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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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1章3話 確証

「敵らしきもの10隻見ゆ。ミッドウェーより10度、240浬。」


 それは利根4号機からの報告だった。この報告に南雲司令部は興奮したが、南雲本人は静かに思いにふけていた。


(米軍の艦隊が出てきていることがこれでわかった。あとは戦力がどの程度なのか、それがわからなければ、憎たらしいがこの男の言うとおりになる。)


「利根4号機に艦種識別の為に接触を続けるよう打電しろ。」


 南雲は落ち着いていたが、ただ落ち着いてるだけではなかった。敵と初めて全力でぶつかるのだ。


 初の空母同士の戦いとなる珊瑚海海戦は原中将によって勝利……といっても祥鳳が沈み、翔鶴が中破という損害を受けてしまったが、あれは戦術的勝利であって、戦略的には敗北だ。

 私が戦略的にも、戦術的にも勝利をもたらしてみせる。彼女と…幼馴染みの多聞丸と一緒に。


    ――――――――――――――――


「ねぇ!空母はまだ見つからないの??」


 飛龍の艦橋では場違いのような幼い声が聞こえてくる。その声の持ち主は山口多聞やまぐちたもん、南雲の幼馴染みであり、第2航空戦隊の司令官だ。


「さきほど赤城に利根4号機から報告があり、艦隊の存在が確認されたようですが、戦力まではわかっていないとのことです。」


「もう〜、なんでいつもいっちゃん(忠一の一から)ばっかりひいきされるのよ!私にも教えて〜!!」


 子供だ。

 うん、子供だ。


 こんな愛おしい長官がいるだろうか。

 

 その場にいた者が同じことを考えた。山口は容姿こそまだ中学生、へたしたら小学生レベルだが、彼女にはもう1つの呼び名がある。


 部下殺し多聞。


 それが彼女のもう1つの呼び名だ。彼女の訓練は有名なほど厳しく、部下を徹底的にしごき倒す。それゆえ訓練は恐れられている。

 しかし、訓練後の彼女は訓練中とは程遠い優しさを見せ、ある時、搭乗員を招いてすき焼きを奢ったという。

 厳しくそして優しいという性格が彼女の評判となり、彼女の為なら命を懸けて守るという強者達が2航戦に集まった。


 つまるところ彼らはロリコンだ。


 ロリっ娘バンザイ!


「長官、第1次攻撃隊が帰還しました。」


「わかった!出迎えてくるね!」


 山口は無邪気に椅子から降りると甲板へと走って降りていった。


   ―――――――――――――――――


「敵機接近!急降下爆撃機10機以上!」


 南雲はすぐに双眼鏡を手に取り空を見上げた。確かに10機以上いる。しかし、さっきの奴らもそうだが、何故奴らは戦闘機を連れていないのだろうか?

 すると、横からあの男が割り込んできた。


「貴様!あそこで大人しくしていろと言っただろう!」


 しかし彰は動じなかった。その目は血眼になり、充血したように真っ赤になっている。その視線は敵機に向けられていた。本気の眼だ。


「あれは海兵隊所属、ヘンダーソン少佐指揮のドーントレス隊だ。16機いる。」


「………!?」


 双眼鏡で数えた南雲は驚いた。本当に16機いる。


「ただ目が良いだけなんじゃないのか?」

「それもそうだが、さっきも言っただろ。俺は未来から来たんだ。戦史や軍艦が好きで、この時代の事は何でも知ってる。」


 この男の言ってる事は本当だ。南雲は胸に暑いものを感じた。


「本当になんでも知ってるのか?」


「そうだ。」


「なら…、なら、多聞丸は、多聞丸は無事に帰還できるのか!?大切な幼馴染みなんだ!」


 彰は言葉が出なかった。この時代は俺の知ってる太平洋戦争とは違う。人物関係、女性がいること。しかし、それ以外は全てそのままの歴史をたどっている。だとしたら……。


「それは、言えない……。」


「なんで!知ってるなら教えてくれても良いだろう!?」


「長官!戦闘中です!既に部下は戦ってます!長官が私事を挟んだりしたら、規律が乱れます!」


 南雲は我に返った。既に対空戦闘が始まっており、SBDは3機が撃墜されていた。


「………すまない。」


 彰はただ黙っていることしか出来なかった。俺のいた世界では言いたい事を何でも言えた。しかしここは戦場、彼女は今一瞬幼馴染みを心配する女の子だった。彼女だって戦いたくはないのだろう。

 しかし、上官として、大部隊を率いる長として示しつく行動しなければいけない。戦争とはそういう非情な場所なのだ。


 この空襲は凌ぐことができ、陸上用爆弾に転換作業を再開させた。しかしそれも、B-17の飛来によって待た中止となった。しかし、敵は高高度からの爆撃を行い、やすやすと回避できた。


 友永隊が帰ってきた。彼らによると敵の被害は大して多く無く、航空隊はほぼ壊滅だろうというだけだった。そんな時だ。


「利根4号機より。敵艦隊は巡洋艦5、駆逐艦5。その後方に空母1を中心とする艦隊を視認する。」


 艦橋は騒然とした。草鹿は信じられないという感じの顔で、


「予測していなかった訳ではないが、さすがにこれは……。」


 と呟いていた。


 これでハッキリした。敵空母は1隻以上いる。ほんとの戦力はわからない。………わからない?


「おい。彰とか言ったな。この時代を知っているのなら、当然戦力もわかるのだろうな?」


 望み薄で聞いてみた。


「米軍は空母を3隻出してきている。ホーネット、ヨークタウン、エンタープライズだ。」


 南雲は何故かほっとした。戦力を知ったからではない。答えてくれたことに。


「だとしたら、なぜ攻撃してこない?」


「この時点ですでにこの艦隊の詳しい場所は知られている。しかし、タイミングがわからないんだ。それでも、スプルーアンス少将は117機を自分のところから、フレッチャーは35機出撃させてる。」


「向かってきていると考えてもいいんだな?」


「それで構わない。」


 南雲は考えた。このままにしていいのだろうか。空母がいるとわかった今、兵装転換していたらやられる。


「ひとまず、偵察を出そう。正確な情報を言ってくれたのは嬉しいが、確信しているわけではない。」


 そう言って南雲は電話をとり、飛龍へと繋いだ。


「多聞丸、聞こえるか?」


 すぐに返事は来た。


「いっちゃん!声聞きたかったんだー!かけてきてくれて嬉しいよ!」


 良かった。いつもの元気な彼女だ。


「十三試艦爆を出せるか?」


 山口の声が変わった。


「十三試出すんだね?何かあったの?」


「空母が3隻いると教えてくれた。信じていないが、ホントだとしたら相当まずい。」


「さっき言ってた子だね?わかった!すぐに出すね!」


 そう言って電話は終わった。


 これが、南雲と山口の無線での最後の会話になるとは誰も知らない。


Fin

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