ワクワクすることができる喜び
「フォアーード!・・マーチ!」
「はちとー、いちとー、にーとー、さんとー、しーとー・・・」
吹奏楽部の先輩達がホールで、横一列に並び、背筋を伸ばし、両の掌を鼻の前で組んで奇妙な掛け声を張り上げながら歩いている。
「こんな話聞いてないぞ」
と心の中で、連呼した。
ワエは、どこで判断を誤ったんやろうか…
三上は、入部の経緯を振り返った。
三上は、O県の県立J高校から指定校推薦で、O府私立K大学へ入学することになった。
勉強は並み以下で通常であれば、指定校推薦なぞ取れるはずもない。
しかし、内申点は、高かった。
部活動、授業態度や日々の過ごし方で真面目な姿勢が買われ、狭き門の指定校推薦の切符を手にしたのである。
といってもO府に出てこようという若人が少なく対抗馬がいないだけであった。
入学して2日目、三上はパソコンのオリエンテーションを受けていた。
三谷は、岡山から出てきたこともあり、知り合いは、当然いない。
辺りを見回してみると既に知り合いができている連中もいるようだ。
「電源を入れてください」
教壇に立っている講師が全員に聞こえるように声を張り上げた。
隣の席の男子は、パソコンのスイッチを探していて、齷齪している様子である。
「ここじゃないですか?」
三上が優しく微笑みながら、教えた。
「ありがとうございます。」
恥ずかしそうに顔を赤くしながらホッとした様子で彼は答えた。
暫くして警戒心が溶けたところでお互いに自己紹介を行った。
彼は、山本 正義という名で、S県出身。
一見変わり者のようで、基本的に無表情。
だからといって取っつきにくいタイプでもなく、周りに友達は必ずいる。
思った事をズバズバ言うタイプで言葉の節々から読み取るに三上より断然博識である。
三上は、山本に尋ねた。
「山本君は、サークルに入るん?」
「う~ん、特に考えてへんな」
唇を曲げながら答えた。
「三上くんは?」
「ワエは、テニス部かバスケ部でも入ろうかな。って思っとるよ」
明るい表情で答えた。
「大学の部活動でけっこうマジでやるとこ多いから気いつけや~」
「そうなんか~…わかった」
と口では答えておきながら三上は、心の中で上等やと思っていた。
三上は、中学・高校とテニス部で本気で取り組んでいた。
高校では、三上の熱意が買われ部長も任されていた。しかし残念ながら、三上率いるJ高校は、
弱小高校であったため、誇れるような実績も何もなかったが、部長やっていたからなのか、自信だけは、あった。
オリエンテーションが終わり、パソコンの教室があるE館を出ると屋外で各部活動の勧誘が積極的に行われている。どうやら構内の屋外スペースを部活動ごとに勧誘ペースを設け、長机とパイプ椅子を並べ、先輩たちが新入生を待ち構えている。
三上は、山本と別れ早速テニス部とバスケ部を探した。
テニス部の説明ブースが屋外スペースの目立つところに陣取っていた。
迷うことなくテニス部のブースに向かい、三上は尋ねた。
「テニス部は、こちらですか?」
「そうやで」
どうやらテニス部の先輩らしい長髪の男が答えた。
その先輩は、三上にとって最悪な印象だった。
彼は、煙草を吹かしながら得意に説明した。
三上は、超がつく程、真面目な所があり特にクラブに対して妥協する事はなかった。
煙草を吸っている事や先輩が発する態度から真剣にクラブ活動をやっていない事を察知し、話を聞くまでもなくテニス部を選択肢から外すことにした。
三上は、次のターゲットのバスケ部を探した。
その間にグリークラブ、アメフト、山岳部、英語部、ボランティア、茶道、軽音楽等様々なクラブから声を掛けられたが相手にもしなかった。
バスケ部をあきらめかけ、ベンチに腰掛けて休憩している時に声を掛けられた。
「吹奏楽部ですが・・・興味ない?」
メガネを掛けているゴリラのような堅いの良い男とひ弱そうな小柄な女の子が声をかけてきた。
K大学は、経済学がメインの大学であるため、他の学部はあるものの8:2の割合で男性が多いのである。
