あぶない
「石田さん。石田さん」
女性警部補、水谷佳代子。
彼女は事件後に来たため、石田と同期なのだが、年の差からか、後輩扱いとなっている。
「ああ、なんだい?」
「実は、今日私の誕生日なんですよ!」
「ああ、そうかいそうかい」
石田はそれがどうしたという顔で返事をする。
石田は彼女がすこし厄介だと思っている節がある。
最近の若い女性はこんなものだったのか。少なくとも俺とは合いそうがない。
年の差は15もある。
それくらい離れていたらやはり全然違うものだ。
「ということでですね、私買っちゃいました!!ホールケーキ!!」
「あと10分でケーキ屋さんに取りに行くので、その間をよろしくお願いします!」
「ああ、わかったわかった。あとは任せておいてくれ」
そのまま帰ってこなくても業務は成り立つだろう。
なんにしろこの交番は私が来てから一度も事件が起きたことはない。
今月だって迷子のおばあさんを家まで届けただけだ。
「では行ってまいります!」
形だけの敬礼で彼女は出て行った。
ふわぁ・・・。時計を見るともう深夜11時。
コーヒーを注ぎにいくか。
交番が見えてきた。
やっと、やっと言える。
「すみません!!」
声は枯れ、へとへとだ。
男性が出てきた。とっさに表情を柔らかく、迎え入れてくれた。
「どうかしましたか?」
和美ちゃんはもうヘトヘトになって、壁にもたれかかっていた。
「私たち、殺されるんです!」
その一言で、さっきまでの穏やかな顔が豹変した。
「まさか、あの事件の!」
男性の顔が豹変した。あの事件、あの事件?
そうだ、あの事件だ。僕たちはあの事件のせいで、すべてが終わってしまったんだ!
「助けてください」
「僕らは、唯一の証人です!」
「それで、経緯を話してくれるかな」
「先生が消えて、和美ちゃんの両親も消えて、それ以外のことは何もわかりません」
「うーん・・・なるほど。これじゃ動機もわからないなぁ」
温かいお茶をすする。
和美ちゃんはブルブルと震え、僕の背中につかまっていた。
「安心してください。僕が二人の身柄を保護します。それが警察官の役目ですから」
警察官は落ち着いた声で話している。たぶん僕たちを落ち着かせるためなんだろうけど。
「和美さん、麻耶さんも、守りますから」
そうだ!カナちゃんが!!
「カナちゃんが危ない!カナちゃんも消される!」
「その、カナちゃんとは?」
メモを握り締める警察官。顔は落ち着いているが、内心とても緊迫しているのだろう。
「かなゑ、かなといいます。小学5年生で、車椅子の少女です。少し前に転校してきました」
「わかった。同僚がいま外回りに行ってるから、帰ってくるときに確認するように言っておく」
「急いでください!奴らの存在は僕たちの一足先にいるんです!」
「わかった、連絡しておくよ」
「僕たちは、この先どうなるんでしょうか」
「私がきちんと人命を守る。そのための警察ですから」
水谷君が帰ってきてくれたようだ。
手にはビニールに包まれたケーキ屋の箱。
本当に持って買ってくるとは。
「じゃあ、皿でも用意しようか?」
「お願いしますぅ!」
まったく、俺が皿を用意するのか。
後ろを向いた瞬間、カチャリ、鉄の塊を額につきつけられる。
「へ?」
女性は、今まで装っていた表情を脱ぎ捨てた。
おもむろにトランシーバーを取り出し、話し出した。
「本部、本部。検体を見つけました。処理と捕獲を行います。どうぞ」
「水谷くん!なぜ君は彼女たちを殺すんだ!」
トランシーバーの話す手を一時的にとめ、反応した。
警察官は機械的に返事をした。
「いえ、処理です」
モノを見るような目つきで僕たちを見つめる。
気持ちが悪い。しかし、後ずさりもできない。まるで石になったようだ。
カナちゃんは腰が引けてしまった。僕らは、もう何をされるがままだ。
「私にベタベタとくっついているのも何かおかしいと思っていたんだ・・・、チクショウ」
「では、一分後に。よろしくお願いします」
「目標物01、捕獲完了」
「お、おい、どうなっているんだ!」
「私、買われたんすよ。旧人類に。
だから、少しおとなしくしていてもらえませんか?」
水谷は吐き捨てるようにつぶやきながらスタンガンを石田に当てた。




