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21話 誘いと妨害と土だるま

 追憶から覚めても、未だ少女の姿はそこにあった。

 黒髪、黒い肌、吊り上がり気味の黒い瞳。それは彼がよく知る──いや、


「どちら様ですか?」


 誰何の声に少女は瞬くと、何かを飲み込むような間をあけた後一つ頷いた。


「『はじめまして』。私は蘇芳(すおう)様と共に歩む者。貴方達を迎えに来た」


 少年の目が見開かれる。衝撃を受けたかのように身を震わせた少年は、しかしすぐに自らを立て直すと苦々しげに唇を歪めた。


「──迎え? 一体どこへ連れて行くって?」

「蘇芳様の元へ」

「はっ! 何で俺がそんな所へ行かなきゃいけないんですかね」


 即座に返された言葉に、少女は首を傾げる。


「何でって、そうすれば皆で一緒にいられるじゃない。そのためにここまで追い掛けて来てくれたんでしょう? それに……」


 少女の視線が少年の腰に向かう。懐古と思慕の混じったようなその視線に、居心地の悪さを感じ少年が身じろぎする。


貴方(・・)のことも元に戻せる」


 少年は今度こそ驚愕を隠さず、目の前の少女を見詰めた。風が髪を揺らし、少女は笑う。


「ねえ。昔のように三人でいたいでしょう? 戻りたいでしょう? 何を躊躇う必要があるの? 今その手を伸ばせば、以前と同じようにいられるのに」


 ふわりふわりと少女の声が宙を舞う。それは少年に過去の情景を浮かび上がらせ、万華鏡のように煌びやかに周囲を彩る。

 足が、腿が細かく震える。それは一体誰のものか。


「──『約束』」


 更に発した一言に、少年が大きく身を震わせ、蒼白になった。少年の目の前に、過去の幻影が具現する。

 自らの言葉が与えた衝撃を見て取り、少女は待った。少年が理解し、答えを導きだすのを。

 しかし彼が何かを口にする前に、少女はついと目を横に向け体を反転させた。少女のみに向いていた意識を無理矢理外に向けさせられ、少年が目を見開いた、その時。


「双方動くなっ! この場は国家特別救護隊が掌握した! 以降の勝手な行動は反逆と見なす!」


 朗々とした声が辺りに響き渡った。通り沿いのやや離れた位置に上下濃紺の服を身に纏った男が立っている。警備隊か? だが男が両手に構える物は。

 戸惑う間もなく破裂するような音が響き、少年は反射的に体を硬直させた。彼に衝撃はない。だが自らのいる方へ向けて撃たれたそれに、少年は地に足を縫い付けられたかのように動けなくなる。

 男は銃を構えたまま走ってくると、少年の前方に止まり辺りを見回した。


「ちっ! 逃げられたか!」


 その強い言葉に、びくりと少年が震える。そして気付く。いつの間にか少女の姿が消えていることに。

 男はしばらくそのまま周囲を伺っていたが、気配が完全にないことがわかると構えを解き、少年の方へ鋭い視線を向けた。


「君。怪我は」


 反射的に首を横に振り、やっとその男が森で黒蛇から助けてくれた人物だと気付く。だがその服は。

 男が頷き、収めた銃の代わりに剣帯に手をかけた。固い表情で腰に差されたそれを見ていると、男は僅かに眉を上げて少年を見下ろした。


「先程の少女の行先に心当りは」

「……ありません」

「そうか。君はショウブでしたね?」

「はい」

「では──」


 男の背後から、同じ濃紺の服を着た男達が向かってくる。


「改めて。私は国家特別救護隊が一人、弌浪(いつろう)。君には黒の病の感染者保護妨害行為への関連嫌疑がかかっています。事情聴取のためご同行頂きたい」

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