社木地区殺人事件①
「すみませーん。榎本さんー」
パペットマペットの資料のお手伝いをしてもらったので、
菓子折りをもって感謝の気持ちを伝えようとやってきた。
カナちゃんが事前にアポをとってもらった。ありがとうカナちゃん!
ピーンポーン。ピーンポーン。ピーンポーン。
いない。しかし鍵は開けっ放し。玄関で待たせてもらおう。
玄関はきれいに整っていた。
地面をを見ると、あれ、血痕が・・・?
玄関の門から血痕がどんどん中に入っているようすを、刻々と、あれ・・・まさか・・・。まさか!
ガチャッ、玄関は鍵がかかっていなかった。
血痕は大広間までつながっていた。
血だまりが部屋で池を作っていた。
部屋は荒れていて、ガラスか何かが割れている。
血の池の大きさが被害者の出血量が多量だったことを指し示していた。
人は、いない!
なぜいない!
僕は急いで電話を探した。
このことを警察に知らせなければ・・・!
通報しなきゃ。通報しなきゃ!
玄関先に電話はおいてあった。
ジー、ジー、ジー。
受話器を震える手でやっとの思いで手に取り、声が聞こえるまで待つ。
「もしもし!警察ですか!」
「何がありましたか?」
「事件です!人が!」
「落ち着いてください。周りに何が見えますか?」
「血だまりが・・・」
通報してすぐに、パトカーが1台やってきた。
X県警のパトカー、隣の地区から飛んできた様子だった。
車から降りたのは、警察官と、もう一人、恰幅の良いおじいさんだった。
先生も息絶え絶えで自転車でやってきた。
「通報してくれたのは君かい?」
「はい。僕です」
そして警察官は家の中に入り、何か無線で連絡を取っていた。
おじいさんは家の前で何かを考えているような、表情をしていた。
あの人が村長なのか。
つかつかとおじいさんは僕に歩み寄って、耳打ちした。
「これはササゲミの呪いかもしれんな」
「ササゲミの呪い?」
「そうだ。ササゲミの真相を知ってしまったものは、若くしてヤマガエリをおこす」
「まさか、ありえない。あの真相はもうここにはないとあなたがおっしゃった!まさか、私に見せないようにと?」
「そのまさかだ。あんたさんはほぼ毎日しつこく聞いてくるからな。情報を与えたらどうなるかわからん。仮にも児童を教える唯一の教師だ、ヤマガエリ、してもらっては困るからな」
ヤマガエリ。そうだ!あの本にも死体を神に食べられて山に帰っていった!
「すみません!そのヤマガエリの山に連れて行ってください!」
「ワシもいく。娘を取られるなんてことがあれば、明日からどうやって生きていけばいいかわからん」
村長さんは目の奥にどこか「あきらめ」をたたえていた。
「私も行かせてください!大事な生徒を守るためなら!橙子さんの顔が見られるのなら!どこにだって行きます!」
「ほう、行きたいものは皆、来なさい」
警察官も一緒に同行し、計4人で行くこととなった。
その山はトンネルが掘られた山とちょうど真正面から向かい合うようにして存在していた。
車は村長のセンチュリーを借り、先生が運転した。
アクセルを踏み込んで、ただならぬ緊迫感を車内の中に充満させていた。
そう、全てはヤマガエリを見届けるために。
山の中に入ると、墓の石碑が段々畑のように立っている。
「ここはな、昔災害が起きた。その時人がたくさん死んだ。
人が死んだときは村のしきたりで皆ひとつの大きな墓に埋葬するんだがなあ、葬式をしてやることもできなくて、
こうやって名前の書いた石碑を土に刺すことしか出来なかった。可哀想な人たちよ」
そのまま山に入って五分、階段が突き当りにあったので、階段の前で止まった。
ゴクリとつばを飲み込む。
車を出た。三人は目を合わせた。上がれば、真実が見える。
一段一段かみしめるようにして、上がって行った。
何も言わず、ただ、橙子さんが生きていることだけを願いつつ。
「ワシはもう無理だわ。先に行け!」
「いや、村長。地区で起きた事件はあなたが見てもらわなくてはいけません。それがあなたの役目なのですから!」
「ぜひ僕の背中におぶってください!」
「すまないなぁ若いの。ここまで勇気のあるものなら、一つ婿として橙子に紹介してやりたかったわい」
「へ?そうですか」
先生の耳の先が赤くなる。
「あは、ははははははははは」
先生の上るスピードがどんどん速くなっていった。
階段はあと少し。
そこにあった。
降り立った先には、大きな墓が鎮座しており、その前の広場に
「バラバラになった肉片がまき散らされていた」
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
先生は膝から落ちた。バラバラよりもっとひどい、臓器や皮膚だったものの肉片が辺りいっぱいにまき散らされている。
悪臭がひどい。たまらず吐き気をもよおし、戻してしまった。
村長は娘だった肉片をかき集め、オイオイと泣き、先生は何も言わずただ座りつくしたまま・・・。
そこは地獄だった。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
警察官も、一体何が起こっているのか、さっぱり理解していない様子だった。
肉片は、犯人の異常な狂暴性のみを語っていた。
県警が来て、取り調べが行われた。
今回は場合が場合ということもあり、いつもより短めにした、
と県警の人が言っていた。
その取り調べがうまく終わったからと言って安心はできないか・・・。
この事件はすぐに地区住民にも伝わり、地区内では犯人捜しでやっきになった。
今までお世話になった人が多いのだろう。
連日人は詰めかけ、誰それは犯人じゃないか、など様々なデマが交錯し、
警察がそのつど注意していた。
そんなこともあり、村長からの要望により、報道関係者には犯人が捕まるまでこの事件について扱わないように根回しした。
それはそうだろう。それにより野次馬が増えれば、また凄惨な事件が起きてしまう可能性だってある。
まだ犯人はこの地区に潜んでいる可能性が高いからだ。
犯人はまだわかっていない。しかし僕の予想だと死体をバラバラにするまでの強い殺意を持っていそうだ。
彼女はこの地区で一番の盛り上がりを見せる祭りの実行委員を担当していた。
それによる資金の問題が原因か?
性格は明るく、真面目でおしとやかな人であったという。
そんな彼女が資金を着服していた・・・、なんて考えるのはいささか早すぎるのではないだろうか。
彼女の身に一体何が起こってしまったのだろうか。
やっぱりササゲミの呪い?
呪いだとしたらそれを知るすべをなぜ持ち合わせているのだろうか?
そうすると村長の娘というなら当然秘密を知っていそうだからという理由でカタをつけることはできる。
しかし、そんなにあからさまに殺されていいものなのか。
僕だったら、「このササゲミという謎だらけに満ちた祭を利用して、
それを根拠にして殺人を行う」
そういった可能性もなくはない。でもあまりにも根拠がない。
突飛すぎる謎の事件・・・。謎だらけ・・・。




