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ヒトリムシ  作者: おかずシステム
23/73

ササゲミ

職員室というプレートが掛かっているドアに手をかける。


コーヒーの香りが鼻を包む。


「失礼します」


中では先生がワープロに何かを打ち込んでいた。


「先生、何を打ちこんでいるんですか?」


「あ、ああ。これはだね、レポートを作ってるんだ。うちの地区について少し調べてみようかなと思って」


確かにワープロの隣に本が山積みになっている。


「社木村についての研究」


「社木村古代文献史」


「社木村の伝承」


「社木村」という単語がたくさん見かける。


「それで、先生。僕達新しく部活動を作ることになりまして、」


「あ、ああ。知っているよ。なにせ僕が顧問だからね。クリエイティ部、だっけ」


「それでクリエイティブにパペット演劇をしようと思ってて、その脚本に社木地区の古い伝承をベースに作れないかなと思いまして」


「それなら、これとかどうかな」


先生は社木村の伝承という本からパラパラとめくり、このページを見せてきた。


付箋やしおりがたくさんひっついてて、それに専門用語がたくさん書き連ねている。


「ササゲミとヤマガエリ、ですか」


カタカナで書かれているその題名。ササゲミ?もちろん初めて聞いた言葉だ。


しかし、危なそうな事だけは分かる。了解を得て手にとって中身を読んでみてみた。



『ササゲミとヤマガエリ』


昔々、人々は御在山にいる神様、モリサメノミコトのお陰で、長い間平和に暮らしていました。



ある時、地上の生活に飽きて、天に帰ろうとしたミコトは天で子供を残すため、村で一番美しい娘を差し出すことを要求しました。


娘がミコトと共に天へ行ってしまうことを悲しんだ村の人々はあろうことか、


娘に毒を忍ばせ、御神酒の中に混ぜさせてミコトを殺害しました。


しかし、その翌日から、村の娘達が相次いで姿を消し、人々は次々と不幸な死を遂げました。



怪しく思った村の人々がミコトを祀っていた社に行ってみると、そこにはミコトが変わり果てた怪物、ヌバタマがいました。


そして、村の人々が娘達のことを尋ねると、


ヌバタマは 「お前達のしてくれたことのお陰で、私の体はこの有様になってしまい、元の体に戻るために今までに消した娘達は既に私が喰らい尽くした。


これ以降娘を喰われたくなければ、毎年処女の娘を使い儀式をとり行い(ササゲミ)魂と体を全てヌバタマに捧げ、村民の皆は名前を捨てて名が刻まれていない一つの墓に入り(ヤマガエリ)、


を守れ。さもなくば、再びこの村に災いが訪れるだろう」


と告げました。


その時から、社木地区ではササゲミとヤマガエリのしきたりが始まったと言われています。



本を閉じ、考える。


ふぅん・・・なんか難しい伝承だなぁ・・・。


まだこの村はヌバタマに支配されているとするならば、この閉鎖的な感じも昔から続いているのかもしれない。


ササゲミを行うことはあまりよろしくはないだろう。


いずれにしてもササゲミをすることは神をなだめるしかできないのだから。



「ああ、そうだ。森さんが今年のササゲミだったね」


ササゲミの役?


まさか文章通り生け贄でもするんだろうか?


