買い出し
翌日。半ドンを終え、資料館に行くために支度をして、
早めにおさらばしようと思っていたのに、和美ちゃんが僕の前に立ちふさがった。
「今日はだめー!今日は買い出しの日ー!」
「買い出し?いや、もうメモとか用意しちゃったし」
「お財布も持ったでしょ?」
「うん」
「ならいこー」
「強引すぎるよっ!」
「だって、カナちゃんと約束して、車も用意してもらったし」
「学校の前にもう執事の車はありますわ」
「明日でもいいでしょ?」
「ちぇっちぇ、いいですよ。一緒に行きますよ買い出しに」
黒塗りでぴかぴかと光る高級車が校門前で止まっていた。
見るからに家一軒は立つ価値のありそうな車だ。
車に指をさして聞いた。「あれ?まさか、あれなの?」
さもあたりまえのようにカナちゃんは答えた。
「あれです。急な襲撃に備えて防弾ガラスもちゃんとつけていますの」
僕らはVIPか!
車のそばにはサングラスをかけた男性が一人、そばに立っていた。
スキンヘッドに高身長。いかつい顔で凄いオーラ。
怒らせると怖そう・・・。
「今日はよろしくお願いします」
ぺこりとサングラスの男性にお辞儀をする。
「よろしくね!」
あれ?声高くないか?まさか男性じゃなのか?
「私は執事の能田です。よろしくねん!」
「さあさあ、車に入っちょうだい!久しぶりに町にでるんでしょ?」
「そうでーす!」和美ちゃんは工程表と題したびっしりと書かれているメモを渡した。
「ふむふむ、分かったわ。ではいざ隣町へ!」
「レッツゴー!」
たくさんのトンネルを抜け、「許斐市」というカントリーサインが見えてきた。
「隣の市まで行くのにこんなに時間がかかるのか・・・」
「麻耶ちゃんの番だよ」
「あっそうか」
余りにも暇なので、車の中でババ抜きをやっていた。
「僕の番だね、ほいっと!」
うっ、ババは僕に回ってきたか。
カナちゃんは悠々自適に手札を確認している。
よし!いまなら!
カナちゃんは僕のカードごとに指をさした。
「・・・コレ、かな」
指したのはババだった。
笑みをたたえつつ、それを一枚、引いた。
がびーん!、という効果音が響き渡るかのように打ち震えるカナちゃん。
「えっ!?なんで!?知っていたんじゃないの!」
「ポーカーフェイスでまさか、こんな・・・」
「じゃあ、カナちゃんが、罰ゲームとして、恥ずかしい思い出でも語る!」
「えっ・・・、そんな恥ずかしいことなんて、ないです」
「ややっ!これは隠しているな?語るだけでいいんだよ。どうせ3人だけの秘密」
「わたくしも、ですよ」
運転手の能田さんも中に入ってきた。
「ふうぅ・・・」
息をためるカナちゃん。決心がつくまでには少し時間がかかった。
「・・・ちょっとまえに、おもらし、しちゃいました・・・」
「きゃー!!!」
車内(運転手含む)全員の悲鳴が上がった。
カナちゃん、よほど恥ずかしかったんだろうな・・・。
「わあすごーい!!たくさんの家が見える!」
「あれ?和美ちゃんは隣の市に行ったことないの?」
「うん。私の家族は車持っていないし、隣の地区までだったから。
まさか麻耶ちゃんこれが当たり前のところからきたの!?」
「これよりもうちょっと大きめかなあ・・・」
「すごーい!麻耶ちゃん、都会っ子!」
「でも今のほうが僕にはあってると思う。だから社木のほうがすき!」
こんな隣の地区までしか足を伸ばしたことのない純真な少女。
「あれ?たしか出会った時に、ここに引っ越して来るのは戦時中と和美ちゃんしかいないって」
「それは隣の地区の話。そっちもちょっと大きいけど、ここよりかはすごく小さいよ」
ベッドタウンより少し大きいくらい。
しかし彼女にとっては恐ろしく大きく見えるのだろう。
窓から見える景色は、どれも僕の見知った町並みよりかは、規模は小さく、
正直見劣りしたが、隣のこの純朴な少女から発せられる真剣な驚きに伝染され、少し見とれていた。
「もうあきたー」
飽きるの早いよ!
