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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
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ササゲミ

「おーい起きなさーい」肩をゆすられる。

朝やけが遠くに見える。いつもならまだ寝ている時間だろう。

僕はまた毛布にくるまる。

しびれを切らしたのか和美ちゃんはドカドカと布団の城を蹴りだした。

こんなことで城をあけわたすわけにはいかないぞ!

しかし城は一瞬のうちに白旗を上げた。

ご飯にはかなわないのであった。無念!


「おはようございます」

見るとお父さん、お母さんが朝食の用意をしている。コーヒーの香りが眠気を綺麗に立ち消えさせた。

机の上に弁当が2つちょこんと置かれていた。

僕も家族の一員かぁ・・・。なんだか、うれしい。

「麻耶ちゃんの好きな食べ物がわからなかったから、昨日の残りを入れておいたからね?」

台所でお母さんが言っていた。弁当?


「なんで弁当が必要なんですか?今日は学校がないはず、」

「お祭りの準備のお手伝い。夕方までには完成させないといけないから、早くし始めないといけないの」

横から和美ちゃんが入ってきた。

「夕方から、ですか。結構舞台とか大きそう」

「この地区の一大イベントだからね。ここの地区の人々にとっては。これのために生きているって言っても過言ではないのよ?」

「さあ、朝食ができましたよ?」


テーブルには、新鮮なサラダ、ゆでたまご、そして小麦色にカリカリに焼けて、

その上に溶け出している黄色のバターが上手にマッチしているパン、

そして、この朝食の引き立て役のホットミルク。

食事のいちいちが可愛らしく、僕の乙女心をくすぐる。

和美ちゃんはそれを当たり前かのように食事し始める。 

まったく。恵まれたものはこの与えられた豊かさに感謝しないんでしょうかね。

とみると、和美ちゃんの朝食のお盆にだけ、なみなみと水の入ったコップが三杯おかれていた。


「和美ちゃん。それは薬を飲むのにしては多すぎるけど・・・。どうしたの?」

「ああ、これはね、ササゲミの練習に。毎日これをのんで水に慣らさなければいけないの」

「結構ササゲミはきついらしくてね。

今ではもうこの水を三倍飲むのも楽になってるけど、それ以上本番で飲まなきゃならないからもっと追加してもらわなきゃ」


「よかった。僕がササゲミの役にならなくて」

「ササゲミは美少女しかなれないらしいから、選ばれないのは逆に残念、じゃなくて?」

いっぱしに返し言葉を吐けるようになったか。

また友情が深まっているな。

にしても僕はなぜ選ばれなかったのだろうか。

引っ越ししたてで分からなかったのか?十五歳は僕と和美ちゃんだけだったし。

ううむ。謎が深まる。


一口、パンをかじる。

小麦の芳醇な香りが口腔内に広がる。

それをホットミルクで流し込む!

ミルクとパンは絶妙にマッチし、それは上手な二人三脚のように旨味を増幅させていく。

次にサラダだ。美しく、新鮮な緑に染まった宝の山を、次々に口に入れる。

そして最期の大トリ、ゆでたまごだ。


ゆでたまごの皿に塩、マヨネーズが乗っかっている。

そして僕は迷わずに塩を選ぶ。

なぜかって?好きだから!

塩はひとつまみがベスト。そして、ひとかじり。黄身が上手に半熟だ。

お母さん。これは手馴れているね。ゆでたまごを食べ続けてきた僕だから分かる。

「どうしたの?麻耶ちゃん」


端から見たら死んだような目をして朝食をばくばく食べていたのだと後になって和美ちゃんから聞いた。

なら途中で言ってくれればいいものを・・・。


朝、僕宛に郵便物が届いた。

和美ちゃんの家に引っ越したことがばれている。

僕には時間が無い。

何と言わなくても、これは・・・。

和美ちゃんの最期をみとることになるか、使わずに一緒に死ぬか。

一緒にいられるなら、本望だ。


死ねたら、本望だ。

でも、できるのなら、ずーっと、死なずに生きてゆきたい。

そのためならなんだってする。

だから、だから・・・。

僕は鞄の中に思いっきり「それ」を突っ込み、和美ちゃんの後を追った。


家からじゃり道で30分。ちょっとこんもりしている山の頂上だという。「ちょっと」が気になる。

やっぱり思ったとおりだった。都会っ子は軟弱だと言われるのはしょうがないのかな。

頂上にたどり着くと大きな木が目の前に現れた。

今まで見たことがないほどの威圧感。


神社などのスピリチュアルにまったくうとい僕だけど、この場所は神聖な場所なんだなということを

すぐに悟った。ただ木が一本立っているだけなのに。

なるほど。その木には一つ、記号が彫られていた。

二重丸から一本線が真下に直線的に引かれて、その一本線と二重丸の接するところから右下、左下にも向かってまた線が引かれている。

つまり二重丸に三本線が引かれているわけなのだが、それは何なのだろうか?