三上にとって女性不足の問題は、なんとかしなければならない問題であったこともあり、三上は、凸凹コンビの話を聞くことにした。
しかし、三上は、女性不足の問題だけで、吹奏楽部の説明を聞いたわけではなかった。
その理由を明らかにするためには、つい1年半程前に遡らなければならない。
高校2年の秋、三上は恋をしていた。部活動を集中できない程に彼は、燃え盛っていた。
相手は、同級生で理系の吹奏楽部の女の子。彼女の浴衣姿を見て一目惚れをしていた。
しかし、彼女とは、話をしたこともなければ、面識もない。さらに三上は、文系で彼女は理系であるため、クラスが同じになることはなかったのだ。
三上は、クラブに集中するために一大決心をし、下駄箱で待ち伏せて告白した。
結果は、玉砕。
振られることは、分かっていたことだが、三上にとって初めての愛の告白であった。
三上の心を平常に戻すには、彼女を心の中で無理矢理嫌いになるしかなかったのである。
そんな三上に3年生のクラス替えでまさかの出来事が起きる。
彼女と同じクラスになってしまった。
三上はもちろん、彼女も驚いている様子であったが、何事もなかったかのようにお互いがそれに努めた。
3年生の秋頃、J高校で行われるJ高祭が開催される。要は、体育祭と文化祭を合体させたイベントである。
J高祭でクラスでお店を開くかどうかの会議が行われていた。
そこで、ヤンチャな女子3人組が焼きそばの店を開きたいと熱弁している。
一通りの説明が終わった後、3人組は、クラス全員に尋ねた。
「焼きそばの店をやりたい人手を挙げてください」
反応は、ない。
そこで聞き方を変えた。
「やりたくない人は、手を挙げてください。はいじゃあ、誰もいないから決定します」
当然、彼女らに対してやりたくないと言おうものなら、人間関係が悪化するため、誰も手を挙げようとしない。
理不尽な理論で決定させようとしていた。
その時、三上が席を立ち、顔を赤くして反論した。
「それは、おかしいやろ!そんなの誰が手を挙げられるんや!みんながやりたくないんやったら、やるべきじゃねぇじゃろ!そんなんめちゃくちゃじゃねぇか!」
これに対して反論したのは、クラスのガキ大将
「何ならおめぇは!!コラっ!!」
三上に掴みかかろうとしたが、間に他のヤンキーに仲裁され、三上の元へは届かない。
どうやらガキ大将は、その3人の誰かが好きだったのか、怒りを露にする。
三上は、全く動じていなかった。J高校のいわゆるヤンキーといわれる者達を恐れていなかった。
昔、少林寺拳法を習っていたこととテニスで体を鍛えていたため、普段から何もしていないヤンキーを返り討ちにすることくらい、問題ではなかったのである。
この一連のやり取りを見ていた例の彼女は、このことを境に何者をも恐れない三上に惹かれていった。
しかし、その時の三上の心境は、彼女に振ったことを後悔させてやるという情念のような屈折した思いが強くなっていた。
彼女は、まだ三上が自分に気持ちがあることと考え、三上に対して間接的なアプローチを試みたが、
三上の心は、遠く離れており、結局結ばれることはなかった。
三上は、彼女に対する思いを正直に表現できなかったことを後悔していた。
3年生の終り頃、吹奏楽部の定期演奏会が開かれるため、三上は、テニス部を代表して演奏会へ行った。
音楽経験のない三上でもJ高校吹奏楽部は、決して上手くないことは、三上でも理解できた。
最後の演奏を吹奏楽部が終え、部員が感動の涙を流している。
もちろんあの子も涙を流している。
三上は、不思議だった。
彼女たちが流しているのはどう見ても悔し涙ではなく、力を出し切り、満足しているかのような嬉し涙のように感じられた。
三上は、テニスで負けた際、悔し涙を流したことはあっても嬉し涙を流したことは、なかった。
吹奏楽部のことをを羨ましくも思った。
そんなことを思い出し、三上は、吹奏楽部の話を聞くことにした。
ブースには、既に吹奏楽部の雰囲気に慣れている1回生らしき男子が先客で座っていた。
ゴリラのような男が三上をパイプ椅子に座るよう促しながら、三上に尋ねた。
「音楽は、やったことある?」
「ないですね。」
