光を目にすることもなく、暗闇の中で一人孤独に命を燃やすだけの躯として」


 女の声が岩肌に反響し、耳鳴りがぐわんぐわんと頭の内側で暴れまわる。視界が歪み、佇む女の姿があちこちに移ろう。

 そして今目の前にあるはずのない光景までもが少年を苛む。他人のような冷たい目をした少女、全てを飲み込む闇から産まれた黒い黒い腕、彼のよく知る老人の面影を宿す男、迷いなく少女に向けられる凶暴な力、少女の叫び。

 浮かんでは消える光景が、耳障りな嗤いの渦に巻き込まれ、泡のように弾け飛び、また産まれる。そして見る。彼の大切な少女が、風すら届かぬ闇の深淵に一人囚われるその姿を。


「やめろっ!!!」


 吠えた少年の目前に、彼の大切な少女が立つ。いや違う。彼女は『彼女』じゃない!


「──ゲートを開きたいですか」


 自らの身を掻き抱くように小さく丸まった少年に、女が再び問いかける。恐る恐る見上げると、彼女は最初に見た位置から一歩も動かず、ただ無機質にこちらを眺めていた。


「開くことが……できるの?」

「ええ。ある物さえ手に入れば恐らく」

「それは何。どこにあるの?」


 少年の眼光が変わったことに気付いた女が目を細める。


「剣や槍、それに類する物の姿を取っているはず。ここより東のどこかに、それはある」

「貴女にもよくわからない?」

「私はただ感じることができるだけ。──今一度聞く。貴方はゲートを開きたいですか?」


 女を見上げていた少年が、目を伏せる。


「……何で俺に聞く? ゲートを開いたら、一体どうなるの?」

「向こうと繋がり、お互い行き来が可能となる。貴方が子供のためにゲートを開きたいのは見ててわかった。その気持ちが誠なら、ゲートを開く鍵を探すのに協力してほしい」

「行き来が……」


 何かを察した少年が女を直視する。


「貴女は、向こうから来たの? 向こうに戻りたいの?」


 女が少年から目を離し、何かを思い浮かべるかのように遠くを眺める。


「そう──向こうに、会いたい方がいる。だから私は戻りたい。あの方の傍にずっといると私は決めたから」


 女の透き通った横顔を眺めた少年は、息を吐きそっと自らの両腕に顔を埋めた。

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