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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
25/73

榎本家

日曜に、僕らは地区で一番大きな家で待っていた。


大きな門。学校の門よりもっと大きい。倍はあるんじゃないだろうか。


「先生遅いねー。どうしたんだろう」


「うーん、先生はこのお宅に行くのが嫌そうだったから、それもあるかも」


先生が走ってここまでやってきた。


「ハアハア・・・、よし、いこう」


先生は見るからに緊張していた。


チャイムを震える手で押し、


「すみません。川本南中学校分校の川達というものです」


という声すらも震えていた。


いつもの元気のある先生の声ではなかった。


よほどそんなに恐ろしい顔の人なのだろうか。


それか先生の弱みを握っているからとか?



真相はこの門の奥にある、か。


大きい門がゆっくりと開いていく。


その先にいたのは若く、美しい女性だった。


「ようこそ。榎本家へ。あれ?かなゑ家の娘さんまで。


今日はどんな用事でいらっしゃったのかしら」


惚れ惚れするような美しさ。常時着物を身に着けているのだろう。着こなしが素敵だ。顔もツルッとして、日本的な美人。見とれてしまいそうになる。


「あ、あのっ!今日は学校の生徒が村の歴史を聞きたいと、


村長にお話をうががいたいという件なのですが!」


先生の耳が赤くなっている。なるほど、ためらっていたのはそのためか。


「中に上がってくださいな。今お茶を用意しますわ。


かなさんは裏口から入ってちょうだい。


車いすからだから、ごめんなさいね」


「いえ。お気遣いなく」



玄関に入ると、この村の歴代村長たちの肖像画が名前とともに飾ってあった。


これだけでも劇の具材になれそうなので、メモしておこう。


「麻耶ちゃーん!廊下おっきいよー!」


向こうではしゃいでいる和美ちゃん。そもそもこれは村の取材だってーの!


彼女は一体何をしているのだろうか。まったくもう。


そして本当に広い廊下を経たあと、大広間までたどり着いた。


文字通り「大きい広間」で、宴会でも開けそうな大きさだ。


端っこには一輪挿しの生け花が床の間の上に飾ってある。


人分の椅子とじゅうたん。僕達は座って待っていた。先生はもうカチコチに固まって、


背筋を背もたれにピン、とはりつけたまま待っていた。


静かになると僕も緊張しちゃうなあ・・・。



ふすまが開いた。


「今日は村長がお外に出られておりますので、対応は私榎本橙子がさせていただきます」


「よろしく、おねがいします」


深々と頭を下げた。


「さあさあ。今日は村について聞きに来たのね?電話で聞かせてもらったわ。


人形劇を作っているそうじゃない。作ったら面白そうだから読ませてほしいわ」


「お気持ちに添えるものができると思いませんが、頑張って作り上げます。そのために」


「村の歴史が必要ってわけね」


「この日のために奥の蔵から引っ張り出してきたの。


明治の廃藩置県からの村運営は代々榎本家が執り行ってきたの。


だから、この巻物はその私達の家系図といっていいわね」


「見てみて!」


和美ちゃんが指差した先には、最後の村長のところだった。


「そのひとは私の父。厳格な人だった。今ではもう丸くなって、


孫の遠足にもお忍びでついていっている、可愛いおじいちゃんになってるけど」


「と、いうことはもうお子さんがいられるのですか!」


身を乗り出して先生は聞いた。


「甥っ子の話ですわ。私はお相手がおりませんので」


「そうなんですか・・・」


先生はホッとした表情で座り込んだ。



「とにかく。村の歴史についてお伺いしたいのですが」


「ええ、いいわ」


「ここの地区はね、もともと社木村っていう一つの村だったの」


「昔はタバコの葉っぱを製造したり、山菜を育てて生計を立てていた人が多かったと聞くわ」


「ここは交通の要所でもないし、ほら山に囲まれてるでしょう。だから今でもだけれど、


トンネルが命綱なのよ」


「あのトンネルで人々は行き来して物資を持ち込んだり、持って行ったり。


そこのトンネルの管理を昔から榎本一族が管理していたの。


江戸時代から掘られ始めて、そこで一番多く資金援助をしたおかげで、


今でも少しながらのお金はもらっているわ。昔と比べて少なくなったけれどね。


そこで明治直後に隣の村とつながったわ」


「地理的要件もあって、向こうの地区と比べて財政も良くないから対等なお付き合い、とはいかなかったけど。


今ではお祭りの時に沢山の人がきてくれるようになったのはほんと今になってからなのよ。


年前なんてあの電車もつながってなくて路面のワンマン電車だけだったし、


人の出入りをまるで規制している感じだったって、父は言ってらしたわ」


「そういうことがあったのですか・・・。そういえば、お祭りのことなのですけれど、


ササゲミというものがあると先生から聞きました」


「この村の神事ね。ササゲミがあるときはお祭りと同日で開催するの。その時はとても盛り上がるわ」


「なるほど」



「お祭りには屋台がいっぱいきてね、特に私はそこのたこ焼き屋さんによくいっているの。


あそこがとてもおいしくてね。あなた達もまた今度ササゲミの時に言ってみるといいわ」


「それについてなのですけれど、大きな宣伝を打たないのはなんでですか?」


「キャパシティの問題が一番あるわ」


「きゃ、きゃぱしてぃー?」


「そう。キャパシティ。どれくらいの余裕があるかってこと。ここってトンネルに道路もあるんだけれど、


道は一本しかないから、大きな宣伝をしちゃったら人がどんどんきちゃうでしょう。


そうすると交通渋滞や駐車場の問題、治安の悪化が考えられるし、


あまりいいことがすくないから。だから反対してるだけなのよ」


「それ以上もそれ以下もないわ」


「最近、組織運営に誰か見知らぬ人が入り込んでいるっていう話を聞きましたけれど」


「フフ。なんでそんなことまで知っているんでしょうね。


それはその宣伝の件について、外部の人たちに頼んでどうすればこの祭りを維持できるか考えてもらっている。


それだけよ」


「せっかくササゲミの役も24年ぶりに決まったわけだし。


今年は人を集めたいから頑張ってきたわけ。村のトップを抑えてきた榎本家としてそれくらいしないと、みんなの役にはたてられないわ」


「さあ、これでお話は以上かしら」



カナちゃんが口を開いた。


「アレについては、話してくださらないのかしら」

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