そして料金所を通りぬけて、市街地へと車は向かっていった。
向かった先はデパートだった。
「ここだったら、お目当ての品物が買えると思います。カナお嬢様は、ここでお待ちくださいませ。大混雑していると思われます」
「私も行かせてもらいますわ。だって、混雑しているかなんて、行ってみないと分からないじゃない。ではまたあとで」
「待ってくださいお嬢様ぁー!」
3人はデパートに駆け込んだ。
「ひゃあああ・・・」
「これは大きいね・・・」
玄関口は吹き抜けになっていて、7階まで売り場があるという。
とんだこんな広いところで、どうやってさがそうか。
サービスセンターに聞けば、わかるかもしれない。
「えーっと、えーっと」
サービスエリアにある掲示板を指さして和美ちゃんは確認した。
「7階にぬいものコーナーがあるみたいだから、そこ行こう!」
和美ちゃんがぴゅーっとエレベーターに駆け込んで、僕らを待っていた。
カナちゃんがエレベーターの前で僕に何かを渡した。
「私、ちょっとお手洗いに行ってきますから、このカードだけよろしくお願いしますわ。
和美ちゃんに渡せば何のことかわかるだろうから」
「うん。了解」
エレベーターのドアが閉まりかけるときに突入成功!
よかった、よかった。
「7階、生活用品コーナーです」
自動音声にびくっとした和美ちゃんがかわいらしかった。
「あの隅っこが縫物コーナーだよ!」
看板を覗く。なるほど。
ずんずんとすすみ、角の縫物コーナーまで進むと、カナちゃんが出迎えていた。
奥のエレベーターから来たみたいだ。
「カード、渡してくれましたか?」
「あ、そうだ。渡さなきゃ」
「はい和美ちゃん。このカードは何?」
「クレジットカードみたい。私も初めてだから、ちょっと緊張するなー」
「わたくしのです。両親が忙しくて買い物に行けないときによく使っていますわ」
「すごいなあ・・・。でも一応僕もお金は持ってきてる」
「じゃあ、買い出しの班分けをしよう!
私たちは縫物を買って、麻耶ちゃんはそのほかのメモに書いてあるのをお願いね」
「はい、了解」
といいつつ、せっかく遠くの街に出かけたんだから、いろんなものを物色しようっと。
さてさて、何を買おうかな?
あれ、まさかあれは、新型のゲーム機?
ややっ、これは安い!これは買っちゃうしかない!
大きな箱を手に取り、さっそくレジのほうを回った。
車いすと長い髪のシルエットがレジの近くで見えた。
いろいろと突っ込まれるのはアレだし、ちょっと待ってからにしよう。
その間に僕が買うべき品々を確認してみるか。
麻耶ちゃんへ(ハートハートハート・・・・・・)
・木の枠
・木の板
・釘
・色紙一式(色がたくさんある)
「それだけなら、近所で買えるような・・・」
5階の工具コーナーで手短にそろえ、また1階のレジに戻る。
和美ちゃんとカナちゃんが二人、レジの奥で待っていた。
支払いを済ませ、二人のところへ走って合流した。
「よし!これで買い出し終了!」
「あれ?和美ちゃん、それは?」
「ちょっとね・・・あはは」
メモに書いてあったはずの項目から外れたものがいっぱい。
「ブリキのおもちゃなんて、いつつかうのさ」
「こういうの集めるの好きだから。あと、ほらカナちゃんだっていっぱいお菓子買ってるし!」
カナちゃんもドキッとした顔を見せて、渋々と話した。
「グミ・・・、両親はあまりグミを食べることを許してくれないので、買ってくれないから・・・。
ここぞという時のため用です。毎日バカ食いしないので、大丈夫です」
大丈夫そうでない言い訳をして、回避しようとしている。
「麻耶ちゃんこそどうなの!やっぱり、何か隠してるもの、あるでしょ!」
ぐぐっ、まずい。ゲームがバレてしまう。
「僕はちゃんと買うべきものだけを買いましたもん!」
「そうなんだ、えらいね!」
和美ちゃんの見るからに騙されやすい性格が功を奏した。
よし、これで帰るだけ!
車の中で能田さんにこっぴどく叱られながら、車で今日のことを話し合って、一日を終えた。
学校で解散しようということで話が付き、路肩にとめてもらった。
ありがとうございました、と僕、和美ちゃん二人はここでおさらば。
車から歩き始めた時に、どこからか声が聞こえた。
「かなゑ家の人々だわ、お金がたくさんあるようで羨ましいわね~」
「あんな黒いピカピカの高級車なんかに乗っちゃって、さぞ羽振りが良いのでしょうね。あの時もその調子で私達の社木神社を壊そうとしたんですもの。どの面下げて帰ってきたのかしら」
地区の人々がカナちゃんの車へ指をさしている。
しかもその表情は、憎しみ、ネガティブな感情を際立たせていた。
カナちゃんは車窓から、そんなことも気にせず、ぼーっと遠くを眺めているようだった。
彼女がこの地区に来た理由である「任務」。その任務を完遂するのはいつになるのだろう。
それが終わったら、カナちゃんともっともっと仲良くできるかな。




