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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
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かなゑ家宅

夕方、夕日が山に隠れる頃、和美ちゃんと共にそのカナちゃんの家までやってきた。


「こんなところに大豪邸があったなんて、僕知らなかった」


で、で、でかい…。


でかすぎる…。


僕の家なんて、これに比べればミジンコの家みたいだ。


庭には小さなプール。


今はプールは鯉の池になっていて、人間が泳ぐ所に鯉が泳いでいる。


この格差たるや、僕もペットでいいので、この家に住みたいなぁ…。




表札にももちろんここの豪邸ぶりを証明するかのごとく、「かなゑ」と筆文字で書かれている。


また、木の板で、「かなえ着付・書道教室」と書かれている。


どうやら、ここで教室を開いているらしい。


教養の高いお家なんだなぁ…。二階建て、いわゆる洋風豪邸の門もそれに比例して大きい。


カナちゃんのスロープまで用意されている。


特大なベルのボタンを押す。


ピーンポーン。




ここは普通みたいだ。


ボタンを押すなり、門がギリギリと広がる。


自動式、これもすごい。


門から家までメートル、和美ちゃんは僕の後ろに立ってついてきた。


今まで入ったことのない豪邸。と、それを囲むコンクリートの壁。


こんなところに、カナちゃんは待っている。




半分を過ぎたところで、ガチャリと鈍い音を立てて重い門はしまった。


ゲームを入れた紙袋の紐が汗でにじんだ。


和美ちゃんがとたんに走り出す!


ずるいぞ和美ちゃん!僕だって怖いんだ!!


もしカナちゃんがいなかったら、僕らは庭に監禁されていると同じことじゃないか。


コイと共に僕らも死んでゆくのだろうか。


家の庭先で餓死しているなんて、そんなのシャレにならないよ!


どうせ死ぬなら、畳の上で死にたいんだ。


ぐわあああああ!!!



夕暮れの生きるか死ぬかの追いかけっこは、割とすぐに終わった。


ようやくたどり着けた・・・。


遠くからだと普通の扉かと思っていたけど、扉ももちろん大きかった。


学校の扉を一回り分大きくさせたくらい。本当に何もかもが大きい・・・。


窓枠も、蝶番も、何もかも。


無言で和美ちゃんとアイコンタクトをする。


ラスボスのお出迎えだ。


ガッチャーン。


重みのある扉を開くと、そこにはカナちゃんが待っていた。ニッコリと微笑む。



右手には、これは何だ?


出迎えるには、場違いなクラッカー。


そのクラッカーを勢いよく引いた!


パン!パン!


ひえっ!


な、何するんだカナちゃん!


びっくりするじゃないか!


「ふふ」


和美ちゃんも笑っているし、そんなに僕のリアクションがよかったのだろうか。


とにもかくにも、出迎えてくれただけでも感謝しなくちゃ。




玄関にもシャンデリア。


この家ではどうやら靴を脱がないのか。


カナちゃんも車椅子だし、特にそこまで重要じゃないのか。


大広間の玄関から三つの道があるみたいだ。


これもまた赤い絨毯が敷かれている。


螺旋階段もありつつ、その横にはエレベーターもある。


そして右、左に長い廊下。


かくれんぼにとっておきの場所かもしれない。




カナちゃんは左の廊下をするすると移動していった。


その先には食堂、家の中に食堂があるのもすごいが、もういちいち驚くことはなくなっていた。


夕暮れも夜になっていた。少し蒸し暑くなってきた。


同時に、いい香りが漂ってきた。


玉ねぎと、あの独特なルーの香り。


まさしくカレーだ!


ああ・・・お腹がこのカレーを欲している・・・。




善は急げ、カレーも急げだ!


一番隅に部屋はあった。


三人分出来上がっていて、机の横にはエプロンを着た男の人が立っていた。


「あれは仕出し係。弁当も彼が出してくれているわ」


弁当も、という所で和美ちゃんをちらっと見たのを知っている。


金色のスプーンがちょこんと置かれている。


手に取る。手にちょうどすっぽりと収まるサイズ。


人肌に温められていた。


あぁ・・・久しぶりのカレーだ!




