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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
59/73

つくりもの

「行ってらっしゃーい」


『行ってきまーす』


駅は二時間に一本の超スローペースのため、駅まで走っていかなければならない。


次は10時発の電車か。風になびく和美ちゃんのロングヘアーが素敵。やっぱりさらっとした髪は映えるなぁ。


「私の髪は見られるために付いてませーん」


視線に気がついていたようだ。よし、それなら!


「和美ちゃんの髪っていい香りがするよね?、かがせてっ!」




むんずと和美ちゃんの髪をつかむ。


「シャンプーおんなじなんだし、別に髪の香りは一緒じゃないの?」


走りながらなので、体勢がきつくなる。


僕はつかんでいた髪を離すと、和美ちゃんの体勢ががばっと崩れ、倒れる!


それに合わせて僕も倒れる!バシィッ!


幸い近道の芝生だったから、良かったけど。




「ごめん・・・」


「ああ!もう時間がない!あと10分!」和美ちゃんは悲鳴を上げた。


見ると9時50分。


「大丈夫」なぜかその言葉が僕の口からついて出た。


僕は和美ちゃんの手をとって走りだした。


駅まであと500m。がんばれ僕の体!


駅についた。時計を見ると9時58分。なんとか間に合った。


良かったよかった。




そうして僕と和美ちゃんは電車に無事乗ることができたのである。


「そういえばカナちゃんは来ないの?」


「カナちゃんと出会ってちょうど一ヶ月で、なにかお祝いしたいなーって私が出来るマジックを披露したいなって」


「それでマジックのタネを買いたいなーってことで、ここにきたわけよ」


「麻耶ちゃんにも見せてあげるわ」


実に楽しみだ。ぜったいタネを明かしてやろう。




カタンカタン、と二両編成の電車が走る。


5分ぐらいの長い山のトンネルをくぐると、そこには開けた町が広がってきた。


「人口9000人のうち、8500人があっちの地区に住んでるからね。開けてるのは当たり前だわ」




「下ノ瀬、下ノ瀬」キキぃ。と電車が止まる。


休日だからか、降りる人が多い気がした。


駅を出ると、温泉街の看板が目につく。


駅のロータリーにはもう目当てのバスが止まっていた。


「和美ちゃん。ここの地区って温泉が出るんだね」


「いや、こっち社木地区もでるんだよ。でも十分な観光資源になりにくいから掘ってないだけ」


「じゃあ、何が観光資源なのさ」


「何もないのよ」「何もない?」


「そう。何もない」




これじゃ当たり前だけど人が来ないだろうな。


まさに自然の要塞だ・・・。


バスを使って20分のところにそのお店はあるという。


僕達はバスに乗り込んだ。


すでに冷房がついていて、とても涼しかった。満天の青空と白い雲。


毎日がこんなに綺麗な空だったらいいのに。僕は空を見ながらそんなことを考えていた。


バス停に降りた時にはもう11時。




ついた先は百貨店だった。


「あれ?マジックのお店は?」


「まずはここで最新の服の流行をチェックしなきゃ!」


百貨店は涼しく、冷房がバスよりも効いていて少し寒かった。


でも外に比べればちょうどいい温度だ。


2階へは大きな階段で上った。和美ちゃんはウキウキしながら登っていく。


そして女性服コーナーへと足を運んだ。




「今年はこういう色合いなのね」


シャツの端の色を真剣に見ながらメモに細かい色の名称を書く和美ちゃん。


「和美ちゃん、どうしてそんなことを?」


「家に帰ってこういう色のハンカチを作りたいなあって。


レディーなんだからこういう流行りの色くらいは押さえておかないと!」


「レディーってそんなものなのかなあ」




3階に上ると様々なファストフードの店がひしめき合っていた。


「ラーメン食べにいこ!ラーメン!」


和美ちゃんがにっこり腕を引っ張っていく。


「レディーはラーメンを食べるんですか・・・」


「レディーはたくさん何でも食べるのがいいの!あっ、豚骨ある!」


食品券を買うシステムが導入されているらしい。僕は醤油ラーメンを、


和美ちゃんは満面の笑みで豚骨のボタンを押した。




女子二人でラーメンというのもいいものだね。


和美ちゃんがレンゲの手をとめた。


「でもさ、」


「先生の話はさ、しないでおこうよ。周りの人に聞かれたら物騒だし、さ」


「うん・・・」


しぶしぶと和美ちゃんは頷いた。




もちろん僕もその気持ちはわかっている。


犯人を見つけたい気持ち、自分が消えてしまうんじゃないかという気持ち、様々な気持ちが入り交じっている事は。


ビーチサンダルの子どもたちが店内を走り回る。


夏だなぁ・・・。ガラスから見える白い雲が、今日だけは何故か不気味に感じた。




それはこのあとの事実を予見していたのかもしれない。


そういうことで僕達は無事にマジック専門店にたどり着くことができた。




しかし、特に特徴のない商店だ。若干寂れている感じも他とは変わらない。


「おもしろいお店」と和美ちゃんは言っていたが・・・はて?


