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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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1章4話 貯めてた思い

十三試艦上爆撃機…後の彗星艦爆の試作型はその性能を発揮せんと勇ましく蒼龍から飛び立った。

十三試艦上爆撃機は最高速度時速519キロ、F4Fは時速514キロであり、迎撃を受けても十分退避可能とされている。

高速の彼らは敵を求め、戦闘機などなんぞという意気込みをもって母艦の視界から消えた。


     ――――――――――――――


十三試艦爆と入れ替わりで第1次攻撃隊が帰還。山口は一切の人情も私情を捨て、補給が終わり次第迅速に第2次攻撃隊を出せと命令した。

しかしそれを南雲は却下。

第2次攻撃隊は十分に間に合うと判断した。実際は加賀が9機、赤城が6機終わっただけである。他の機はいまだ陸用爆弾に転換中だ。


「なんで却下したんだ!!」


彰が怒鳴った。


「何故だ?敵艦隊は確かにいたが、直掩機も十分だし、距離を考えるとまだ余裕だ。」

「そんなことを言えるのは慢心の証だ!この天候を見ろ!上空は雲が厚い。米空母から艦載機が来ていると言っただろう!!この後利根4号機から更に空母発見の報告が来る。その後の雷撃隊が来る前に、艦載機を発艦させないと地獄になるぞ!!」

「何が言いたい?」

「艦載機は戦闘機、雷撃機だけだと思っているのか!?」


南雲はすぐに理解した。


「まさか…!?」

「並べようと考えても、そうでなくても、装甲のないこの空母は、雲に隠れて接近したSBDにやられるぞ。」

艦橋職員は愕然とした。戦術的にも可能性はある。この男は、やはり本物だ。


「ならば、どうすれば?」


迷った。彼は歴史を変えるべきか、変えないべきか、彰は数分迷った。そして出した答えは…


「陸用でも良い。爆装が終わってる機体はそのまま発艦させ、まだ魚雷のままの機体はそのままにして、今すぐ発艦準備をさせるんだ。雷撃隊は来るが、全てかわすか直掩機に全てやられる。」

「その後に爆撃が…?」

「そうだ。これからあんたらがやるのは帝国海軍の迅速性、協力性が試されるんだ。俺が男であるように、あんたらは軍人だ。将来の日本で立派に戦った将兵としての名を、ここで諦めて汚すのか?」


この男、口も達者だな。南雲は心の中で笑った。


「皆、聞いたか。この小僧はいきなり現れた挙句、我々帝国海軍軍人に説教をたれている。こんな奴に負けていいのか?南雲機動部隊、全力をかけて発艦準備を行え!!」

「おう!!」


艦橋が慌ただしくなった。あっちこちから命令の怒号が響き渡り、甲板のエレベーターからはまだ作業の終わってない艦攻が姿を現した。続々と艦載機が飛行甲板に上がってくる。

(これで間に合うかどうか……。正直怪しいが、また兵装転換するよりは時間は大幅にカットされる。)


「彰よ。」


突然呼ばれたことに驚き、彰は


「はい!?」


と間抜けな声で返事をしてしまった。


「ふふ、間抜けな声だな。」


そりゃいきなり呼ばれたらそうなるわ。


「さっきはありがとう。」


不意のお礼に戸惑った。


「え…?」

「正直私は今回のこの事態が怖かった。ちゃんと指揮官として上手くやっていけるのか、自問自答ばかりしていたんだ。未来人なのだからハワイ攻撃は知っているだろう?」

「ああ。」


真珠湾攻撃。米太平洋艦隊の空母・戦艦群を壊滅させるために行われた奇襲攻撃である。

もっとも、宣戦布告はきちんと行ったのだが、最悪な事にその日は日曜日で在米日本大使館は休みであり、それが影響して宣戦布告の通達が大統領の手に渡ったのは攻撃後30分たってからである。


「あの時指揮をとったのは私だが、はっきり言って私には緩かった。ただ泊まっている船を攻撃するだけなのだから。でも今回は違う。原中将が経験した珊瑚海海戦と同じで、何が起こるかわからないから怖かったんだ。」


彰は表情が曇っていく南雲の頭にそっと手を置いた。


「俺だって怖いさ。いきなり戦場のど真ん中に飛ばされて、死んでいく人間がわかるんだから。でも俺には君たち女の子がこんな無慈悲な戦争で死んでいくのが許せない。俺は、君たちを守るために、帰り方がわからない今はこの持ってる知識を使うよ。」


南雲は胸に熱いものを感じた。父も母も、私を男のように育て、そこら辺の男なんぞに負けるなと、父はいつも厳しく叱った。

母も、喧嘩で負けるなど許さないと言って、優しさを感じた事ない。

でもこの男は、私の為に知識を使うと言ってくれた。

嬉しかった。

こんなに優しくしてくれたのは、不覚にも、この男が初めてだった………。

「うっ、うっ、うあ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

南雲は泣き始めた。周りに部下がいるのをお構いなしに泣き始めた。彰はそんな彼女をそっと自分の胸におさめた。


「長官……」


草鹿が心配そうに声をかけた。


「大丈夫、ストレスによる一時てきなショックだろう。すぐ泣き止むさ。草鹿さん、しばらく指揮を任せても良いですか?」


草鹿は黙って頷いた。その場の者も黙って頷いた。いくら上官とはいえ、まだ年頃の女の子なのだ。特に娘がいる者は涙を浮かべながら頷いてくれた。


「艦長室まで送る。」


草鹿はそう言って案内してくれた。彼女がいつも通りの姿になるまで20分かかった。


    ―――――――――――――――


「我敵艦隊発見す。敵は2隻の空母を中心とする輪形陣を形成する。」


報告が入ってきたのは南雲が艦橋に戻ってきて5分たってからだ。


「ここからが勝負だ!迅速に発艦準備を行え!1航戦の意地をみせろ!」


既に甲板には半分近くの艦載機が並べられている。


「敵機接近!雷撃隊だ!」


運命の歯車は、狂っていない。それが今、確かめられた。


Fin


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