パーティー(3)
「――――――その薬を調合しているのが、私の家系だからです」
「えっ………………?」
優真は言葉を失った。だが、リンはそのまま、話を続けた。
「私の家系は代々、『調合師』でした。それが遺伝なのか、偶然なのかはわからないですけど。でも、私は調合師じゃなかったんです。別のなにかでした。だから、私はそれが親にバレる前に、逃げてきました。どんな目にあうのか、わかりませんから……」
メイン職業が不明でも、12歳になるまでは、親のメイン職業がわかっている場合、親がそれと同等の立場を得る。リンは、そんな環境で育ったから、薬を口にしていないし、薬を調合している一族だったから、薬のことも知っていた。
「そして、私の最初のサブ職業は『見習い商人』。商人は、色んなものを仕入れて売る仕事もするから、ある程度の儲けもあるので、薬の入っていない食料を買ったりできますし、薬を入れることのできない国外に滞在することもあるので、国が嫌っているんです。それでも、表立って迫害しないのは、商人がいないと経済が回らないからかと思います。そんな、この国が嫌いで、国の闇を知っていて、嫌われ者の私が、国の闇に自分から戻るような真似をしたいわけがない、でしょう?」
リンは、そう言って、続けた。
「だから、私は一度、違う国を目指します。そこで頑張って、この国の人を助けたいんです。闇から、救いたいんです。それが、闇に加担している家系に生まれた、嫌われ者の私の使命だと思っています」
そう言うリンは、どこか遠くを見つめていた。
「どうやって助けるつもりなんだ?」
「お金を貯めて、『調合師』にどうにかして解毒剤を作ってもらいます。そして、それをこの国で使って、この国で反乱を起こすんです。そうすれば、食料や財源を失ったこの国は、滅びると思います。私は、こんな国はなくなってほしいと思っていますし、丁度いいです。そうしたら、そこからは異世界人の国に倣った政治を売り込もうと思います。そうすれば、経済が発達した、面白い光景がみれるかなぁ、異世界みたいな光景が見れるかなぁって思うので」
優真は、自分の夢について考えた。
自堕落なニート生活のためには、不労所得が必要。その不労所得のためには、出資者とならないといけない。そして今この世界には、出資者が働かなくていい場所は、ない。
だったら、理由は不純かもしれないけれども、終着点が近いリンと行動を共にしたほうがいいのではないか? と思った。
「なあ、リン。ひとつ、お願いしてもいいか?」
「そういえば、あと2つ残ってましたね。何でしょう?」
そういえば3つお願いしようとしてたなぁと、優真は思った。
「その、リンの夢を叶える手伝いをしてもいいか? 俺も、故郷みたいなシステムがあると嬉しいからさ」
優真がそう言うと、
「もちろんです! ありがとう、ユーマさん!!」
と、リンは満面の笑顔で言った。
「そういえば、ユーマさんって身分を証明するものを持ってなかったですよね」
「そういうものもあるのか」
定番ではあるけど。と優真は思った。
「はい。じゃあ後から、商人ギルドで作りましょうか。ユーマさんは異世界人ですから、こっちの世界の人物のように偽る用のと、本当ので、二種類お願いしてみます。本当の名前のものは、国外で作りますが」
リンは優真のために、色々と対策を講じ始めた。
そして、休憩として木に馬を繋げて止まると、馬車に積んだ荷物の中から、服を取り出した。
「ユーマさんはこれに着替えてください。このまま町に行くと、ユーマさんが異世界人だとバレてしまうので」
「わかった」
優真はリンの指示に従うことにした。
「身分証を作るとき、手続きをある程度省くために、私とユーマさんは家族だという設定で通しましょう。何かあった家族と離れていて、再会したときに身分証をすぐに作れるように、家族からの紹介だと、発行の手続きがザルになるんです」
「じゃあ、家族として振る舞っておけばいいんだな?」
「はい。名乗るときは『ユーマ・サレーション』と名乗ってください。私を呼ぶときは今までどおり『リン』と呼んでください。私はユーマさんのことを『お兄ちゃん』って呼びますから」
「お、おう」
優真が少し動揺していると、リンは改めて、輝く笑顔で言った。
「では、改めて、これからよろしくね。お兄ちゃん!」
サブカルチャーに埋もれて生活していた一人っ子の優真にとって、それは大ダメージだった。