旧人類
コンクリート打ちで巨大な部屋。
足音が大きく響く。4人。僕と、他の「旧人類」のやつら。
僕が目を開けたのに気づくと、一人が僕の前に立った。
「おはよう。宮部摩耶さん」
「僕をどうするつもりですか?」
「なにもしない」
「なにもしない?」
「何もしなくてよい。会長があなたの今後の行程を決定する。ただ、その前に少し世間話をしよう。それは私たち、旧人類の話だ」
「旧人類は古代ムー大陸で文明を築いた人間を指す」
「旧人類は科学技術の粋を極めた存在だった。いまの人類よりもどんなに素晴らしく、どんなに美しいものだったか・・・」
「しかし、旧人類が操っていた旧人類と似た存在、新人類が知恵を持ち始めた。旧人類と同化し始めたのだ。
それにより内戦が始まり、使ってはいけないと決められていた遺伝子兵器を使い、旧人類の人口は全盛期から分の1に減ってしまった」
「旧人類は日本軍によって壊滅させられた村だけが旧人類の住処だったわけではない。東南アジアだけではない、地球上の様々な場所で散らばって住んでいる。
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、北アメリカ南アメリカ、そして日本にももちろん存在している。
そして、私達も地球上数少ない旧人類の生き残りなんだよ」
「右手を見てみろ、これが我々が旧人類であるという証拠だ。正確には体内埋め込み型記憶共有システム」
「これを額に当てると、こうだ」
指をおしつけられて、額が痛い。
何も感じてないけれど、しかし向こうは何かを吟味しているような表情で眺めていた。
「ずいぶんと面白い情報だ。君は、新人類が送り込んだ諜報員で目的は我々の求めているロボットの破壊。では敵ということなのかな?」
聞かれてもいないのに、身分まで・・・・・・、なぜ?
「やめてください!僕は、僕は和美ちゃんを殺したくはないの!」
「くどい!組織が君に命令したのならば、それを完遂するのが諜報員の役目ではないのか?」
「あなたたち新人類ではフィーネを制御できない、フィーネは世界の外側からきたもの、fineは私達が世界を救済するのを導くために現れたもの」
「フィーネを新人類の兵器の一部として使っている、それも心、精神を操るための機械としてだ!なんという皮肉なのだろうか!」
「だから我々としてはフィーネを引き取り、その有機回路を摘出し、対処をする。君たちには扱うことなどできない。正確に取り壊さなければ彼女はまた、動きはじめるのだ。」
「鉄屑に戻って、この地球はまた平穏に戻る。旧人類の二の舞は避けることができるだろう」
「あの有機回路は旧人類が開発した最強の兵器なのだ。悪という悪の存在、破壊しつくし、根絶やしにする。正義なんてこれっぽっちも存在しない。
ただ、そうプログラム通りに」
「・・・組織の一部である、その時点で君はもう敵なのだ」
銃口を向けられる。
「知るべき敵の情報は得られた。よって今から適切に処理する」
胸のあたりに焦点をあてた。確実に始末するつもりだ。
キュルルルルル。
タイヤがコンクリを噛む音が、遠くから響いてきた。
遠くから見えたその姿はカナちゃんだった。
「カナちゃんも捕まったの!?」
しかしカナちゃんは答えない。
そのまま僕の目の前で止まった。
恐怖の色は無い、みたい。
「ちょっとお時間、よろしいかしら」
「はっ!」
何も言えなかった。緊張感が崩れ落ちていく、と共にカナちゃんに対する疑問が一気に湧き出た。
「う・・・嘘でしょ?なぜ、カナちゃんが」
僕の声を無視して、カナちゃんは続けた。
「彼女は私の友達です。だから、命だけでも助けてあげて頂戴。たとえ彼女がまだ諜報員だったとしても、彼女には敵意が無いわ。
今すぐ銃を下ろしなさい」
タキシードは眉間にしわを寄せた。処刑場はしばし沈黙の時を刻んだ。
「チッ、仕方がありませんね。会長がそうおっしゃるのなら。
ただし、何かあった場合の責任は取ってもらいますからね」
「はい、はい。あと下がってもらえるかしら。少しガールズトークがしたいの。」
タキシードはコツコツと、奥の部屋に入っていった。
「か、カナちゃん。なんでこんなところに」
「まずは感謝の言葉じゃなくて?宮部麻耶さん」
あのカナちゃんじゃない。これが、かなゑかなの本性。
確かに彼女は笑わなかったが、この表情は無表情より、恐ろしい。
目からは人を凍りつかせ、束縛させるような恐ろしい殺気を感じる。
「ありがとう?カナちゃん」
「どういたしまして」
面白くないかのように返事をした。
「じょ、冗談でしょ?」
パン、と乾いた銃声が建物の中に響く。
「これもまた、冗談というのかしら」
「す、すみません。ありがとうございます」
深々とお辞儀をした。
歯ががちがちと鳴る。
カナちゃんがこんなことに・・・!
