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22話 騎士と聴取と土だるま

 国家特別救護隊は、主に王に仕える第三騎士団員で構成される。

 戦場に立つ以外の騎士の通常業務は国内の治安維持、国境警備、領土運営等様々だ。だが自らの領土を持たない低い等級の騎士が大部分を占める第三は、全国各地を駆けずり回り、ほぼ王都にいることはない。

 よって第三は専ら各地にある警備隊詰所に駐留していることが多い。

 警備隊はそれぞれの領土に属する組織のため、王に仕える騎士団とは根本的に異なるのだが、第三とは比較的良好な関係を築いていると言う。


 そのザニザニ警備隊詰所の一室に、少年は座っていた。少年の年齢に配慮したのだろうか。室内は明るくそれなりに広さもあり、調度も寝具も揃っていて、聴取室というより客室に近い様相だ。

 だが中央の椅子に座る少年の眼差しは暗い。


「あの人とは初めて会いましたので、何も知りません」


 対面に座るのは弌浪と名乗った若い男だ。少年の答えに、男は一見子供のようにも見える童顔を僅かに顰めたが、目を伏せた少年は気付かない。


「わかりました。おさらいしましょう。間違っていたら指摘して下さい。貴方は西部ジーガル出身の十三歳。一年程前から親元を離れ現在一人旅中ですね」

「はい」

「旅の目的は同郷の知人の捜索」

「はい」

「二週間前にこのザニザニを訪れたが、未だ知人は見つかっていない」

「はい」

「ちなみに探し人はどんな方ですか?」

 少年が初めて困惑の表情を見せる。

「どんなって言われても……年下の、幼馴染です」

「ああ。話を脱線させてすみません。折角なんで少しでも人探しのお手伝いができたらと思ったのです。私達は始終各地を巡っていますので、何か特徴でもあれば少しでも情報をご提供できるかなと」


 弌浪が目元を和らげると、少年は目を瞬かせた後、男を見て首を振った。


「特徴……普通の、子供です。それに多分この辺りにはいません」

「そうですか。また何か思い出したことがあれば言ってみて下さいね」

「はい。ありがとうございます」


「では戻りますが、知人探しをしていた貴方の前に先刻の少女が現れたと」

「はい」

「その方の様子、話したことを覚えている限りで結構ですので詳しく教えて頂けますか」

「はい。えーと、町を歩いていたら突然あの人が現れました。全身暗い感じで……はい、服も暗い色だった気がします。何か人を集めているようなことを言ってましたけど、俺……私には言ってることがよくわかりませんでした」

「人を集めている、とそう彼女が言ったのですね?」

「どういう言い方してたかは覚えてませんけど、そんな感じのことを言ってたと思います」

「わかりました。それで彼女は他に何か言っていましたか?」

「何か?」

「場所、人物、日時のいずれか。もしくは人を集める理由。全然無関係なことでも結構です」

「思い当たりません。すぐに皆さんが来られたんで」

「そうは言っても無関係の人にそれだけのことを話す訳がない。つまり貴方も勧誘対象だったのでしょう」

「わかりません。突然現れて、二言三言話したらすぐにいなくなりましたから」

「そうでしたね。ただ少なくとも勧誘すると決めるだけの貴方の情報を持っていたことは事実です。実は以前会っているのではないでしょうか」

「いえ……記憶にないです。と言うか、本当に人を集めるという意味だったのかもよくわかりません」

「何と言っていたんですか?」

「迎えがどうとか言ってたような……すみません。はっきり覚えてません」

「──わかりました。ところでこちらの女性に心当りはありませんか」


 弌浪は懐から一枚の紙片を取り出しテーブルに置いた。二十代半ばくらいの女性の正面姿が描かれている。切れ長の黒目はややキツい印象を与えるが、たっぷりと波打つ赤毛と健康的な小麦色の肌がよくマッチしていて美しい。

 少年はまじまじと絵の女性を見詰めていたが、すぐに興味を失ったように目を離すと首を振った。


「知らない人です。この人が何かしたんですか?」

「ザニザニの住人で、現在重要参考人として行方を追っています。見掛けられたことはありません?」


 少年は再度似姿を見てから首を振る。弌浪は頷き紙片を下げた。


「ありがとうございます。では他にも何か思い出したことがあれば遠慮なくおっしゃって下さい。今日はもう遅いので、このままここに泊まって頂き、明日各種手続きをして頂いた後に放免となります。入用な物等ありましたら、外にいる警備の者にお申し付け下さい」


 少年が焦ったように顔を上げる。


「えっ!? 泊まりですか!? 宿に前金払っちゃってるんですけど」

「こちらに滞在中に別途かかった費用は、お支払します。申し訳ないですけど、今お帰しすることはできないのでご容赦下さい」

「あ……はい。まあお金と荷物が無事なら、大丈夫です」

「勿論、持物も全てその時にご返却します。心配しなくても大丈夫ですよ」


 弌浪が立ち上がり目許を和らげた。


「では私はこれで失礼します。ゆっくり休んで下さい。色々怖い思いをしたんじゃないですか」

「あ、いえ。怖くはなかったんで大丈夫です」


 あわせて立ち上がった少年がぺこりと頭を下げる。


「おや頼もしい。見ず知らずの人に突然捕まり訳のわからないことを言われ、挙げ句の果てにその聴取で連れていかれるなんて、いくら旅慣れていても少々刺激が強すぎたかと心配していたのですが」

「そりゃびっくりはしましたけど……別に俺捕まるとかじゃないんですよね? ならいいんです」

「それは良かった。では──」

「あ。一つだけ教えて下さい! 結局……俺が会った人と、さっきの絵姿の女の人は何だったんですか?」


 扉に手を掛けた男が振り向き、少年を見詰める。妙な圧迫感を感じ、少年が無意識に一歩後退る。


「それは、貴方のような子供が知る必要のないことです。ではまた明日。ご協力ありがとうございます」


 少年の視界で扉が閉ざされ、がちゃりと蝶番の硬質な音が響いた。

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