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それ以上のもの

作者: 目262

「俺の前世は蛙だったんだ」

 大学の同窓会で久々に再会した友人が唐突にそんな事を言った。卒業から二十年、中年太りのために腹は出っ張り、がに股になり、確かに蛙のような見た目にはなっていたが、それはお互い様だと私は笑った。しかし、彼は冗談で言った訳ではなかった。

「近頃一つの夢しか見ないんだ。夢の中の俺は間違いなく蛙だった。俺は草むらを四つんばいになって必死に逃げている。抜けるような青一色の空の、遥かな高みにいる、抵抗しがたい何かが俺を捕まえようとしているからだ。だが逃げ切れない。凄まじい速さで舞い降りたそいつが……」

 彼の顔は蒼白で、冷たい汗が額を濡らす。

「あれは只の夢じゃない。前世からの警告だ。あいつが又、狙っているって」

 気のせいだと私は笑った。第一、今のお前は蛙じゃない。彼は力なく笑い返した。

「蛙だった俺が人間に生まれ変われたんだ。ならばあいつはそれ以上のものに生まれ変わっているかも……」

 それ以上のものって何だ?私の問いに彼はただ小刻みに震えるだけだった。

「何故だろう。誰にも内緒にしていたのに、お前にだけは話しちまった」

 彼はそれだけを伝えて、帰っていった。


 それからしばらく経ち、衝撃的な事件が起きた。

 東京スカイツリーの天辺に、男が仰向けに串刺しになっているのが発見された。テレビでは匿名でモザイクがかけられていたが、蛙のように投げ出された四肢から、私にはそれがあの友人だとわかった。

 誰が、何の為に?ニュースレポーターがそう叫ぶ背後で警察のヘリコプターが死体を回収しようとしている。それを観ながら、私は内心で訴えていた。

 彼をそこから離しては駄目だ!彼がいなくなったら、奴は次の獲物を探す!彼の言ったことは正しかった。我々が転生したように奴も転生したのだ!

 近頃、私は一つの夢しか見ない。抜けるような青空の下、仲間と共に草原を逃げ回るが、背後の仲間が何物かに捕まり、樹の先に突き刺される夢だ。そして奴は次に私を……。

 私は今後一生、外出しない。二度と青空は見られない。しかし、奴から逃げる為にはそれしかないのだ。人間に転生した私を青空の遙か高みから狙っている、百舌鳥もずから転生したそれ以上のものからは。

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