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現代医学の破壊魔法  作者: たけなか
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第03話 魔法と医学



 二人で歩き始めて半日は経過しただろうか。どうやら僕が倒れていたのは森のかなり奥で、街に着くにはあと丸1日は歩かないと行けないらしい。ゴブリンたちに襲われた時にフィリアが助けてくれなければ、たとえ逃げきれていたとしても森の中で迷って野垂れ死んでいただろう。


「すこし疲れましたね。あそこにある川の近くですこし休みましょうか」


「そうだな。半日以上歩きっぱなしだし流石にくたびれたよ」


 途中休憩のために小川に立ち寄り水を飲む。清らかな水面に自分の姿が揺らいで映ると驚きのあまり思わず水を吹き出した。栗色の微かにカールした髪に微かに幼さの残る顔立ち、明らかに別人になっている。年齢は16、7歳の少年といったところか。


初めは別の人間へと生まれ変わったのかとも思ったが、年齢も中途半端だし森で行き倒れしていた時点で不可思議だ。転生というより死にかけのこの世界の住人に偶然、僕の記憶と魂が乗り移ったと考えるのが自然かもしれない。


そんなことを考えながら近くの倒木に腰をかける。うっすらと生えた苔のおかげで柔らかな座り心地だ。しばしの森林浴を楽しんでいると横にフィリネを腰おろした。流石に少し疲れたみたいで彼女は小さく息を吐くと体を伸ばした。



「ここまで連れてきてくれて本当にありがとう。僕一人じゃ間違いなくこの森から抜け出せないと思うよ。さっきは色々な魔法を使っていたけど君は何者なんだい?」


「私はまだ駆け出しだけど冒険者なんです。パーティには入っていませんが……そういえばあなたこそあんな森の奥で何をなさってたんですか。もしかしてお仲間とはぐれてしまったのですか?」


 フィリアは隣町からエルシニアへ依頼品の輸送をしている途中、僕が襲われているのを見つけて助けてくれたみたいだ。


「それは……実はここに来るまでの記憶がないんだ」


正確にいえば嘘だが前世のことを語っても話がややこしくなりそうなので、前世の記憶のことはひとまず黙っておいた。


「記憶喪失ですか…… 街に行けばもしかしたら知り合いの方がいるかもしれませんね。とりあえずついたら広場や市場をすこし探してみましょう。何か記憶の手かがりになりそうなこととか覚えていません?」


「本当にさっぱりだ。君の見せてくれた魔法についても全くわからないし、ここがどこかもさっぱりわからないんだ」


「それはかなり重症ですね…… ここは王国西方の森で、今向かっているエルシニアは西方の交易の中核をなす街です。ここを拠点に隣国との貿易をしてるんですよ」


「そうなのかー」


残念ながら彼女の説明を聞いても僕はここがどこか全く理解できなかった。王国って一体どこの国のことなのか。だが、間違いなく地球にある国ではなさそうだ。そもそも当然のように魔法やモンスターのいる場所、完全にファンタジーの世界。これまでの常識は一切通用しないと考えたほうがいいだろう。



「魔法に関してはゼロから説明すると長くなるので、道中ゆっくりお話ししましょう。他にわからないこととかはありませんか」


「そういえば君がやっている冒険者っていうのはなんなんだい?」


「それはですね……」


冒険者−−−彼女の話を聞くには傭兵業から狩猟、トレジャーハントのような事までまとめて行う業種だ。冒険者という名称からてっきりRPGでよくあるダンジョン探索や冒険をする職業かと思ったが、どうやら中世の傭兵と狩人をまとめた職業みたいなものらしい。危険な代わりに儲けも大きく、人手不足ゆえ素性が不確かでも登録できるようだ。


「結構危険なことも多いですけど、依頼をこなしながら世界中を冒険できる素敵な仕事ですよ。それに難しい依頼をこなせば他の仕事じゃ考えられないような大金をもらえることもあります」


「仕事か……」


そういえばこの世界で何をして生活しよう……


異世界といっても生きていくためには何か仕事をしなければならないだろう。ニート生活と勉強しかしてこなかった僕に生活力は皆無だ。コンビニのバイト仕事ですらやったことがないのに異世界で働くなんてハードルが高すぎる。




それにこの世界にはさっき彼女が唱えたような高度な回復魔法がある。そんなすごい魔法があるなら僕が学んだ医学知識なんて全く役に立たないじゃないか。声の主は僕にこの世界の人々を救えといったが、魔法も使えない僕はこの世界を救うどころかまともに一人で生活していくことすらできないだろう。


「大丈夫ですか? 何か深刻そうな顔をしてましたが」


「いや、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけだよ」


「何も覚えていない状態で不安になるのは当然ですよ。助けられることがあれば言ってください。私でよかったら相談に乗りますよ」


「本当出会ってから助けてもらってばっかりだな。迷惑じゃないか?」


「いえいえ、旅は道連れ世は情けです。一人旅より二人の方が楽しいじゃないですか。全然迷惑じゃないですよ」


彼女の優しい言葉に思わず涙腺が緩む。もしこの世界で生き延びることができたならこの恩は必ず返すと僕は心の中で密かに誓った。



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