カランカラーン、と軽いドアベルの音が鳴り響く。


見るからにがらんどうだ。あるのは机と椅子だけ。


「おじさーん、いるー?」


中には誰もいませんよ?




すると、足音がどこからともなく聞こえてきた。


上か、奥か?・・・下だった。


ちょうどテーブルの下が入り口になっているらしい。がぱっと床から手で「こっちへ来い」と催促された。


机をどかし、下に入る。和美ちゃんは軽々と入っていった。


降りてみると鉄の螺旋階段になっていた。風が下からピュウピュウと吹き上げていた。結構深いとみた。


下を除くと闇になっていて、コンクリート壁に等間隔でにランタンが引っ掛けられている。




前には和美ちゃんと、その店主らしき人が降りている。暗くて素性がわからない・・。


まだまだ続く・・・一体どこまで下がるんだ・・・。


ぼんやりとした光が見えた。もうすぐか。


和美ちゃんらが中に入っていく。僕も入らなきゃ。


ドアノブを回し、数歩歩くと店主と見られる男性が詰め寄ってきた。


「君は、麻耶さんかね」見た目は白髪のただのおじいさんだ。


「は、はぁ」部屋は見た所”マジックのタネ”屋さんではない。


よくわからない数値をたたき出している機械や、派手なビープ音を奏でている箱。


科学者と言ったほうが良いのではないだろうか。


とりあえず和美ちゃんがウソを付いているのは分かった。




「和美ちゃんの友人だそうな」


「ええ。よく仲良くさせてもらっています」そういうと、おじいさんは笑顔になった。


「お茶はいらんかね?」小汚いプラスチックのカップになみなみとお茶がついである。やめとこ。


「あのぅ、ここってなんですか?」


和美ちゃんが割って入ってきた。


「だから、マジックのタネのお店だよ!」


「しらばっくれるのはやめなよ、ここは、」


「ちょっとまて、麻耶さん」


「なんでですか?」


「和美ちゃん、ちょっと外に出ていてくれ」


鍵をかけ、ふぅと息をつくと、話し始めた。




「十数年前。わたしは一人の少女を生み出した。もちろん生物学的な生み出し、ではない。


当時のわたしの知識、経験、そして好奇心から創りだされたロボットだ。


機種名は”KAZMI”。もう分かるだろう?」


そんなフィクション、あるわけがない。ちゃんちゃらおかしいお伽話だ。


「脳はアメリカで研究されていた自立思考性記憶付随AIチップをパクってきた。皮膚、臓器は全部当時の最先端技術の人工皮膚だよ」


「わたしは出来上がったKAZMIを溺愛し、親子のような関係だった。しかし本物の親子にはなれなかった。所詮は創造主だったのだ」


「だからわたしはAIチップをコピーし、親のプログラムを作り、親も生み出し、家を買い、ペットの犬までも買った。


これで本当の家族になったのだ!当然わたしとの関係も消そうと思った。


だが、最後のわたしのKAZMIへの歪んだ愛情がそれをさせなかった」



博士は自嘲した。



「彼女にとってわたしは今はマジックのタネ屋さんとして存在しているわけだ」


笑うしかなかった。あんなに感情豊かな和美ちゃんが、ロボットだなんて、


あんな真面目で可愛い和美ちゃんが・・・そんな・・・。


「ちょっと前、君の学校の担任が消えただろう?」


「なんでそのことを知っているんですか!?」


「彼女には弱点があった。その弱点がこの事件を引き起こしてしまった」


「その弱点は!?」




「彼女の精神はまだあやふやなのだよ」


「どういうことなの?」


「彼女は”生まれて”すぐに、とある謎のプログラムエラーが発生した。


どこを探しても原因不明、体には異常がなかったので放っておくことにした」


「彼女は日増しにわたしに対して”隠し事”をしてきた。しかし、なんであるのかはある程度は予測できた」


「わたしは”それ”を抑制するための電子チップを脳に投与し始めた。


しかし、週間で彼女のAIの成長スピードにチップが追いつけなくなった。


だからわたしは定期的に彼女にこさせるように仕向け続けていた」


「成長・・・、か」




「ここから本題だ。そして今回の事件。その日付は投与した翌日なんだよ」


僕は頭をこづかれた気分になった。あれっ?どうして・・・?


