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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
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もらいっこ

「私ね、もらいっこなのよ」


「も、もらいっこ?」


唐突にその単語を発したので戸惑って聞いてしまった。


「私はもともとこんなお金持ちの家の子じゃなかった。


隣の地区の川沿いで小さなおうちに住んでいたわ。お父さんと二人で暮らしてたの。


お父さんはもともと手が悪くてね・・・。私も足が悪いからそれが遺伝したのかも」




「だからお父さんは家にこもって内職をして、私も手伝ったりして、貧乏ながらに楽しかったわ」


「いつも朝ごはんと夕ご飯は私が作って、お昼は給食の残りを持ち帰ってお父さんにあげたりね・・・」


「学校の先生も目をつむってくれて、風邪をひいたときなんかは逆に先生が家までよって行ってくれて、先生がお母さんのように見えた」


「ある日、学校から帰ってくると、カレーが机の上に置かれていた」


「お父さんが珍しく夕ご飯を作ってくれていた。


そしてカレーの平皿の横には書類が挟まっていたわ」




「おい、かな。この書類の一番上の四角のところに名前を書け。


そうすれば、毎日おいしい食事を食べることができる。


 毎日学校から給食を盗んで、みんなの目を気にすることなんてしなくてもいい!なんて大きな声でいってね」


「もう父さんのせいでつらい思いをしなくてすむんだ、さあ」


「書類を差し出して、私に無理やり書かせようとしたわ」


「お父さんはどうなっちゃうの!お父さん、答えてよ!」


「お父さんは唇をかみしめて私の手を握った。初めてお父さんの泣いている姿をみたわ」




「ごめん。父さんはな、お前を幸せにしてやることができなかった」


「私は今でも幸せよ!だから、私はこの書類に名前を書かない!いつまでもお父さんと一緒にいる!」


「だからお願い!二度とこんなことをしないで!」


「でも、むりだった。朝、起きたらここにいた。それが、一年前の今日」


「ごめんなさい。今日だけはカレーにしたかったの。


今はこの家の方針で決められた時にしか厨房に立たせてもらえないの。


だからせめてもののことでね」




「お父さんを忘れない。本当の家にいつか、帰れるのなら今すぐに帰りたいわ」


「でも、できないの」


「このお父様とお母様は私にとても優しくしてくれる。お金じゃない、それ以上に愛情まで持ち合わせているの」


「執事とかは嫌いだし、周りがなんでも口にはさんでくるのは嫌だけど、でもこの家には恩というものができてしまったわ」


「それで一年この家の中でお勉強をして、あなたたちと出会った」


「それにしても麻耶さん、あなたとはどこかで出会った気がするわ、不思議ね」


「えっ?僕が?こんな顔は日本に一人しかいない美貌さだからなあ、本当に出会っているかもしれないなぁアッハッハ!」


場が白けてしまった。暗い話があった後だからフォローしなきゃと思ったけれど、逆効果だったか。


和美ちゃんがカナちゃんの手を握った。




「今だけを考えるの。今、自分がやることだけを考えたら、昔の悲しい思い出にとらわれることもないわ」


和美ちゃんはカナちゃんのこぶしにキスをした。


小さくカナちゃんはうれしさとも悲しさともとれるなき声を上げた。


僕はその情景をただ見ているだけしかできなかった。


その行為を数十秒続けたあと、カナちゃんは微笑んだ。


「あなた達と一緒にいれて、こんなに楽しかったことはないわ。ありがとう。ほら見て、


月がとてもきれい。今日は雲一つない晴天だったから、この月はずっと見られるのでしょうね」


そして最後の線香花火が消えるとき、腕時計を見るともう夜の九時半を指していた。


よって、最期に残ったのは、和美ちゃんだった。




「わー!やったあ!」


「よかったね!」


「おめでとうございますわ」




そういえば和美ちゃんの家の門限はどうなんだろう。


「和美ちゃん!時間、時間!」


そうして腕時計を指すと、和美ちゃんはわっと驚いて、


「もうこんな時間!急がなきゃ!」


と走ってさっきの衣装ルームに飛び込んでいった。


やっぱり門限は超えていたか・・・。


「僕のほうから電話で話しつけておくから」




「カナちゃん、電話借りるよ」


「もしもし、僕です。麻耶です」


怒号叱責の雨あられになるかと思っていたが、現実は違っていた。


「和美が無事なら、それでいいわ」という言葉を聞いたので和美ちゃんは元気にやっている、


と伝えて、僕は受話器を置いた。




車で家まで送ってくれると言ってくれたが、さすがに近いから大丈夫と和美ちゃんが断ったので、


歩いて帰ることにした。


てくてくと街頭伝いに4つの足影が並んだ。


静かに、帰路へと、まっすぐに歩き続けた。


「もう、やめよう。そういうの」


和美ちゃんの足が止まった。




「えっ?」


「麻耶ちゃん、隠し事しているはず」


「見ればわかるもん。嘘ついてるの」


「仕方がない、ここまでばれてるなら」


和美ちゃんに例の手紙を渡した。




「先生からの、最後の手紙だよ。読んであげて」


和美ちゃんはそれを見るなり、ひったくっていそいそとよみはじめた。


一行、一行とかみしめるように読んだのだろう。


一行読むごとに鼻をすする音が大きくなり、途中で嗚咽が入り始めた。


結局真ん中あたりで読むのをやめ、歩きながら泣き出してしまった。


僕は背中をさすってやることしかできなかった。




手紙の中身は見ないようにした。それは彼女と先生の唯一の手紙だからだ。


部外者の僕が入っても駄目なものはダメだろう。


何を思って悲しんだかはわからない。あの時の夜も同じことを思って、


外からしかわからない自分を悔やんだはずだ。


あの時から僕は成長していないのか! 




結局悔やんだまんまで彼女を守ることができていないじゃないか!


しっかりしろ!僕!




「か、和美ちゃん」


眉間にしわが寄ってまさに泣き顔とはこのことで大粒の涙がこぼれている最中だった。


僕はそんなことをお構いなしに彼女の唇に唇を近づけた。


涙でしょっぱかったが、いいんだ。彼女がやめるまで続けてやる!




しかし、彼女は僕の予想とは裏腹に彼女は抱き着いたまま、涙をとめどなくこぼし続けた。


「うぅ・・・っ」


そこから悲しみの味が感じ取れた。


彼女はそのまま崩れ落ちてしまった。


僕はそのまま彼女をおぶって帰宅することにした。


「ごめんね。こんなことまでさせちゃって」


「いや、いいよ。もし君が僕だったらなくだけじゃすまなかったはずさ」


「くすん・・・。ブシッ!」


首筋に鼻水らしきものがついているような感触。




「ご、ごめんなさい」


小さく謝ってハンカチを抜き出し、ぬぐった。


「ふふふ。カナちゃんにしたことをまさか麻耶ちゃんにされるなんて思いもよらなかったわ。ありがとう。


私ああやってされるとすごい気持ちが落ち着くの。やっぱりする側でもされる側でもキスはいいものね」


「僕は恥ずかしかったけどね」


「あ、ここでおろして。もう歩ける」


また二人、僕らは手をつないで家まで帰った。




なぜカナちゃんは「もらいっこ」といったんだろう。


内心はカナちゃん、あまりお姉さんのことが好きじゃないのかな?

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