三上は、不安そうに答えた。
「大丈夫!二村さんも大学から始めてるけど、普通に吹けるようになったよな?」
ゴリラ男は、半ば誘導尋問かの如くか弱い女の子に尋ねた。
「は、はい。そうですね。なんとか・・・」
三上は、このやり取りを見て少し不安な気持ちになったが、吹奏楽部のブースを眺めてみるとアットホームな雰囲気で、楽しそうな雰囲気が流れている。
どうやら先輩であろうメガネを掛けた博士のような長身の男が、三上に声を掛けた。
「中井君っていうんやけど、彼なんかもう、入部決めたみたいよ!君もどう?楽しいよ?」
隣にいた先客の中井君と思われる人物は、微笑みながら三上に会釈をする。
「は、はぁ」
三上は、苦笑いをしながら答えてみせた。
博士は、続けた
「今度の木曜日、楽器体験があるから君も来てみたら?」
男性陣は、くせの強い先輩が多そうだが、みた感じ女性も多そうだし、良い印象だったため、
三上は、楽器体験に参加することにした。
吹奏楽部の説明を聞いた後、バスケ部は、三上の頭から消えてしまっていた。
三上は、その日の帰り道とても楽しそうであった。
なぜならば、入学式の日は友達もできず不安な日を過ごしていたが、今日は、違う。
友達もでき、楽しそうな部活が見つかり、前向きな学園生活を送れる気がしてきたのである。
三上は、明後日の楽器体験が楽しみでならなかった。
楽器体験の日に早速、楽器体験を行っている学生会館のホールに行くことにした。
学生会館は、年季の入った建物で少しくたびれている。
1階は、食堂と売店があり、2階に吹奏楽部の巣窟であるホワイエとホールと部室がある。
階段を上がるとすぐ左手に部室があり、正面にガラス張りの扉があり、そこがホワイエの入り口となっている。
楽器体験は、ホワイエで行っているようだ。
ホワイエは縦細で、左手に長方形の大きな机があり、その周りに椅子が配置されている。
その大きな机には、布を被せており、その上からスティックでリズムを刻む男性が座っている。
周りには、打楽器があるため、打楽器を担当する人がそこで練習するようだ。
右手のスペースは、手前から長机にベンチが置かれ12,13人くらい座れるスペースがある。5mくらい先に長机にベンチがあり、17,18人くらい座れるスペース。さらに5m先に長机に対してパイプ椅子が並んでいおり、こちらも17,18人くらい座れるスペースがある。
そのホワイエの各机や地べたには、様々な楽器が並んでいる。
沢山楽器がある中で、三上は、サックスを探した。
サックスは、例のあの子が吹いていた楽器でもあったため、一番興味があった。
サックスの場所に座っているのが、185cmくらい100kgくらいありそうな長髪の大柄な男が座っている。
近づいて行くと一見怖そうな男から気さくに声を掛けられる。
「サックス吹いてみる?」
「はい、是非」
三上は、嬉しそうに答えた。
大男からサックスの吹き方を教わる。
楽器からマウスピースを取り外し、マウスピースのくわえ方の指導を受け、マウスピースに息を吹き込む。
「ピーーー」
甲高い音が鳴り響いた。
マウスピースで音が鳴ることを確認した後、
マウスピースを楽器に取り付け、首にストラップ巻いて音を鳴らす。
「プ――――」
意外とすんなりと音が鳴った。
その後、ドレミファソラシドの指を習い、音を出す楽しみを三上は、知った。
大男は何も知らない素人に言った。
「サックスは、音を鳴らすのは、簡単やけど、音色と歌えるかどうかやで。音色があかんかってもダメやし、歌えんかったら、サックスは、吹けへんで」
「は、はぁ。そうですか」
三上は、訳もわからず相槌を打った。
「俺は、郷田。君は?」
「三上です。宜しくお願いします。あの郷田先輩、一度サックス吹いてみてくれませんか?」
三上は、厚かましいと思いながらも好奇心を抑えられず、お願いした。
「ええで」
郷田は、テナーサックスを体の一部のように構え何かの曲の一節を三上の目を見ながら、あたかも自分がプロのサックス奏者であるかのように演奏した。
