人殺しの一族
「ここでそう」
「出るかな?」
「そりゃあ、教科書太字になってるもん」
「よーっす」
僕らはもうすぐ訪れるテストに向け、何とかして問題のヤマを張り合っているときだった。
僕らに話しかけるのは、カナちゃんくらいしかいない。
「よー」
でも、絶対に、カナちゃんじゃないよな。
誰だ?振り向いた。カナちゃんだ!
「カナちゃん、おはよう・・・・・・」
「おはよー!」
「あれ?カナちゃん、車いすいらなくなったの?すごいね!」
いや、和美ちゃん気づいて!この人は別人だ!でも確かにカナちゃんとものすごく似てるけど・・・・・・
「あっ、しまった。いやこっちではさすがに車いすは調達できなかったからなあ」
「こっち?」
車いすのカナちゃんがやってきた。カナちゃんと見比べてみると瓜二つだ。
「お姉さま!なぜここに!」
「いいじゃないの。いいじゃないの。ほら、あなたが転校生がやってきてるって言ったから。
ちょっと来てみたかったわけよ。ちょっとだけよ、ちょっと」
カナちゃんの顔からとっぴな顔を見せると、どうしても笑いをこらえられなくなる。
「お姉さん、でしたか」
外見もかわいらしさも瓜二つ。違っているのは性格だけ。
和美ちゃんがおずおずと聞き出した。
「あなたは、カナちゃんのお姉さま?」
「現役のぴちぴちJK、かなゑ悠里。よろしくねん!」
「カナちゃん、双子の姉がいるなんて、なんでそんなすごいことを教えてくれなかったの!」
「お姉さまは双子ではないわ」
「双子ではない?」
「さっき、私高校生って言ったよね?」
高校生にしては、顔が幼すぎる気がする。
僕の2個うえなのに!
「そうか・・・」
高校生でこのいで立ちはあまりにも子供過ぎる。かなゑ家は童顔の人が多いのだろうか。
「本来一人っ子であるはずのお姉さま。
姉妹が欲しくて、それでなぜ似たような私を養子に迎えたのか、不思議ですわ」
「そういうことで、他人同士。でも、仲良し~」
「いたた!やめてください!本当にそのうちちぎれますよ!」
お姉さまがほっぺたをつねる。
そのつねった手をカナちゃんは両手を使ってはねのけた。
「もちもちしてて気持ちいいのにー」
「んもう!」カナちゃんがここまで感情的になっている姿を見るのは初めてだ。
「ほう、君が転校生か!」
「はい。僕が」
「君、結構可愛いね」
「か、可愛いねっ?」
初めてだ。可愛いねなんていわれたのは!
「かわいい・・・かわいい・・・」
「それでね、手伝ってほしいことがあるの」
悠里さんが手をこすり合わせて僕に向かって頼み込んだ。
「なにをするのかだけ教えて頂けたら、お手伝いしますよ」
「えーっとね、」
と肩にかけてあった鞄を取り出し、机の上に広げた。ああ!教科書が!
「このパンフレット、折るのと、それをまとめるのと、ホッチキスで留めるのと、3人いるのよ」
「んで、ちょうど君と和美ちゃんとかながいるから、できそうかなって」
「いやいやいや、お姉さんは?お姉さんは手伝ってくれないんですか?」
「私は一人で全行程をするんですー。半分くらいその山からとって。」
2つにその山を分けた。悠里さんは左を取り、作業を始めた。
和美ちゃんと目を合わせた。大丈夫かな?
カナちゃんははぁ、と一息ため息をついた後、手慣れた手つきで作業を始めた。
「もう授業始まっちゃいますよ」
「いいのよー。先生に許可取ったから」
「そうなんですか」
大丈夫なのかな・・・。
一枚一枚違う紙みたいだ。
「お姉さん、大事なことを聞き忘れたんだけれど、この絵は何ですか?」
「ああ!なんでそんなところに!」
漫画のようだけど、えっちな・・・ような・・・。
なぜそんなものが?
和美ちゃんがのぞき込もうとするのを必死でとめる。
「何が描いてあるの?」
「和美ちゃんにはまだ早いから!これはだめ!」
「お姉様、マニアックな方面で攻めるのはやめたほうがいいと思います」
「ああ!カナちゃんまで!あ、でも知っているカナちゃんならいいのか?」
お姉さんはその漫画をひったくり、しーっと僕らにポーズをしてささやいた。
「いい?この漫画、私が描いたって言わないでよ!」
「は、はい」
「絶対に!だからね」
「はい!」
恐ろしいけんまくだった・・・。
それにしても、うり二つの姉妹がこんなにも違うなんて、すごいなあ。
うわっ!
気配を隠したお姉さんに首を絞められたんだ!
こ、ころされる・・・。
「お~し~ご~と~、してね」
「はい、すいません」
「終わった!!」
最初に声を上げたのは和美ちゃん。
さすがコツコツとまじめに取り組んでた甲斐があった。
次にタッチの差でカナちゃん。
終わりそうもない僕。
「もう無理だよー!!!!」
「頑張ってね!摩耶ちゃん!」
和美ちゃんはいいよ、不器用じゃないんだもん。
「はいはい。手伝ったげる」
「ありがとう・・・・・・」
「ごめんね、狭くて」
「いえいえ。それにしても可愛いお部屋ですね」
「えへっ、そうでしょ〜」
「編み物ができるので、これ全てお姉様の手作りなのです」
「すごーい!!!」
和美ちゃんは目を輝かせて家の装飾品を眺めた。
確かに周りにはフリフリとしたものがたくさんあって、全体的にピンク色を醸している。
そんな人があんな本(?)を描くなんて…。
「いいでしょう〜」
「すごい、すごいですぅ!!!」
「ほら、ベットのシーツも…」
和美ちゃんは押し入れから何か得体のしれないものが飛び出しているのを見つけた。
「あれ?押し入れから何か飛び出してますよ?」
「あ゛!!!ダメダメダメダメ!!!」
その言葉も虚しく、和美ちゃんは押し入れを開けた。
「え?ダメって…?」
どんがらがっしゃーん!!!
