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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
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わかれみち

そうして僕はトボトボと、和美ちゃんの家にもどったのであった。


腕時計を見ると、朝日が高く昇っている。1時間半僕の家にいたことになる。


和美ちゃんは家の庭でラジオ体操をしていた。


ぴょんぴょんとラジオ体操をする和美ちゃん。


僕の気配に気が付いたのか、振り向きつつ笑顔を振りまいていた。


朝のフレッシュな笑顔は少し僕の心を落ち着かせた。


しかし、心のもやもやはまだのこっているような感じがした。



この笑顔がもう二度と見られないようにする。


学校の登校途中に死にそうなほど暗い顔をしていると冗談交じりに注意されたので、


やる気は出せなかったが、とりあえず外面だけは笑顔に繕うようにした。


先生が変わったこのクラス。やめたい、いたくない。


同じ教室なのに、同じみんながいる環境なのに。



僕はもう、ここでやっていけないのかもしれない。


和美ちゃんは笑顔で、この狂った現状に適応しようとしている。


カナちゃんはいつもの通り、景色をぼけっと見ていた。


傍から見ればいつもの通りにコトは進み、いつも通りの日常を謳歌している。


僕だけが狼狽し、混乱している。疎外感・・・。


僕は一人だ・・・最初と何も変わらない独りぼっち。



嫌な気持ち。心にぽっかりと無が生まれてしまった。


いや、これでいいのかもしれない。これで、また最初から、和美ちゃんとも知らない、あの最初から。


でもだめだ。だめなんだよ!!憎たらしい。


彼女の純粋な笑顔がものすごく憎たらしく感じる。


殺すことなんてできないんだ!殺すことが。


あの笑顔を二度とみんなに見せられなくするのか!そんなことをしてみろ。


リンチなんて優しいものじゃない!


それだけ彼女の笑顔は飛び切りまぶしいんだ。


殺らなきゃ、僕も殺られる、そうわかっているはずなのに。


1か2か。どちらにしろ和美ちゃんは殺されてしまうだろう。


あの先生の事件だって、僕に対する意思表示だったのだ。



殺すことだって、たやすいことだろう。残忍極まりない組織だ。


そんなことなら、あの組織なら到底やり得る。


組織は目的遂行のためなら、なんだってする組織だ。


数々の行方不明事件の八割はTERRAがかかわっているとも聞く。そんな組織なのだ。


僕は死にたくない。だけど、和美ちゃんを殺したくもない。


和美ちゃんを殺す理由なんて、あるわけがない。あってたまるものか。


僕は守ってくれと頼まれた。そう頼まれてもなお、僕はあの組織の一員として働けということか!?


僕はいま、和美ちゃんの「エージェント」だ。


何人たりとも、僕は和美ちゃんの人権を踏みにじらせない!!!



「マヤさん・・・、マヤさん」


「はい?」


「私のおうちに来ませんか?」


唐突だ。僕は和美ちゃんの事についてもんもんと考えあぐねていたので、


話しかけてもいいオーラではなかったが、それでもなお、


話しかけてくるということは、なかなかなもんである。


よし、断る理由が見つからない。和美ちゃんも誘って女子会をしてみようじゃないか!


ガールズトークに花を咲かせ、キャッキャウフフをして、お花畑をつくろうではないか!


これもカナちゃんなりのフォローの仕方なのだろうか。


でも僕ってそんなに暗い雰囲気を醸し出していたのか・・・。反省、反省。


そうだ、どうせカナちゃんの家には金持ちだし、でかいテレビがあるはずだ。


ゲームを持って行って、カナちゃんと一緒にプレイして遊ぼうかな。



「クレイジークレイジー」はパーティーを組んで対戦ゲームができるヤツだったから、それで遊ぼう。


カナちゃんにはまだ早いかも・・・なんて、いや、それでも数時間はプレイすれば慣れてくれるだろう。


そこからが正念場だ。


そこからが、脳と心のをつなぐ神経の奥底にあるといわれる「ゲーム神経」が花開くのだ!


フッフッフッフ、アーッハッハッハッハ!!!


あーっはっは・・・・・・。




力が抜ける。こんな時に感情を無理に高ぶらせるのは疲労がたまるんだな・・・。


ばたりと机に突っ伏した。


やっぱり、この教室は欺瞞と嘘で成り立っている事が、とても怖かった。恐ろしい。


平凡である、そのことが僕に余計、指令という名の足かせをきつく締めあげているような感じがした。



HRも、僕はぼけっとしていて、終わるのを気づかせてくれたのはカナちゃんだった。


「あなたは、」唐突に肩をたたかれた。


「あなたは、今とても重大な人生の分かれ道に立っています。


そして、それを決める時がもうすぐやってくるでしょう。


よってあなたは、覚悟を決めなければいけません。そして、どちらを選んだとしても、


災難が襲ってきます。しかし、あなたはその災難に立ち向かい、勝たなければいけません。


それがあなたの、人生の路なのですから」



いきなりそんな大層なことをいいだすから、びっくりしてしまった。


「な、なんだい?カナちゃん。そんなむつかしいことを、どこで習ったんだい?」


カナちゃんは車いすのわきから、「顔占い大全」という分厚い本を取り出した。


「なるほど、僕はその中で人生の分かれ道に立っているような表情をしていたのか。


ありがとう、今度からはこんな顔をしないようにするよ」コクリとうなずいた。


「それじゃ、こんな顔はどうかな」



ひょっとこの顔をしてみせた。


カナちゃんはじーっとその顔を凝視すると、ページをぱらぱらとめくり、こんなことをつぶやいた。


「図星なのを突かれて、ぎょっとしつつ、


それを隠すように変顔をして見せたようですが、きちんとストレートに物事を隠さず相手に伝え


てみましょう。そうすれば、悩みはすっときえるはず」


ぐぬぬ、当たっている・・・。カナちゃんから本をひったくって、そのページを見る。


あああ・・・、カナちゃんの言っていた通り、見事に文章化されていた。いや逆か?



「そう、そうなんだ。僕はいま、今後の人生を分けるようなところに立っているんだ。


カナちゃん、僕はどうすればいいんだ。


ごめん、年長者としてやってはいけないことをしているんだよね。でも、もう僕は頼れる存在がカナちゃんしかいないんだ。


何か、こんな僕に言葉をかけてほしい、それだけでいいんだ」


目頭が熱くなる。もう中学三年生。女子高生になろうとしている女子が、


小学3年生の女子に涙を流しながら、言葉をかけて慰めてほしいと頼む。


高校生にもなったら、結婚もできるというのに、大人の仲間入りもするのに、


大人の風上にもおけないこの僕・・・。




自責と悲しみの念、朝からの思いがすべて集まって、とめどなく流れる涙に集結している。


カナちゃんは微笑をたたえていた。


そうか、僕を待ってくれている。今は泣きはらしたほうがいい場面なんだ。


そんなこともわかっているカナちゃんのほうが、よっぽど大人じゃないか。


僕って・・・、僕って・・・。


そしてカナちゃんはゆっくりと、口を開いた。 


「あなたが良ければ、全ていいのです」


それは説教であり、情愛に含んだ、僕の心を掴み取るような言葉だった。


こんな言葉を出す小学5年生なんて、一体どんな私生活なのか見てみたいものだ。

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