三上は、郷田の演奏に聞き惚れた。郷田のごつごつとした指が楽器の上を華麗に踊りながら、派手な音色を奏でる。
「僕も練習したら、郷田さんのようにうまくなれますか?」
三上は、郷田のようになりたいと心の底から思っていた。
「めっちゃ努力せな無理やで。やけど、頑張れば、なんでもできるよ」
郷田の言葉には、説得力があった。
三上は、サックスと郷田に心を奪われながらも、郷田に礼を告げ、次に目の入ったトロンボーンの先輩の前に行くことにした。
トロンボーンの先輩は、気難しそうなメガネを掛けた先輩。
トロンボーンを吹いている所を見ていると、機械のように精密にスライドを前後に動かしている。
おそらくこの先輩も技術が高いのは、素人でもわかる。
先輩は、三上に気付き三上に尋ねた。
「吹いてみる?」
「は、はい。お願いします。」
トロンボーンは、金管楽器で楽器にマウスピースで唇を震わせて、
唇の振動で音を奏でる楽器であることを教わった。
唇を小刻みに震わせる練習を行った後、マウスピースで試してみる。
「ブー」
サックスとは、打って変わって小さい振動音のような音。
マウスピースで音が出たため、楽器に取り付けて吹いてみることに
「ボア―――」
音ともなり切れてない音が鳴る。ドレミファソラシドを習ったか
が、スライドのポジションによって音が変わる仕組みである。
気難しい先輩に三上は、言った。
「トロンボーンって難しいですね。」
「慣れれば普通やで。あと簡単な楽器なんてないよ」
冷たくあしらわれたので、そそくさと礼を言い次の楽器へ。
カタツムリの様な楽器を持った小柄でポッチャリとしたメガネの女性の先輩がパイプ椅子に座っている。
三上は、楽器に興味を惹かれ尋ねた。
「これは、何って楽器ですか?」
「ホルンって言うんやで。マニアックやろ。」
笑いながら先輩は、答えた。
三上は、否定も肯定もせず吹かせてもらえることに
型は、カタツムリのようで、サックスやトロンボーンに比べると見栄えは、良くない。
ホルンは、金管楽器でマウスピースの仕組みは、トロンボーンと同じである。
ホルンは、ロータリーといわれるボタンのようなものがあり、それを押して音を変える。
「プオーーー」
トロンボーンを吹いたせいか、容易に音が鳴った。
音を高くするためには、息のスピードが必要なようだ。
「プーーー」
「今のが上のラやな」
先輩は、三上の押さえてる指を見ながら音を当ててみた。
その後も難なくドレミファソラシドは、吹くことができた。
上機嫌にホルンを試し終え、人気のなさそうな打楽器の机へ行ってみた。
三上は、打楽器に自信があった。
三上は、高校生の頃ゲームセンターのドラムのゲームにハマっていたこともあり、リズム感に自信があった。
色んな楽器を叩き、特にドラムセットは、本物を叩いた事がなかったため、高揚した。
「打楽器向いてるかもね」
ヘラヘラした打楽器担当の先輩が三上を持ち上げた。
三上もその気になり、バンバン叩いた。
その後、フルート、クラリネット、トランペット、ユーフォニアム、チューバ、コントラバスと試してみたが、しっくりきたのは、サックス、ホルン、打楽器だった。
先輩から来週の月曜日に練習の見学会が後日ある事を聞き、その日は、帰って行った。
三上は、吹奏楽部に早く入部したくてたまらなかった。実際に入部できるのは、4月中旬のようだ。
2週間後がまだまだ、先のように感じた。
数日後・・・
練習見学会の当日、学生会館の2階のホワイエの奥のホールに入る事に。
学生会館は、3階構造であり、ホールには、客席があり、客席から入るため3階から練習を見学することになった。
ホールの中も中々草臥れており、年季を感じる。
先輩達は、総勢約40人で演奏している。新入生の1回生は、約20人いる。
指揮者は、スーツ姿の小柄なおじさんが指揮を振っている。
先輩達は、難しそうな曲を演奏しており、何をやっているのか、三上には全く理解できなかったが、演奏している先輩達は、格好良く感じた。
見学は、40分くらいで終わり、部室に通され、ビデオを観る事になった。