三人で揃って食べるのは、さっきの弁当以来。


そこまで久しぶることもないが、それでも、新鮮な感じがする。


カナちゃんが静かに手を合わせた。


いただきますの体勢に入る。


三人が一つの気持ちになるとき。


「いただきます」


スプーンの先をルーに入れる。


ドロリとした感触。


あぁ・・・たまらない。あの、カレーだ。




ルーを思い切り流し込む。


ルーの香りはまさに才色兼備。


洋食屋のカレーみたいな味だ。


美味い。うまい!!


「美味しかったかしら」「美味しいよ!」


なんだ、このカレーは。


レストランで食べるくらいなんだから!




しかし、返ってきた反応がそれ程良くないのももちろん想定済みだ。


しかし、やはり想定済みであっても、あまり良い気持ちはしない。


話を変えてみる。


「あ、そうだ」


「カナちゃん、なんで僕たちを誘ってくれたの?」


「嫌、かな」


「いやいやいや、ありがとうの気持ちでいっぱいだよ!」


「私ももちろん」




カナちゃんはありがとう、と軽く会釈をすると、ポツリと話しだした。


「和美さん、あなたは、今人生を左右することに巻き込まれているはずです。違いますか?」


やはり、この件か。


もうカナちゃんにまで知れ渡ってしまったか。


「うん。そうだよ。それが、今」


和美ちゃんは遮った。


「カナちゃん、こんな事を言って申し訳ないんだけどさ、あなたはそれを聞いて、何がしたいの?」


カナちゃんは微笑みながら首をかしげた。




「少なくとも、私の周りで、人が消え始めている。先生、ペットの犬、叔父さん、


そして、どんどんどんどん、私の周りが消えていってる」


話し終わって、カレーの平皿の底が見えている時、しばしの沈黙が流れた。


カナちゃんの顔から表情が消え、神妙な面持ちになった。


「あ、あの、カナちゃん」「シッ」


と静かに和美ちゃんは声をかけた。




どうやら今、カナちゃんは考え事をしているらしい。


僕はそんなことお構いなしに声を掛けてしまっていたのか。


カナちゃんを様子見しなければ。


そして、しばしの沈黙の後、カナちゃんは口を開いた。


「やっぱり、あるのね。あのコト」


「え、何だって!?」


「ササゲミ」


「あ、私が確か、ササゲミの・・・」




スプーンが手から滑り落ちた。


ササゲミとヤマガエリの話はもう聞いている。そして、また誰かが死んで、また山に・・・。


なぜ、消えなくちゃならないんだ!


「カナちゃん、どうしてだい?」


「ヤマガエリ。一九八〇年。今から十年前の出来事。最後のササゲミ役、城之内秀子。彼女は今から五年前に自殺。


直前は狂乱して精神分裂病と診断され、精神病院に入院してのち、


在宅療養中に母親を殺害して行方不明。最後の記録はそれだわ。墓は、」


そこで言いよどんだ。察されてしまったか。




ヤマガエリ。


そうか。


ササゲミに関わった人間は、神と同化するため、必然的に神のいる山に「帰らなければ」ならない。


そして、人間のいる、この世には戻っては来られない。




「2階にあなた達へのプレゼントがあるから、ぜひ上がっていってちょうだい」


そんな言葉を


浴衣は和美ちゃんが着つけてくれた。


小学五年生ながら帯をきつすぎず、ゆるすぎずに締めてくれた。


両親が着物文化に造詣があり、そのせいか着付け教室を開いていて、


そこで見様見真似に覚えたそうな…。




玄関を出ると、もう庭先にはお手伝いさんが花火の用意をしていた。


色とりどりの花火たち、ロケット花火や打ち上げ花火なんかもある。


「どれを取ってあそんでくれればいいわ。ただし、線香花火だけは最後にとっておいて。みんなでやりましょ」


『了解!!』


ライターが支給された。


ようし、まずは打ち上げ花火からだ。


シュバババ!うわあ!思っていたよりも特大な火柱が花火から噴き出た。


「わあ!これすごい!」


「和美ちゃん振り回したら危ないよ!!」


ブラックタイガーというのか。




和美ちゃんも僕もカナちゃんも、ありったけの花火に火をつけては驚いたり、笑ったり、楽しんだり。


線香花火に手が伸びた時、さっきの暗い話は薄れていた。


「線香花火で最後まで生き残った方が勝ちよ」


「よーい、スタート!」


三人いっせいに先端に火をつける。


ぱちぱち、と小気味いい爆ぜる音が聞こえる。


暗闇の中、その線香花火は光をたたえていた。

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