よし、今からちょっと異世界トリップしてくるから。
異世界トリップ系の作者には是非とも一度最後まで読んでほしいです。
そして、考えてほしいです。
よろしくお願いします。
やばい、死ぬ。
あり得ないほどの量で血と脂汗がとめどなく流れているというのに、体はあまりにも冷えきっている。
血。
血。
血。
血だまりの中で、一人で溺れていた。
まぁ、これは全国的に見ても実によくある話で、つまるところ、当て逃げをされたのだ。
交通事故。
――不運な事故。
そしてさらにこれまた実によくあるエピソードで、今がよい子も眠る……えー、何時だ。
猛スピードで突進してくる鉄の塊にふっとばされてから、あまりにも長い間こうして寝転がっていたので、正確な時間が全く把握出来ない。
腕時計を見ると、――3、2、1で12時ジャストだった。
そして車にひかれそうになったのが、11時59分……どうやら俺は一分を一時間に感じていたらしい。
えっと、それでなんだっけ……。
そうだ、これがまたまたよくある話で、今深夜真っ盛りで、目撃者が誰もおらず――助ける人もおらず。
――やばい、死ぬ。
さっきから同じことを何度繰り返しているな、と重くなった頭で考える。
いやまぁ、でも、まぁいいか。
……ちょっと待てよ。
これあれじゃあないか。
不運な事故で亡くなった俺は気づけば見知らぬ異世界に転生していた! ってやつ。
おお、やりい。
俺にもついに回ってきたか、この役が。
まあ、当然、ハーレムは決まりだろう。当たり前だ。
三人くらいが良いかなー、で真ヒロインは、やっぱり幼馴染みに限るよな。ああ、あの「ほら、朝だよ~。起きて~。もう、寝ぼすけさんなんだから!」ってハートマーク出しながら朝起こしにくるタイプを希望するね。
でー、俺TUEEEE!!系の奴がいい。剣と魔法の世界でさ。
俺実は王族の隠し子でした的な。
2つ名は何にしようかな……これはいつでも決めれるから後でいいや。
しかし、女体化もなかなか譲れないな……。ここは男の娘で手を打とう。うん、そうしよう。
じゃあ、敵はどうする……。やっぱりここは王道的に、モンスターだよなー。
待て。そのモンスターを操っているのは、黒魔導師で、ハーレムのうちの一人が実はそいつのスパイだったっていうのはどうだろう。
で、最後そいつ泣きながら一騎討ちをして、ギリギリのところで勝った俺に、そいつが最期泣きながら告白してこの世を去る……うわやばい、想像しただけで泣けてきた。
で、最後は黒魔導師を、さっき倒したハーレムのやつから貰った刀を使った二刀流で倒すんだな、これが。
しかし、ハーレムの一人を失って悲しみにくれずっと引きもっていたを俺をそっと幼馴染みが抱きしめて、そこで俺がなんと立ち直るんだ。
おお、すげぇ!!
これでもう大一部終了じゃない。
――やばい、楽しみで仕方ない。
よし、今からちょっと異世界トリップしてくるから。
俺は目を閉じた。
「大失敗をして、死ぬほど後悔した中学のあの日。
「部活で、最後の試合で思わず涙が溢れたあの日。
「初めてあれだけ真剣に人を好きになったあの日。
「受験に合格して死ぬほど嬉しくて騒いだあの日。
「大学で友達の家に泊まってバカ騒ぎしたあの日。
「君が笑ってくれた、あの日。
「そんな楽しかったであろう日常を放棄するのかよ、俺。
「はあそうかい。
「つまり俺は、あれやこれやたくさん、本当にたくさんの思い出が詰まったこの世界を、これから辛いこともいっぱいあるだろうけど、まだまだ楽しくなっていくこの日常を、破棄しようってんだな。
「辛いことから逃げ出して、楽しい方に行くように、か。
「でもよ、俺。
「確かに向こうの世界はさぞかし楽しいだろうさ。そうとも。いけるもんなら誰だって行ってみたいさ、そんな世界。
「自分が中心に回る世界。
「何をしようとどうなろうと、必ず最後にハッピーエンドで終わるシバリの効いたルール。
「女の子にいちゃいちゃしてもらえる日常。
「そんなもんは、こっちの世界には無いことだ。
「ああ、そうとも。
「でも、そうなのか?
「なぁ、俺。
「本当にそれで良いのか?
――お前はこの世界で、あいつの、あの笑顔がもう一度見たくはないのか?
――だよな。」
俺は目を開けた。
さて、異世界トリップ系の作者様、どうでしたか?
また、そうでない方も、どうでしたか?
何か思うことがあれば、何でも感想に書いてください。
ありがとうございました。