さいごの資料
「さあさあ、私たちはまずパペットマペットのモデルを完成させないと」
カナちゃん、絵がうますぎるよ!!どこでならったんだろうか。
「カナちゃん。どこで習ったの?それ、上手すぎるよ!」
「前の小学校で習いましたわ・・・というより、あなたたちの絵が下手すぎるだけです」
完全に我々の弱点を見つけ出されてしまった。抜群に絵が下手なのである!
和美ちゃんも可愛らしいキャラクターならかけられるが、人は全くダメ。僕は論外。
これはカナちゃんを主として動かなければ。
「ではカナちゃん。和美ちゃんの監督を頼んだ!」
「ラジャー、です」
僕は原稿用紙を取り出した。
10枚書けられれば御の字だな。
どうも学校では落ち着かない。
家に持ち帰ってでもやろうかな。
ううん・・・。机に広げられた原稿用紙とにらめっこをする。
家に持ち帰っても、何かやる気が起きない、
というより、またあの村長さんの娘さんにお話を聞きに行きたい。
まだ、あの祭りのあとのササゲミについてとか、聞き足りないことはたくさんあった。
だから、もう一回今日たずねてみようかな。
もちろん、アポなしで訪問するのは気が引けるけど、それはなんとか考えて弁明しなければいけない。
とにかく、善はいそげ!
今から、村長さんの家にもう一度行こう。
「榎本さんはいらっしゃいますか?分校の宮部です。橙子さんにお話を伺いに来ました」
「橙子お嬢様は私用で隣町に出ています。それまで少し待っていてもらえますか?」
使用人さんの声が返ってきた。僕もアポなしで来たんだし、それくらいは待つつもり。
「どのくらい待ちますか?」
「う~ん、また夜に来てください。そうすれば必ずいらっしゃるとおもいます」
「はい」
夜。コオロギが気持ちよさそうに音をたてている位に田舎ゆえに街灯なども無く、
懐中電灯を持ちながら訪問した。
榎本家の周りにそれでもライトが照らされていたが、とても暗かった。
インターホンのボタンを探すのに手間取るくらいだ。
「ピーンポーン」
「はーい」
「こんばんは、夕方に訪問した宮部です。橙子さんはいますか?」
「どうぞ」
「お邪魔します」
キイイ、と重い音を鳴らしながら玄関の木製の門が開いた。
今日も橙子さんは美しかった。
「どう?出来てる?」
「最初のページから一切できていなくて・・・・・・、すみません」
ケラケラと軽く笑って、僕を励ました。
「新しいことをするにはたくさんの失敗を経てモノにしていくことが大事ですのよ」
「ありがとうございます」
「原稿間に合っていないなら空き部屋も貸すわ」
「今回は前回の質問で聞けなかったことをいろいろと聞きたく、訪問しました」
「あら、そうなの。分かったわ。じゃ、ちょっと奥に入って入って」
玄関を通っていつもの広間。
違うのは今日は自分一人だけ、かな。
お盆をもって橙子さんは来た。
「夜まできちんと部活のことなんて考えてるなんて頑張ってるわね」
「やることが他にないですし、あ、いや、ここが田舎だからってことじゃなく、こうしているのが一番楽しいんです」
「自分の居場所が学校にあるのね。そういうのって素敵よね。自分の居場所があるってこと」
「橙子さんはあるんですか?」
彼女はうーん、と少し唸って、微笑をたたえながら答えた。
「この地区、かな。どこにいっても優しく私に接してくれるところ。みんなに感謝してもしきれないくらいさまざまな援助を受けて、私たちはここに住んでいられるもの」
「さすがです」
元村長の娘だけあって、すごい事をいえるなぁ。
「あなたも学校に居場所があるからずいぶんすごいと思うわ。居場所がない人だって世の中にいるんだもの」
「そうですね。僕も以前はそうでしたから・・・・・・」
お盆に載せてあるウーロン茶をすすり、質問を始めた。
「話を主題に戻します。その、ササゲミは分かったんですが、ヤマガエリについてまだよくわかっていなくて、資料によってもまちまちなんです」
「たしかに、ヤマガエリは難しい内容だものね」
「はい」
「ヤマガエリは、山に還る、ってストレートにいうとちょっとわからないかもしれないけれど、生贄を神が住んでいるところまで持っていく、と書くとわかるかしら。
結局神様は生贄の肉体も欲しがっていた、のかもしれないわね」
「肉体、ですか」
メモに書かれた肉体という言葉に二重線を引いた。
「神様は天に戻るときにお嫁さんが欲しかった。だから生贄をもとめて、新鮮な魂と共に天に行きたかった。だけど、魂も劣化しちゃうのね。だから毎年ムクロは魂を欲しがっていた。だけれど一人、お酒を飲んでササゲミを行った人がいて、その人の魂は劣化しなかった。だから一生その人と添い遂げることができた」
「ササゲミの具体的なストーリーだわ。そしてその人が劣化しなかったのは、お酒を飲むのもそうなんだけれど、山に還ったことだと村の人は思ったの」
「ササゲミの後にヤマガエリがあったわけですね」
「そう」
「だから今も山の神殿で白湯を飲んでいるわけ。これでもうムクロが満足できるように」
「山に還る、って山に行くんですよね?」
「ええ」
「山に行ったその女性はどうなっちゃうんですか?」
「天にね、還るのよ」
その言葉と共に橙子さんの顔が少し曇った気がした。
それ以上聞かないようにしよう。
その後にササゲミの具体的なやり方や、その説明したものの簡単な物語が書かれている絵本をもらった。
「私が子供のころに読んでいた本だからちょっと古いかもしれないけれど。いいかしら」
「ありがとうございます!ここまでしていただけるなんて!」
「村長の後継ぎとして、地区のみんなにこうやって喜ばれるほどの喜びは無いわ。あ、そうだ。お土産にこれを持って行ってくださいな」
奥の部屋から謎の紫の風呂敷包みを渡された。
「今はもう夜遅いでしょう。夕飯のお惣菜としてこれを食べてもらえればうれしいわ」
いい香りがする。
「すいません。至れり尽くせりで」
「いいのいいの。私もおしゃべりができて楽しかったわ」
「私もずっとおしゃべりができるように、ヤマガエリした少女のように一生を添い遂げる人ができたらいいな、って思ってしまうくらいにはおしゃべりに飢えているんですもの」
ふふっ、と笑みを含めて彼女は言った。
「もうすぐできると思いますよ。割と近くにいるとおもいます」
「あらそう?ならうれしいわ」
「ではまた今度、パペットマペットが完成したらその時にお邪魔します」
「はい。楽しみに待っているわ」
「さようなら」
「さようなら」
榎本邸の大きな玄関門がギイ、と閉まった。
夜もふけにふけてしまった。
また懐中電灯をつけて帰らないといけないなんて、辛いなあ。
でもたくさんの収穫を得たし、それはそれでいいか!