シンボル?文字?とにかくその記号がより異質さを醸し出しているのは確かだ。


「ああ、和美ちゃんがササゲミの役か。頑張りぃ」

「ありがとうございます」

年老いた男性が和美ちゃんと木のそばで談笑している。

ササゲミのざっとしたことは先生から教えてもらったけど、じゃあお祭りってなにをやるんだろう。


「あ、あのう お祭りってなにをやるんですか?」

「ササゲミかい?それは珍しいからなぁ」

「いつもは神輿が来て終わりなんだが、今回は神輿の後にササゲミがあってなぁ、その時に今日の社木地区の主役、

和美ちゃんが祭壇にある聖水を飲み干すって工程だ」


「聖水、ですか」

「ああ、聖水だよ。この近くの清流から流れているんだ。

それを朝汲んでおいて、それを夕方に沸かして飲むんだ」

「すごいですね」お湯を飲む?

さっきの男性がリアカーに色々と入れている。


「さあ、組み立てるぞ!」

大木の前に木の机があり、その木の机から赤いカーペットが一直線に敷かれている。

その両脇には円柱の木の棒が本づつ並べてたってある。

円柱をたてるのが僕達の仕事だ。

日本の祭りとは思えないようなものがたくさん目に入る。


「これって日本のお祭りなの?」

「知らないの?日本のお祭りなんて、たいていの神社は最近にできたものなのよ?」

「ふうん」

「だから、昔はこういった奇抜なお祭りがたくさんあってもおかしくないの」

「これでよし、と」


満足そうな顔で和美ちゃんが見上げた。

もう夕方だ。山からの眺めも素敵。

人々の熱気と喧騒が下から聞こえる。もうすぐ祭りの始まりだ。


いつもの古めかしい学校が、今日は違った顔色をうかがわせていた。

学校はもう嫌だが、

そう、町全体で行われる祭りのため、学校も祭色になっているのだ。

僕は屋台で買ったりんご飴をぺろぺろなめつつ、

カナちゃんはこの喧騒の波を静かに鑑賞しながら、

屋上(とはいっても階建てだからそんなに高くないけれど)でたたずんでいた。

「ひゃ~、いつもとは打って変わって違うね!」

運動場にはたくさんの屋台が並んでいた。

僕はそこでりんご飴を買ったんだ。結構おいしい。

「今日は祭りですからね。わたくしの所もたくさん出店していますわ」

「そうなんだ、あっもうすぐササゲミの時間だよ。ここからちょっと山だから今から行かなきゃ」

「あの、わたくしたちは歩いていきますので、車の用意は大丈夫ですわ」

後ろで待機していた執事たちに向かってカナちゃんは微笑んで言った。

「今日は見張りはいらないわ。せっかくのお祭りですもの」


カナちゃんと一緒に帰れるのはあの日の夕方以来だ。

あの時はまだまだ「かなゑかな」という「少女」としか見ていなかったけれど、

今は「友達」として歩ける。その変化が見張りの有無だったりするんだろうな。

「カナちゃん」

「はい」

「カナちゃんってこういうお祭りははじめて?」

「はじめてではないです。でもこんなにも眺めがいい場所で見れたことは初めてです」

そのとき、なぜか僕は口にしてしまった。

そう、ただの雑談の一場面にしか過ぎなかった。はずだった。

「僕も初めてだよ。あの、」

「なんですか?」

「物知りなカナちゃんだったら分かると思うんだけど、『旧人類』って、知ってるかな」

「っ!」


その顔は明らかに驚きと絶望の顔2つが色濃く表れていた。

「まさか、カナちゃん、あなたも旧人類なの?」

「私は旧人類じゃない!・・・ごめんなさい、

でもここで話していい単語ではないということは覚えておいてください」 

ヒステリックに彼女は叫んだ。

旧人類とは一体何なんだ?

彼女は僕に対して知られたくないことでもあったのだろうか。

「ご、ごめんなさい」


少し空気が悪くなってしまった、けれど山に着いた。

ちょうどお父さんとお母さんがも来たところだし、話を打ち切った。

僕は和美ちゃんを殺す。殺さなければならないのに・・・。

こんな祭りで彼女が成功するのを心待ちにして待っている自分がいる。

他人に殺されるのなら、自分がいっそのこと・・・。

彼女がこのお祭りで有終の美を飾れるのなら。

銃の安全装置を外した。いつでも引けるようにしなければ・・・。


この場所は和美ちゃんが好きな場所で、いつもお祭りの時にはここでござを広げて見ているそうだ。

お父さん、お母さんもカメラと三脚を担いで来た。

「これで和美も一段と大人に近づいていくんだなぁ」

お父さんがしみじみとした顔で語っていた。そうして祭りは始まった。

下ノ瀬地区の催し物の子供の踊りで祭りは幕を上げた。

その後は婦人会の踊りなどなど、普通のお祭りが続いた。

僕はりんご飴のつ目の袋を開けようとした。お神輿が到着したようだ。

するとスポットライトが消えドン、ドン、と太鼓のなりはじめた。

オオトリの始まりだ。


白い着物を着た和美ちゃんが赤いカーペットの端に立っている。

スポットライトが和美ちゃんに当たると人々の歓声が巻き起こる。

若干緊張していた彼女は何かを唱えている。

大丈夫かと心配しているお母さんの方をポンポンと叩き、「大丈夫だよ」と落ち着かせているお父さん。

町民のみんなが和美ちゃんに注目して、応援している。頑張れ和美ちゃん!