なんてことだ!これは悪夢に違いない!
「今、悪夢じゃないかと思ったでしょ?これは現実、リアルなの。現実から目を背けてはだめ。あなたはそうやって目を背けたがる。そうやって諜報機関から逃げ出したのでしょう?」
「秘密結社TERRAに所属していた。しかし今回また復活して特別な任務に就いた・・・」
「『KAZMI』通称森和美の破壊、処理をすること。あなたたちもそういう『人』だったのね。
まさか、こんなところで代理戦争が勃発していたなんて、人類は戦争が大好きね。神様、もとい私がきいてあきれるわ」
「神様だって?」
彼女が車いすから立ち上がった。
車いすはフェイクだったのか?
いまさらそんなことはどうでもいい。
「そうね、神様。神様だけれど、神様ではない存在。
私は神様未満、人間以上といったところかしらね、ぷふふ」
かなゑかなは、一人で笑っていた。
「どういう寸法かというと、私はかなゑ家と契約したの。榎本家対策としてね。人間って汚いわね。結局お金が欲しかっただけなのよ。まぁ、私としても身体が手に入るということだったからどうなろうと良かったんだけど」
「ま、まさか、ヨイノムクロ?」
「そうよ。でもヌバタマではない。ヌバタマになるときに欠けてしまった魂というべきかしら?でもよく知っているじゃない。偉いわね。あの男に教えてもらったのかしら?」あの男って、先生だ。
「あの男をうまく処理できればと思ったんだけど、まさかのこんな女子供に情報が渡されるなんて思ってもみなかったわけよ!アハハハハハ!!」
ケタケタと笑う声が、薄暗い処刑場に響く。
「じゃあ、村長の娘さんを殺したのは、かなゑ、かな・・・!」
「さぁ、真相を知っているのはあなたの方じゃなくて?」
「えっ・・・」
「さあすべてあなたは知ってしまった。最後の処理は私が直々にしてあげるわ」
「アンタなんかに殺されるのは、まっぴらよ」
「ッ!?」
「まさか、神である旧人類様がこんなことを分かっていないなんて、お笑いだわ」
ボールペンを首筋に突き立てる。死に方は幾万通りあるんだ。
「では、さようなら、神様」
勢いよく手を外に回す。その反動で、刺す!
手を外に振った瞬間、爆発が思いもよらない場所からなった。
それは天井からだった。
「あのジジィ、生きてやがったのか!」
「そんな事もあろうかと、メイドロボをワシの外見にすりかえておいて良かったわ、ガハハハハハハ!!」
ヘリコプター上からバズーカを縦横無尽に放つ博士。まさにマッドサイエンティストの冠にふさわしい行動だ。
その隣には険しい表情の和美ちゃん。
右手には外に垂らした長いロープの先をしっかと握りしめている。
どうやらこのロープにしがみついて逃げろって話か、でもその前に、カナを抹殺しなければ。
「かなぁぁぁぁぁっ!!」
身体が爆風で飛ばされた?粉塵で見えない。
もう一度目の前に現れてみろ。殺すつもりだ。
「フフッさすが。逃げるのは得意なようね。ではまた会いましょう・・・」