「このことを知っていて、外部に教えている内通者がいる。わたしの研究を知っている奴がいるのだ」


いとも簡単におじいさんは答えた。しかし、その答えは非常に残酷な意味合いを持つ。


つまり、外部はなにかこの案件に意思を持っているということだ。


「その後に不思議に思って彼女のAIを調べてみたら、なんとびっくり、チップが取り外されて、


代わりに新しいチップがついていたのだ」




「もちろん、今は取り外しているのだがね」


「調べてみたところ、チップは私の持っているやつより高品質みたいだ」


「そこで質問だ。君はそういった彼女と外部との接触を見たことはあるか?」


もちろん、あるわけがない。ありえないのだ。




「な、何を言い出すんですか!僕じゃないです!絶対に!」


僕は感情のあまり勢い良く立ち上がってしまった。


「いやいや、すまんな。すべてを疑うのが研究者の役割なもので、その性格が出てしまった。」


「ああ、もちろん。君じゃないだろう。だが、気をつけていてくれたまえ。ヘタすると君も、消える羽目になるのだよ」


「そして忠告だが、くれぐれもロボットということを彼女には伝えんでほしい。わたしからの最期の親としてのお願いだ」


ドアからどんどん、という音。待たせすぎたか。


外に出た時にはもう夕方、夜に差し掛かっていた。




「マジックのお店たのしかったわねー」和美ちゃんは朗らかにそういった。


これも、プログラムなんだよなぁ・・・。


「そうだね」そう、答えるしかなかった。


目と目が合わせられない。


「商店街にいこう。ちょっと外の空気がすいたい。夜でもやっているだろうから・・・」


強引に腕を引っ張り、連れ出した。




ロボットだプログラムだ!すべて、すべて。友情も、愛情も、プログラムだ!


あぁ!信じられない!


ネオン街が見えてきた。僕はそれを突っ切る。ずっと歩き続けた。


彼女の腕を引っ張りながら。


彼女は嫌がらずについていく。友情が怒りのプログラムを押さえつけている。


ヒトだけどヒトじゃない。


人間に似せたロボット。


僕らは橋にでた。見たことのない橋。橋なんてどうでもいい。


僕は彼女の腕を振り払った。


「信じてたのに!その友情、信じてたのに!」


「麻耶ちゃん、あなたが何を言っているのかわからないけれど、あなたは怒っているの?


なぜ怒っているのか分からない!」


「そりゃ分からないさ!」


彼女はわるくない。悪いのは外部の人間だ。”生み出した”人間だ。


なのに、なぜ、なぜ彼女に対してなんとも言えない気持ちになってしまうのだろうか。


橋の上で二人、微妙な関係なのは明らかだった。




ごめん、なさい。


今の僕の目は彼女から見れば、とても濁って淀んだ目をしているだろう。


これが僕の本性なんだ。


「麻耶ちゃん、あせらないで。私も、手伝えることならなんでもするから」


『パンッ』


発作的に彼女の頬を打ってしまった。ヒリヒリとした感触が手に伝わる。


やってしまった。




何もかも、ツクリモノ。何もかも、プログラム通り。


僕はそんなプログラムと共に笑い、泣き、感情を分かち合っていた、と思っていた。


でも、そんな分かち合いも、嘘だったのだ。僕は最初から孤独だったのだ。


もう、これで、平穏な日常”ごっこ”は終わりだ。


やはりここでもダメだったのだ。


「え・・あ・・・」


どうすればいいんだ!もうわからないよ!!


ここでオロオロするのも、プログラム通りって話か。


こみ上げてくる悲しい思いを抑えきれずに嗚咽を漏らしてしまった。




「だ、大丈夫?」彼女はオロオロしている。


叩かれた意味も知らないからっていい気なもんだ。あたりまえか。


「と、とりあえず家に帰ろう?ね?寒いしさ。もう私先に行っちゃうよ!」


確かに寒い。もう12月に指しかかろうとしているこんな時に、一人でいるのは命に関わるだろう。


とりあえず大きな感情は収まったので、僕はぺたぺたと和美ちゃんの後をついていった。




数日後、石田は異動届を提出した。


この案件があまりにも怪しいという勘からだった。


警察官としてのプライドが、この案件を無視して過ごすのは我慢いかなかったのだ。


幸いにも石田は何一つ事件の捜査に呼ばれていなかったので、上司からは寂しがられたがすぐに受理された。


これも信頼の賜物なのだろうか。


これで、石田は社木地区配属となったのだった。




カタンコトンカタンコトンカタンコトン。


線路の反響が闇へと消えてゆく。


社木地区に帰ってきたのだ。


とてつもない真実をお土産に持ちながら。


「今夜の夕飯な何かしらー?」


和美ちゃんは食い意地がはってるなぁ・・・。


坂から見えた夜景は、闇だった。

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