「ササゲミって、何をするんですか?」



「少女が木の前でたくさんのお神酒代わりの白湯を飲み干さなければならないという奇祭なんだ」




「由緒は諸説あってな、先生が思うにあのお祭りは外部からやって来た渡来人が、もともといた縄文人に知恵や力を授けて、


その恩返しに我々原住民は女の子を差し出して交流を図ったんだ。いわゆる今でいう娘を嫁にとつがせるってことかな。


それを昔の言葉で処女の生き血をささげるって言い伝えられてきたんだろう。


ちょっとオカルトな感じかもしれないけれど、だけど証拠があるんだ」


「そんな風習が古代の文献に記述されていてだね、これをちょっとみてほしい」




そういって先生はかび臭そうな本を取り出した。


「社木村伝説-獣の巻」


黄色い糸でとじられている。




「ここだ。以前書いた現代語訳メモが挟んである。昔、鬼の目を持つものがいた。そのものは鬼の目を使って我々に力を与えた。


しかし力を使う代わりに処女の生き血、つまり嫁を嫁がせるように求めた」


「そこからが問題なんだ」



「その嫁いだ女性をイザナミと呼んだんだ。そして自分をイザナギと自称した。


日本の神道の慣習とあまりにもかけ離れている!これはまさに破壊的な魔物の書なんだ。


そして今、先生はその本にかいてあるほこらを探している途中なんだ。たぶんこの地区にはその跡が必ずある。


それだけここは歴史的にも重要な場所なんだよ」 



「火の無いところには煙がたたないように、これもまた何かしらの歴史的発見がなされるかもしれない。その日まで探し続けるのが私の使命だと思っているんだ。


使命とはいっても、私の趣味なんだがね」


笑いながら先生はそこで打ち切って書物を本の山にのせた。



「さっき話したササゲミは12年に1回、この地区の伝統として行われてきたんだが、


人口の減少で、少女がすくなくなってきていて、この祭りも前回はお流れになってしまってな」


「そこで私を含む自治体は、なんとかして少女を用意しなければならなくなり、


新聞や雑誌などのメディア宣伝を打とうということになったんだが・・・、」


そこで先生は深いため息をついた。



「どうしたんですか?」


「いや、それはやってはイケない、と地区長がいっててね」


「なんで地区の偉い人がダメっていったらダメなんですか?」


「はっきりいうと、昔の村長なんだ」


「まだまだこの地区を取り仕切っている元村長達がダメって言ったらダメなのさ」


「この社木地区はいまから年前に社木村をあっちの川本町に編入したんだ。


高度経済成長の待っただなかで、その煽りを受けて、不動産屋だったり、この町の経済を握っている人達がこの村の経済発展を望んだんだろう。その思いが合併へと突き進んだんだろう」



「しかし、その時に彼ら村長たちはひどく反対運動をしたんだ。この村を編入されたらこの村の伝承やお祭りが広く周りに拡散されてしまう可能性があったのが嫌だったのだろう。中身が中身だけにね」


「反対運動・・・ですか」


「ああ。合法的なものから違法なものまでな。先生もその運動の一部始終を見たよ」



「嘆願書を提出したり、今の川本町役場の前でデモ行進をしたり、違法なことは・・・」


「ことは?」



「まぁやめておこう。流石に少女に向けて話す事ができる内容じゃないのでね」


「それでも時代の流れには逆らえなかった。昔から経済を隣の町に大きく依存している状況だったからね。その運動も時代の流れと共に薄れていった」


「そ、そうですか」


田舎だからそんなことも起きるのだろうか。


「でも、その思いは、まだ残っているのかもしれないね・・・・・・」



「そんなことで出来なかったお祭りも、ちょうど今年に森さんがきてくれたおかげで久しぶりに開催することができたんだ。」


「しかし、最近とはいっても、今回の話なのだが、なにかがおかしい。


自治体に見知らぬ人が入り込んできた気がするんだ。


実行委員会をやってるんだけれど、そこに現れる人の雰囲気が違ってね。


いつもお祭りに関しては隣町から様々な人が来て屋台を出したりして手伝ってくれるんだけれど、隣町の人間じゃ発せられないような空気を持ってるんだ・・・・・・。


私はこの祭に様々な思惑が渦巻いているような気がしてならない。


とにかく健全ではないんだ。


以前からこの祭りの周りには事件が絶えない。


逆に言えば普段はまったくもって事件とは縁がないこの地区なんだけれど、やっぱり祭りが祭りだけにね・・・」


「あとは村から地区に強引に編入された苦みも村人はまだ覚えているから、


そういったどろどろとしたものが、


村で一体感を得られるこの祭りの時期に起きてしまうのだろう」


「あ、ああ長く話しすぎてしまった。すまないな」


「いえ、ありがとうございました」


ふぅん・・・。昔の伝承に縛られて、結果としてお祭りができなくなるのか。


和美ちゃんが運が良くいたから開催できたのか。


確かにおかしい。和美ちゃんがいなかったら、このお祭りはなかった。


そしてちょうどいいタイミングで引っ越してきた和美ちゃん。



つまり両親のどちらかが元村人で、村長が誰かと繋がって、


和美ちゃんをササゲミの人にするために連れてきた?


誰かが和美ちゃんを仕向けた?でもなぜ?それとも僕の思い違い?

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