第4話 事の始まり
事の始まりは、『2246年度 惑星間移動実験』の失敗からだった。
直接関わっていた研究者の数少ない生き残りは
「まるで昔のSF映画を見ているようだった」
と口を揃えて呟いた。
では、その実験内容とは何か?
順を追って振り返る。
実験は3段階に分けて行われた。
第一段階は、対象となる2つの惑星が出す磁気で衛生で捕らえる事だった。
その対象は、地球と火星。
既に月との間では実用化された技術であったので難無く成功した。
第二段階は、捕らえた磁気を糸のように紡ぎ布を織るように絡み合わせて筒状に形成する事。
磁気の筒は、ロケットが高速で行き来するトンネルだ。
これも既に実用化された技術だが、研究者の一部から
長距離化による強度の脆弱について懸念されていた。
だが不具合は何一つ発生しなかった。
さて、本命である第三段階。
それは、筒を凝縮する事で時間を圧縮し
さながらワープした様に対象の惑星へと到達する…というものだ。
これは全く初めての試みだが理論上は可能だった。
そして呆気なく成功した。
なんと、無人ロケットは敷居をまたぐ速さで往復した。
あまりにも順調過ぎる大成功に多大なる恐怖心を抱く研究者が数名いたが
大多数の研究者と関係各国の要人、資金提供していた企業や株主らは大いに喜んだ。
だが、この成功した日から5日後
些細なきっかけでシステムが大暴走し地球は最後の日を迎える。
運命と言うのか…。
必ず生き残る細胞は存在するらしい。
システム障害を起こした衛星の影響で、地球半面の地表が玉葱の薄皮を剥いた様に消滅した。
ならば真反対側は辛うじて難を逃れたのか?
地下深くに建設された研究室で仕事をしていた研究者と管理責任者、その日に配管工事をしていた数名の業者は
外の様子を映す巨大スクリーンを凝視していた。
だが、いつまでも真っ黒い砂嵐を映し出すだけなので否が応にも、誰もが地球の運命を悟った。
こんな状況下では人は発狂するものだ。
「俺の女房と子供は、ここにいるんだよ!!」
研究者の1人がスクリーンを拳で叩きながら叫んだ。
誰も男を止める者はいなかった。
女性研究員が啜り泣きしながら床に崩れ落ちた。
生後3ヶ月の我が子を振替休暇で家にいる夫にあずけて出勤していた。
スクリーンは時折、焦げた死体の山とそれらの向こうにある廃墟も映し出していた。