あれ
橙子さんが驚いた顔で、
「アレ、って何かしらね」と素知らぬふりをして取り繕ったのには、すぐわかった。
「橙子さんはなにか隠し事でもしているのでしょうかね。お祭りのアレ、ですわ」
カナちゃんが畳み掛ける。
顔はほほ笑んでいたが、目は、笑っていなかった。
ますますうろたえる橙子さん。
「何もないなら仕方ありませんね。何もないのですから」
カナちゃんが肩を落とした。残念そうな顔をしている。
「カナちゃん。橙子さんに何を聞き出そうとしたの?」
「特に何も?」
いたずらっぽく微笑んだ後、またいつもの顔に戻った。
彼女のあの顔は、どこか引っかかるものがあった。
ううむ。カナちゃんと橙子さんにはなにか特別な関係があるのだろうか。
「そういえば一昨日にお客様から頂いたお菓子があったわね、よかったら食べて言ってちょうだいな」
橙子さんはパチン、と手を叩くとそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「カナちゃん、榎本さんと仲が悪いの?」
「まあまあ、ですわね。悪かった時もありましたが、今はそんなに対立はしていないですわ」
「そうなんだ。昔は悪かったんだね」
「本当に昔の話ですわ・・・・・・」
橙子さんが戻ってきた。
「さあ。お茶菓子があったので、これをどうぞ」
お茶菓子をいただけるなんて、随分気前が良いお人だなあ・・・。
美味しい!しっとりとした和菓子の上質な甘み。お茶がすすむ!
まさにお茶のためのお菓子だ。
「それで、私に聞けることはもうないのかしら」
「ええ、ありがとうございました」
「こちらこそ久しぶりに話し相手ができてよかったわ」
「そうなんですか」
「もう最近はお祭りの件で忙しくてね、でも祭りが終わったら大きな暇ができるわ」
「ではまたお祭りの時に会いましょう」
「そうね、無事成功できるように、それだけは神頼みだわ」
「この日のためにササゲミの祭具も新調したの。本当にきれいだわ。今でも見せてあげたいくらい」
「あと、あなたの成功もね」
和美ちゃんに目線を向け、ウインクした。
「頑張ります。そこまで言われると緊張しちゃうなー、えへへ」
「今日はありがとうございました。みんな、さあ、行こう」
先生が話をまとめ、僕らに席を立たせようとしたとき、橙子さんが何かを言っていたような気がする。
しかし、今となっても、よくわからない。彼女なりのSOSだったのだろうか。
先生ともおさらばし、メモの要点をまとめた。
閉鎖された村に出来たトンネル。それを元村長が手伝って、村政が始まってから、
村長はこの榎本家がずっとやってきたと。そしてこの証人が榎本橙子さん。よし。
明日は歴史資料館にいかなければ。