ずどどどど!!!
「み、見られてしまったからには白状せざるおえまい。
そう。私はかなゑ家長女、かなゑ悠里でもあり、全国の青少年を愛す同人作家『ほっとけえき』でもあるのだ!!」
部屋の中が真夏なのにひんやりと寒くなる。
あられもない美青少年のコミック本が散らばった六畳間の真ん中で彼女は意気揚々と叫んだ。
しかし僕ら中学生にはさっぱり分からず、事情を知るカナちゃんのみが一段階冷めた目で悠里さんを見つめた。
「 悠里さん、同人って何ですか?そしてこの漫画は?」
世界が戻された悠里さんは何故か顔を真っ赤にして本をかき集め魔窟の押入れに押し込んだ。
「何でもないの〜、忘れてぇ!!」
忘れたほうが良さそうだ。
さっきの作業で製本された本もあのようになっていくんだろうか。
相変わらず和美ちゃんは裁縫に興味しんしんだから良しとするか。
「お茶だすね」
こぽこぽと電子ポットが小気味よくお湯を出している。
静かで、暖かな時間が過ぎる。
「今日、何故お姉さまは学校にいらしたのですか?」
そうだ。僕は悠里さんが来た理由はしらない。バイトというのも嘘くさい。
悠里さんは、ずずず、と一口お茶をすすって答えた。
「今年、久しぶりにササゲミをやるんだってね。それについて当の本人に聞きたかったの」
「たしか、今回のササゲミはあなただったわね」
目先が和美ちゃんに移る。
「はい」
「そうね。カナから聞いたわ。あなた、カナからササゲミのやり方について聞いた?」
「はい。聞きました。それがなにかあるんですか?」
「いい?和美ちゃん。きつい言い方だろうけど、『ササゲミ』はこの村の伝統的な神事だから、しっかりやってもらわないと困るよ。榎本さんとこもいろいろあるだろうけど、この祭りを運営しているのはかなゑ家だからね。私たちを信じてしっかりやってもらえばいいわ。そうすればあなたも立派な社木の一員よ」
その言葉には引っ掛かりがあった。榎本家を完全に意識しているような。
「村長さんと何かあったんですか?ここでいうのもなんですが、実は先日住民の方からかなゑ家について噂しているのを見てしまって・・・」
悠里さんの目から光が消えた。
「しょうがないのかもね、私、逃げたもの。嫌われるのもしょうがないわ」
「お姉様のせいじゃないわ。かなゑ家もいろいろあったのよ」
「・・・・・・ごめんなさい。私の口からはあまり言えないわ。ごめんなさい」
「すみません。僕も深く質問してしまって」
落ち着きを取り戻し、悠里さんは元の微笑をたたえた。
「何かあったらすぐに呼んでくれるとうれしいわ。いつでも待ってるから」
短い間だったけどお姉さんと、その関係を知ることができた。
やはり、村の内部を知る者は、何かしらタブーが存在しているんだな・・・・・・。
僕らは分からないこの「タブー」が、この村の神事と繋がっているんだろう。
それを知るまで、僕はこの村の一員としてはまだまだ未熟なのかもしれない。
「お姉様、ではまた会う日まで」
「ここでは気遣いなしっていったのに。でも、ありがとう。カナ」
「いえ」
「では僕らもここらへんでおいとまします」
ぺこりと和美ちゃんはお辞儀をした。
ぼろアパートの扉がぎぃ、と閉まり、珍しい来訪者との面会は終わった。
ここは隣町の川本地区。車で山を越え十五分の市街地にある。
「コーポみちびき」という階建てのアパートの隅に、彼女は住んでいた。
かなゑ家の長女であるはずの悠里さん。隣町の高校にいくからということで借りているらしい。
だとしたら、なぜ、こんなぼろアパートを借りなければいけなかったんだろう。
少し歩くと、きれいなマンションだってあるのに。
お金持ちは良く分からない。
「私ね、聞いちゃったの」
和美ちゃんの家で、布団を敷いているタイミングでポツリ、と彼女はつぶやいた。
「どうしたの?」
「私ね、去年に引っ越したんだけど、引っ越した時に周りに言われたの」
「かなゑ家は、人殺しの一族だって。だから、近づいちゃダメ、って」
「えっ?」
「うん。それでお金を稼いできたって言われて、
カナちゃんや悠里さんを見て、私は違うと思うの。
人殺しなんて嘘。だって、じゃなきゃ彼女たちはかわいそうだもの」
今日の和美ちゃんの目には自信に満ちていた。
「そうだね。カナちゃんかわいいもんね」
「そこじゃなーい!」
適当な冗談でかわしてしまったけれど、僕はどうしてもうがった目で見てしまう。
火のない所に煙は立たないように、かなゑ家もまた、隠された「火」があるのではないだろうか。
それを見つけるまで、僕はかなゑ家のことはあまり触れないでおこう。




