1章8話 奮闘
第3次攻撃隊が到着したのは1時間後の事だった。
発見したのは2隻の空母で目標としていた手負いの空母とは違う。
どうやら2つ目の艦隊を発見したようだ。
「各自目標は自由とする!小隊行動は厳守せよ!」
隊長の合図と共に、攻撃隊は突撃を開始した。流石に2隻の空母とだけあって、迎撃機は20機を超えていたがそれでも艦爆隊、艦攻隊はそれらを零戦にまかせた。
最初に攻撃に移ったのは加賀艦爆隊の7機だ。狙われたのはスプルーアンスが乗艦しているエンタープライズ。
エンタープライズは自慢の32ノット(時速57キロ)で回避するが、3機目で捕まった。
投下された爆弾は前部エレベーターを貫通、格納庫内で爆発し、近くの作業員数名と航空機を巻き込んだ。
アメリカ軍の空母はオープンハンガー式で、格納庫内で爆発が起きても隔壁が簡単に吹き飛ぶ設計になっていて、被害を最小限の抑えられるようになっている。
その事もあってエンタープライズは何事もなかったように回避行動を取り続けた。しかし、格納庫内は人肉の破片によって埋め尽くされた。
一方のホーネットは魚雷3本、爆弾2発が命中していた。その命中弾の全てが、蒼龍搭乗員によるものだった。
ホーネットは魚雷の1本を艦尾に食らい、旋回不能となっていた。
そこを狙われ、魚雷を叩きこまれたのだ。ホーネットは左に24度傾斜し、戦闘は不可能と判断された。しかし、それをやすやすと逃がすほど日本軍は甘くなかった。
艦攻隊がさらに4機ホーネットに接近。護衛の駆逐艦やホーネットはやらせまいと機銃で弾幕を張ったが、1機を撃墜しただけだった。
発射された3本の魚雷のうち2本が命中。当たりどころが悪かったのか、ホーネットは急速に速度を落とし、さらに傾き始めた。
あまりに酷くなったため、総員退艦命令が発令され、ついにホーネットは魚雷処分が決定した。
一方のエンタープライズは大破状態だった。爆弾により飛行甲板は穴とめくれあがった箇所が多く、格納庫で爆発した物もあったため航空機もズタズタにされ、戦闘能力を失った。この事にスプルーアンスは自分のプライドをズタズタにされた。
「ジャップごときに、ホーネットを沈められるなんて……」
スプルーアンスは歯ぎしりをした。ハルゼーに任されたのに、こんなボロクソな結果を持ち帰る羽目になったのだ。
でもこっちは空母を3隻もたたいた。撃沈は確実だという。
「なんとかエンタープライズを守り切るんだ!!」
戦場は何が起こるかわからない。その証拠として、赤城艦爆隊がエンタープライズに狙いを定めていた。
フレッチャーのヨークタウンは魚雷攻撃を受け沈んだ。魚雷処分の前にやられた、潜水艦だ。
草鹿のもとに潜水艦伊168が戦線に加わるという報告が入った。その報告の中には、敵空母1隻を視認するとあったのだ。
草鹿は迷わず許可し、伊168はヨークタウンに魚雷6本を発射した。
作業の為接舷していた駆逐艦マハンに1本、ヨークタウンに3本が命中した。マハンは第1主砲塔弾薬庫に直撃し、大爆発。竜骨がその衝撃で折れ、5分もたたないうちに轟沈した。
ヨークタウンはただでさえきつい状態なのに魚雷3本を食らいただでは済まなかった。
ヨークタウンは乗員の退艦を待たずに急速に艦体を斜めにし、被雷から13分後に海中にその姿を消した。
これで、アメリカ軍の空母は2隻が沈んだ。アメリカ軍は、ミッドウェー占領を阻止したが、戦力を大幅に失ったのだ。
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エンタープライズを攻撃していた第3次攻撃隊は弾薬がつき、帰還していった。
エンタープライズは魚雷4本、爆弾3発をくらったがなんとか沈まずにいた。これ以上魚雷を叩き込まれていたら確実に沈んだだろう。スプルーアンスは何も言えなかった。
第3次攻撃隊は飛龍へと到着した。生還機は零戦6、艦爆21、艦攻9。92機から36機へと減ってしまった。それでも彼らはヨークタウンとホーネットを海の藻屑へと変え、蒼龍の仇を打ったのだ。
艦隊は歓喜に満ちた。加賀と赤城が大損害を被り、飛龍が生存、損失は蒼龍と日本軍も無事ではなかった。
飛龍の攻撃隊収容と海上の人命救助が終わり次第、撤退するとのことだった。
この大反撃の奇跡は、生存したパイロットに希望を与えた。
たとえ窮地に陥っても、我が海軍は負けないと。
こうして、彰が知っているミッドウェー海戦は形をかえ、日本軍側の痛い勝利となった。
……はずだった。
Fin