そして何かを唱え終わったあと、しゃなりしゃなりと歩き始めた。

なんとも言えない美しさ、気品がある歩きかただ。いつもの和美ちゃんとは違う。

いや、これが本当の和美ちゃんの姿なんだろうか。

本当の和美ちゃんは、気品があって、透明な美しさ、おしとやかな女性なのだろうか。

僕はそんな「本当」の和美ちゃんを守れているのだろうか。

守るということはどれほど難しいか再認識した。

和美ちゃんは木の机までにたどり着き、ひざまずく。


ひざまづくと、宮司と呼ばれる男性がお祓いをして、ケガレを取り除く。

塩を彼女の頭に振りかける。そしてお湯を上から流して、彼女はびしょぬれになった。

しかし彼女はものおじせず、彼女はすっくと立ちあがり、木と向かい合った。

ここからの練習がきつかったと話していた。僕も胸がばくばく鳴っている。

コップにあるのは二リットルはありそうか。それを十五歳の少女が一気に飲み干さなければならない。

和美ちゃんはすっくと立ち上がり、机の上においてある大きな木のさかずきを持ち、

なみなみとついである水を飲み始めた。


一口一口、首ののどぼとけが遠くからも動いているのが分かる。

苦しそうな和美ちゃん。うう・・・。自然とお腹に力が入る。

そうして、飲みきった。顔が白くなっている。

そうしてまた崩れるようにひざまずく。場は最高潮だ。

そして最後、振り絞る力で赤いじゅうたんをつたってしゃなりしゃなりと戻っていった。

成功したのだ!


和美ちゃんの元へ駆け寄る。ヘトヘトになって座っているのが精一杯のようだった。

「お疲れさま。このりんご飴、舐める?」

「いや、もう何も入らないわ。胃の中がぱんぱん、」

「ぱんぱん?」

和美ちゃんは茂みの中に急いで入っていった。「ちょっと耳をふさいでおいて!」

茂みから死にそうな声が聞こえてきた。なるほど、耳をふさぐ。


「オーケーだよ!」

外では女の子に似合わない音が聞こえるのだろう。

何分か経って、スッキリとした和美ちゃんが戻ってきた。

飴をあげると、がっつくようにになめ始め、消えてなくなってしまった。

もうちょっと舐めときゃよかった・・・。


「まったく、男の子だったらまだしも、女の子になんでこんな事をやらせるのでしょーかねぇ」

「本当に日本とかけ離れた祭りだよね。三大奇祭に入ってもおかしくないのに」

「一度登録しようとしたんだって、でも無理だったみたい」

「なんで?」

「ここの地区の有力者たちがそれを取りやめさせたんだってさ。たくさんの人が来ると


その祭り自体が観光の催し物のように軽く扱われるのが嫌だからーって。宣伝もその理由でダメだし。」

「私としてはもっとこのお祭りが有名になって沢山の人に来てほしいと思うけどね」

「僕はどっちもどっちだと思うなぁ。このまま閉ざしたままだと絶対に遠くない未来に

このお祭りはなくなっちゃう」


和美ちゃんがふんふんと首をふる。かわいい。

「でもさ、観光地化したら、確かに人は来ると思う。でも、

今のように一体感あふれて、あたたかいこんなお祭りになると思う?」

「まぁ、それは・・・」

「僕は知っている通り都会から来たんだけど、お祭りは騒がしくて、事件や乱闘なんてあたりまえ、

さらに危ないお兄さんたちがウロウロしてるんだよ!ここのお祭り会場に来た人たちくらいに!」


「ひっ」と小さな叫び声を上げる。まぁ脅かすのはこれくらいにしとかないと。

「それでも、人はいたほうがいいよね」


「でも、ありがとう」

えっ?唐突に言われてもわけがわからない。戸惑っているうちに和美ちゃんがぎゅっと抱きしめ、

「いろいろ、ありがとう」とポツリと、そうつぶやいた。

分かっていたのだ。

「先生、残念だったね」

「でも私はウジウジしない。私は死ぬまで犯人と戦うわ」


意を決したようだ。

「僕も和美ちゃんを死ぬまで守るよ」

これってプロポーズ!?でもいいや。本人が気づいてなさそうだし。

「星がきれいだね」

昨日と変わらない美しい夜空だった。

そう、にくいくらい、美しかった。

右手の鞄に隠されている銃も、この夜空の下に眠らせておこう。

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