到着
家までの道のりは地図の感覚でみるもんじゃなかった。案外短かいようで遠かった。
目印となるものがなかったからだ。
周りを見渡しても山、山、山。ほんとうに自然の要塞だ。
この山は夏の夕暮れに、暗く大きな存在として立ちふさがっているように見えて、恐ろしくも感じた。
さらに道は砂利道、いくら元気だけが取り柄な僕も坂も多くて鞄を持って歩くにはきついものがある。
家は築4、50年くらいか。
よくある民家だ。ただ恐ろしくボロい。
窓は割れ、草は辺りいっぱいにぼうぼうと生えて、とても15歳の少女にとって良物件とはいえないだろう。
扉を開け、家の中に入る。
ひゃっ!
床がつめたい。
しばらくは扇風機がいらないだろうからその件については嬉しい、かも。
とりあえず肩に掛けておいた衣服用かばんを置いて、一息つこう。
他の雑多なものは明日の夕方に届くみたいだ。
さまざまな場所を見てみよう。さすがに外はぼろい、中もぼろいじゃ文句を言ってやらなきゃ。
幸いにもトイレは改装されており、洋式だ。
キッチンもリビングも、一応使えるには使えるかな。
納屋もほこりはかぶってるけどほうきではたけば使えるには使える。
お父さんはなんでこんなところを用意したんだろう。
一人娘なんだし、家選びについてなにか言ってくれればよかったのに。
そんなことをグチグチ言ってたら日が暮れてきそうだ。
引っ越しは今日だけで終わるわけじゃないし、お隣さんにも挨拶しなきゃ。
隣まで歩いて数十メートル。
「さすが、田舎」 すう、と息をのみぽつりとつぶやいた。
来る途中にサービスエリアでおそばを買ってきたし、引っ越し蕎麦としてもよし。
お隣さんの家に囲まれている大きな石垣が僕を疎外しているような、そんな感じがした。
ピーンポーン。・・・。ピーンポーン。・・・。
あれれ?お留守かな?
しょうがない。ポストに引っ越し蕎麦でも突っ込んでおこう。
「よい、しょっと」あれれ?おかしい。
後ろからなぞの目線が僕の背中に突き刺している。
これは・・・。
「失礼しましたぁ!!!」と甲高い声で走って帰って行った。
もうお隣さんと良好に関わり合うことは二度とないだろう。
くわばらくわばら。
もう夕方にも近い頃だし、明日のごはんを調達しなくちゃならない。
来る途中にコンビニがあったはず。
コンビニは日本中にどこにでもあるのだということを再確認した。
「いらっしゃいませー」
コンビニはいたって現代風で、「パーソンマート」の文字がまぶしい。
入ってみたら無表情かつ無愛想な店員がカウンターで一人ぼーっと突っ立っていた。
こういう人は万国共通にいるのかも。
有線には最近のJ-popが流れていて、最近の情報を掴むのならここが一番かも知れない。
僕はそんな店員を尻目に、パンのコーナーに向かおうとした途端、何者かがぶつかってきた!