吹奏楽部の部室は、壁が黄ばんでおり、こちらも年季が入っている。部室の広さは7,8畳くらいで部員全員が入ることは、難しそうだ。アルミの棚が4つ配置され、それぞれ書類が入っている。
奥には、勉強机が3つある。
そんなギュウギュウ詰めの状態で新入生は、ビデオを鑑賞した。
内容は、K大学の演奏会のビデオである。J高校で行っていたホールよりも格段に立派なホールで演奏会を開催している。
何やら幕が開け、大歓声とともに赤い集団が楽器を持って立っている。
真っ赤な帽子に羽が付いた帽子を被り、赤いラインの入った白いズボンに赤を基調としたパレードコートを着て、手には白袋を着けた集団が姿を現した。
「この楽器を演奏する人達をメンバーっていうんやで。メンバーの後ろで打楽器を持っている人達をバッテリーっていうの。袖で鍵盤や小物楽器を演奏する人達をピット。旗を持っている人をガードっていって、ステージに華を添える人や。」
緒方が解説した。
それから数秒後、白を基調としたパレードコートを着た女性が姿を現した。
「この人がこの中で1番偉いドラメ様。ドラムメジャーや。」
緒方が説明を入れた。
彼女は、客席から見て舞台の前方左に立ち白手袋をした両手を掲げて、指揮を振りながら遅いテンポの掛け声を放った。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
掛け声を皮切りに曲がスタート。
三上は、その曲に聞き覚えがあった。
誰もが知っている有名なロールプレイングゲームのイントロだった。
鍵盤のゆったりとしたメロディに乗せて、女性ガードが手に1メートルくらいの銀色の棒に白い布をつけた旗を持った女性が、音楽に合わせて、踊っている。
左右の袖からドライアイスが流され、独特の世界観になっている。
三上は、引き込まれていた。
曲調が変わり、そのゲームの戦闘曲に切り替わった。
後ろのメンバーが動き出す。
曲調に合わせて、フォーメーションを変えながら、演奏する。
曲線の陣形から四角形に変化し、かと思えば、直線になったり、図形が回転したりと、目まぐるしくフォーメーションが変化する。
どんなに激しい動きをしても音が途切れることもない。
バラードを演奏したり、様々な楽器のソロがあったりと、見所は、盛り沢山だった。
ステージの最後にバーナーといわれる大きな横向きの旗の左右を2人係でガードが肩に掛けて担ぎ、歩いて登場した。そこにはこう記してある。
『MARCHING BAND RED』
そのバーナーを持つ2人の間隔のちょうど真ん中にくるようにドラムメジャーが一緒に歩いて登場する。
曲の終わりのリズムに合わせて、ドラムメジャーが敬礼をして、ステージを締めくくった。
20分くらいで、ビデオが終わり、3回生のリーダー的な緒方が説明した。
「これは、ステージマーチングショーっていって、K大学がもっとも得意とする演目やで。」
三上は、驚いた。
と同時に身体が拒絶した。ステージマーチングという演目を受け入れられなかった。旗を持って踊ることも、真っ赤な衣装を着て、歩きながら吹く事も遠慮したかった。
よく見ると舞台の袖で、鍵盤や小さな打楽器を叩いている連中がいるじゃないか、これをやればあんなに激しい動きなんてしなくて、いいんじゃないかと自分を落ち着かせ、これを他人事と捉えた。
その後、緒方から吹奏楽部の説明があった。
「演奏会前は、月曜日〜金曜日の18時〜20時まで練習し、演奏会が近くなったら土日も練習するようになります。
演奏会が終わったら、基本オフになります。」
三上は、逆に燃えた。土日が休みなら、毎日暇やからちょうど良いわと自分を納得させた。
緒方からの説明は、続く。
「これから、担当したい楽器の希望を取りますので、これから配布する紙に第3希望まで、必ず書いてください。また、入部届も配りますので決心ができた人は、入部届を記入してください。来週月曜日から練習に参加してもらいますので、よろしくお願いします。解散。」
いよいよ核心に迫る内容になってきたことで、三上は高揚してきた。
三上は第1希望をサックス、第2希望をだが、第3希望をホルンにし、入部届も提出した。