声のない天使
↓登場人物の名前紹介↓
・織野 龍輝21歳
↑バンドのボーカル
・藤村 秀23歳
↑花屋の店員(龍輝の天使)
・江田 誠25歳
↑龍輝のバンドのマネで秀の幼なじみ。
-ピピピ ピピピ-
携帯のアラームで目を覚ます。眠たい目を擦りながら時間を確認すると8時。
「.......はっ?! 」
一瞬で目が覚めた。
急いで身支度を済ませ、家を出る。
バイクをレコーディングスタジオまで走らせた。
遅刻ギリギリで到着。
「すいません! 遅くなりましたっ! 」
勢いよく開けたドアの前で深々と頭を下げる。
「バカじゃないの? お前。集合時間は10時。昨日言ったよな? 俺」
ときつい言葉を浴びせるマネージャーの江田。
「はっ?! マジっすか!? 」
「本当にお前はバカだ。このバカ。お前のせいでこの人が怖がってんじゃねーか」
江田は「この人」を指差した。そこには少し涙目になった男性(?)が立っていた。
「あ....すんません。つか、この人男なんすか? 」
そう聞いた瞬間に江田の拳が頭に落ちてきた。
痛すぎてその場でしゃがみ込んでしまった。
頭を抑えてると足音が近づいてきた。ふわりと頭に冷たい手が触れた。
顔を上げるとさっきの人が心配そうにしていた。
「その人はれっきとした男だ。バカ龍輝」
江田は怒り混じりの声で答えた。
「仕方ないじゃないすか。この人、すっげえきれいな顔してんですもん。男かって聞いてもおかしくないっすよ」
俺は江田の顔を見ず、ずっと彼を見つめた。彼は俺が言った「きれい」という言葉に紅くなっていた。
(見たことある人だな....この人)
髪質や目元があの人にそっくりで......ってあの人なわけないか。
「俺、織野 龍輝って言います。よろしくお願いします」
カッコワルい姿であれですが....とか苦笑いしながら彼に握手を求めた。
が、彼は一向に俺と握手をしてくれない。
ずっと俺と江田を交互に見ている。
すると江田がため息をついた。不機嫌な顔を江田に向けると江田が口を開いた。
「そいつの名前は藤村 秀。訳あって声がでないんだよ」
そう言われた秀さんは困ったように笑った。
「声がでないって、風邪かなんかすか? 」
そういった瞬間、本日二回目の拳が落ちてきた。また秀さんが慌てる。
「バカ龍輝。てめぇの声、出ないようにしてやろうか? あぁっ? 」
「江田さん、元ヤンが出てきてますよっ?! 」
「誰のせいだとっ!!! 」
三回目の拳が来るかっ!! と思ったが、来なかった。咄嗟に瞑った瞳を開けると目の前に秀さんが俺を庇うようにして立っていた。
「秀...? 」
「秀さん...? 」
秀さんはポケットからメモ用紙とペンを取り出し、何かを書いた。
書いたものを江田に渡した。
それを読んだ江田は渋い顔をした。「わかった、殴らねーよ」と呟きメモをゴミ箱に捨てた。
秀さんは俺の方を振り向き、一枚のメモ用紙を差し出した。そこには「Flower shop 木の葉」と電話番号が書かれていた。
またもう一枚メモ用紙を渡された。
-遊びに来ていいからね-と書かれていた。
秀さんはメモ用紙を渡し、俺の頭を撫でて帰っていった。
「江田さん....」
「なんだ」
「秀さんは天使ですか? 」
「お前もそう思うか? 」
「はい.....って、はっ?! いや、そこはバカ龍輝って言うとこでしょっ?! 」
「本当のことに同意したまでだ。悪いか」
「さ、さようでございますか....」
俺にはこの江田のキャラが全く読めなくて困っている。
「つか、江田さんと秀さんってどーゆー関係なんすか? 親しそうだったっすけど....」
「ん? 嗚呼、幼なじみだよ。あいつは俺の3つ下だ」
「ふーん.....」
江田の話を聞きながら俺は手元のメモ用紙を見つめた。
それから10分後、バンドのメンバーが揃った。
8時間のレコーディングを終え、家に帰ろうとしてふと思いついた。
(まだ、20時前じゃん....開いてるかな? )
俺は秀さんに会うためバイクを走らせた。
秀さんの店はレコーディングスタジオからそう遠くなかった。
「あ、電気付いてる」
バイクを降り、店のドアを開けた。
開けた瞬間、色とりどりの綺麗な花の中に儚い秀さんの姿があった。
「秀さん、来ましたよ」
俺が近づいて声をかけると異常なほどに体を跳ねらせた。
不思議に思っていると、秀さんが俺を見て柔らかく微笑んだ。
(やばい....この人はやっぱり天使だ)
秀さんはタブレットに文字を打ち込み始めた。
『レコーディングお疲れ様、龍輝くん』
「ありがとうございます、秀さん。沢山の花が置いてあるんですね〜....俺、向日葵とかしか知らないっすよ、花の名前」
俺がおどけてみせると秀さんは花が咲いたように笑った。
(可愛いっ! この人の笑顔が見られるなら恥かいてもいいや)
そう思った瞬間、秀さんが向日葵を差し出した。『向日葵の花言葉は"貴方だけを見つめる"、"愛慕"、"崇拝"っていう意味があるんだよ。向日葵、あげるね』
「そうなんすか...秀さんは俺にその3択で向日葵をどの意味で渡しますか? 」
オレは向日葵を受け取りながら質問をした。
『うーん...."愛慕"、かな? 』
秀さんは苦笑いをした。
『そこまで親しくないからなぁ....誠なら"貴方だけを見つめる"かな...』
秀さんが江田の話をしたことに少しモヤっとした。
「俺は、江田さんの話してません」俺が拗ねたように言ったから秀さんは慌てた。
『ち、違うよ?! 誠は僕の兄さんみたいな人だから、あの人の背中を見つめてたいってだけで....その、怒らせちゃったかな....』
少し不安そうな顔でこちらを見る秀さんが可愛すぎて、頬が緩んでしまった。
「怒ってませんよ。ちょっとモヤっとしただけです」
ほっとした顔の秀さんは実年齢より幼く見えた。少し嬉しそうにする秀さんは可愛い。
「あ、秀さんってこの後暇ですか? 何か食べに行きましょうよ、俺が奢ります」
秀さんはビックリした様子で俺を見た。
『いや...悪いよ。僕の分は僕が出すから』
秀さんは焦りながらタブレットを打っている。
「じゃ、向日葵のお返しということにしてください」
俺がそう言うと『でも....』と渋ったので、和風の料理邸に2名で予約を入れた。
「ほら、2人で閉店作業しましょう」
俺は渋る秀をせき立てて閉店準備を手伝った。




