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現代医学の破壊魔法  作者: たけなか
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第05話 初任務



 ここ一週間はひたすら基礎魔道書を読みふけて勉強していた。まずは最低限戦えるようにならなくては。その間の宿代や食費はすべてフィリア持ち、つまり僕は完全なヒモだ。彼女には本当に申し訳なくて頭が上がらない。


  魔法を勉強していくうちに僕は呪詛魔法に対してある仮説を考えた。闇属性の呪詛魔法は感染症と同じ病態をごく短期間に生じさせて相手にダメージを与えているようにみえる。


 つまり僕の魔法は相手を迅速に病気にして呪い殺すというとんでもないものだということだ。なにか複雑な気持ちになる、こんな魔法を極めたらそれこそ僕は生きる疫病神か死神になってしまう。


 でもまずは自分で稼いで飯が食えるようにならなくちゃいけない。衣食住すら自分で賄えないのに倫理観を考慮する余裕はなかった。



 さらに数日かけて街の近場でモンスターを狩ったり詠唱の訓練を重ねた結果、何とか基本的な呪術は使えるようになった。と言ってもあいてを脱水状態にさせたり、軽い呼吸困難にするといった地味なものばかりだが、少なくとも攻撃を行うことはできるようになったのだ。


「なんとか魔法を唱えることはできるようになったよ。あまり綺麗な魔法じゃないのは少し残念だけどね」


「そんなことありません!呪詛魔法は高度な魔術なんですよ。普通の魔導師なら基礎の習得にも半年はかかるんです。もしかしたらレイトさんは記憶を失う前は有名な魔導師だったのかもしれませんね」


 フィリネは満面の笑みで僕の魔法を称賛する。こちらの悩みなど一切気付いてないようだ。だがその無邪気な笑顔をみていると魔法属性の悩みなどちっぽけなものに思えてきた。




 今日も魔法詠唱の訓練をする。ゴブリンに呪詛魔法をかけると攻撃が当たった皮膚がブヨブヨに腫れて赤くなっていた。しばらくこちらを追いかけてくるが徐々に足元がふらついている。


 もう一回同じ魔法をかけるとよろめいて地面に倒れ込んだ。完全に意識を失ったことを確認して近づく。恐る恐る体に触れると体温は平常のそれをはるかに超える熱さになっていた。脈拍は異様に早く刻み、呼吸も浅くなっている。その様はまるで細菌感染による敗血症性のショックのようだ。


 しばらくするとゴブリンは血液の循環が維持できなくなり心拍が乱れてくる。こうなるともう長くはもたない。せめて最後は楽にしてやろう、呼吸阻害魔法をかけるとゴブリンは静かに息を引き取った。




「だいぶ早く倒せるようになってきたな、少しは実戦で君の役に立てるといいんだけど」


「十分な戦闘力ですよ。これで二人一緒に戦えますね。ふふっ、嬉しいな」


フィリアに修行の進捗状況を報告すると喜んでくれたようだ。


「まだまだ未熟だけど精一杯頑張るよ。あと、今の段階でこなせる依頼を探さないといけないね」


「そうですね、そろそろ簡単な討伐の依頼を受けに行きましょう」


2人でギルドのカウンターに向かった。


「まずは簡単なものを持ってきました。これなら私たちでもこなせると思います」

 彼女が難易度の低いランクE相当の依頼書を手にして戻って来る。内容は害獣の駆除で5匹以上倒すと達成、報奨金は120ルーデル。ルーデルはこの世界で広く流通している通貨だ。ちなみに5ルーデルでだいたい昼食1食分となる。


 フィリネの懐事情は把握していないがこれまで僕のために宿代で一泊40ルーデル、食費で一日10ルーデル、合計でたぶん800ルデールは払っている。いつまでも生活費を負担してもらうわけにはいかない。二人で害獣の発生している牧草地へと向かった。


街に隣接する広大な牧草地、ここに現れる害獣を5匹以上狩って討伐の証拠として角を収集すれば依頼内容は達成だ。


 初めての実戦だ。


「何かあったらすぐに支援します。頑張って!」


後ろからフィリアの声援が聞こえる。今回のターゲットはミデアアンテロープという獣だ。見た目は巨大なカモシカにしか見えないが、気性が荒く農民や家畜を襲う事もある。相手の移動位置を予測し闇の呪文を唱えた。



 「セリウライティス!」


黒い魔法陣が現れて濁った光が放たれる。闇属性の初等魔法、その効果は呪文を当てた部位の皮膚に爛れさせ徐々に内部に進展する化膿性の炎症を引き起こす。


 おそらく何らかの細菌を表皮内で急速に増殖させているのだろう。地味な攻撃だが直撃した部位を確実に使用不能にし、徐々にダメージが広がる優秀な魔法だ。


 一発目は外したが、続けざまに放った二発目がアンテロープの後ろ足に当たる。長い毛皮の下にある皮膚が赤く腫脹する。


ズルズルと足を引きずるように逃げだしたが、攻撃を受けて赤く腫れ上がった足の痛みに耐えられなくなったのだろう。しばらくするとうずくまって動かなくなった。


 

 

 近づいてナイフで頸動脈を裂きトドメをさす。足に傷を負い血にまみれた獣を見下ろすと憐憫の情を禁じえない。生きるためとはいえ元現代人にとっては少々辛い洗礼だった。


「やりましたね!見事です。やっぱりレイトさんの能力は見込んだ通りでした」


フィリアの弾んだ声が後ろから聞こえた。こんなことでメンタルをやられている場合ではない。彼女のためにももっと頑張らなくては。


 一日かけて結局六匹を狩ることができた。初めてにしてはなかなか上々の成果だ。街に帰りギルドで換金してフィルネと宿の食堂で夕飯を食べる。


ちょっと奮発して15ルーデル払って、ビールのような発泡酒と鳥の丸焼きを注文する。現実世界と異なり頭が二つあるチキンが酒とともに運ばれてきた。


「今日は僕のおごるよ。これまで散々世話になったからね。」


「いえ、二人でこなしたんですから割り勘です!それにもう仲間じゃないですか。水臭いこと言わないでください!」


そういうとフィリネこちらにもたれかかってきた。柔らかな体の感触が服越しに伝わり、彼女の髪からほのかに甘い花のような香りがして思わず息がつまる。


「そうだな、初任務成功に乾杯!」


久々に腹一杯に食べて飲んだ。初めはどうなるかと思ったがこんな生活も悪くないかもしれない。



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