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現代医学の破壊魔法  作者: たけなか
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第02話 出会い



 しばらく森の中の小道を進んでいく。木々の間を吹き抜ける爽やかな風が気持ちいい。木々のざわめきと鳥のさえずりを聞いていると心が癒される気がした。


 生前の世界で疲弊していくよりも、この世界でのんびりと暮らすほうがいいかもしれない。そんなことを考えていると後ろの茂みで何かが動く物音がした。


「なんだ……?」


振り返ると、そこには緑色の小人が3匹いた。上半身は裸で手に棍棒もっていた。歪んだ頭蓋骨に長い犬歯、大きく尖った耳と鼻は小人というよりゴブリンのようだ。なにやら低い唸り声をあげてこちらを威嚇している。


『ゴリュギュアギュアアァァ!!』


 どうやらうっかり彼らの縄張りに足を踏み入れてしまったらしい。嫌な予感がして後ずさると、3匹は棍棒を振り上げ飛びかかってきた。


「うあああ!」


思わず叫んで逃げ出す。せっかくまるで天国のような土地にやってきたのに、いきなりこんなモンスターに襲われるとはつくづく運がない。


 小さいくせにゴブリンたちの足は速く、すぐに追いつかれてしまった。後ろから棍棒の強烈な一撃を食らい倒れこむ。頭を守りながらうずくまると奴らは容赦無く背中を殴ってきた。背中に激痛が走り、身体中から血が吹き出す。もうダメだと思ったその時……


「アクアレティルアーク!」



どこからか少女の声が聞こえた。


 すると虹色に輝く水の矢がゴブリンたちに降り注ぐ。水が鋭い刃のようにゴブリンの緑色の皮膚を切り裂いていった。鮮血が飛び散り、獣の呻き声が森に響く。数分がたち水の矢が降り止むと3匹はズタズタに引き裂かれて息の根は完全に止まっていた。


「大丈夫ですか?」


水の呪文を唱えた声の主が駆け寄ってくる。顔をあげると青いローブを着た銀色の髪の少女が心配そうに覗き込んできた。


「助けてくれてありがとう、僕はレイト。君の名前は?」


「私はフィリアと申します。あら、あなた随分ひどい怪我をしてますね。よく見せてください」


さっきゴブリンに殴られ背中から血が流れている。自分ではよく見えないが服も裂け内出血もひどいようだ。鈍い痛みを背中全体に感じる。


「ちょっと服を脱いでくれますか」


 穴があき血に濡れた上着を脱ぐと、フィリアは少し顔を赤らめ目線をそらす。この子は男性にあまり慣れてないのかもしれないな。背中を出してうつ伏せに寝ると彼女は杖を持って呪文を唱えはじめた。


「レフェクティオ 再生の光よ傷を癒せ!」


彼女の声とともに魔法陣が現れて僕の体は白い光に包まれる。体がじんわりと暖かくなり、背中の疼痛が徐々に消えていく。しばらくして背中を触ってみるとさっきの大きな傷が嘘のように縮んでいた。


「すごい!魔法で傷が小さくなっている」


「初等回復魔法です。そんなに驚くほどのものではありませんよ」


 光が消えると痛みはほとんどなくなり傷の大半は塞がっている。僕は彼女の唱えた創傷を治癒する回復魔法に驚きを隠せなかった。瞬時に外相を治せるなんて現代の西洋医学よりすごいじゃん。



「終わりましたよ。まだ完全に塞がったわけではないので、あんまり激しく動かさないでくださいね」


彼女は微笑むと、羽織っていたローブを脱いで僕の肩にかけてくれた。


「本当に親切にしてくれてありがとう」


見ず知らずの相手にここまでしてくれるとは、彼女はなんてお人好しなんだろう。


 一時はどうなるかと思ったが、優しい人に出会えて幸運だった。しかしそれと同時に僕は不安を感じた。どうやらここは極楽浄土や桃源郷というわけでなないらしい。それどころかファンタジーにいるようなモンスターが生息しているかなり危険な世界みたいだ。


そもそもこの世界で、現代日本で生まれ育った僕は生果たしてき抜くことができるのか。魔法はおろか剣や弓矢ですら触ったことがない。これまで学んできた知識もすぐに役に立つようなものではない。せめて救急救命医とかになってからだったらマシだったのにな。



 色々な悩みが浮かんできて思わず頭を抱えていると、フィリアは僕の手をとって言った。


「レイトさんは森で迷っていたのですか?それでは私とエルシニアの街まで行きましょうか。そこまで行けば、今いる森の中よりは安全ですよ」


彼女は紺碧の瞳で僕の顔をまっすぐ見つめてくる。


「一緒に来てくれるととても心強いです。助けてくれてそのうえ道案内までしてくれるなんて、感謝の言いようがないです」


「そんなことないですよ。目の前でモンスターに襲われている人を見殺しにはできませんよ。それに一人ではつまらなかったので貴方が道中の話し相手になってくれると私も嬉しいです」


そういうと彼女は頬をうっすら桃色に染めてはにかんだ。本当に可愛くて優しい子だな。いきなりモンスターに襲われるなんて、とんでもないところにきてしまったと思ったが、こんな親切な子と出会えただけでもこの世界に来た価値はあるのかもしれない。僕と彼女はエルシニアの街を目指して歩み始めた。


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