第2話 ど・ろ・ぬ・ま すくーるでい の続き
これはお約束コメディです。
もしもどこかで見たような展開があったとしても
もしも何かで見たような落ちがあったとしても
それはそれでいいんです。だって、お約束だから。
ええ、そうですともっ
10分後、教室にやってきた担任の天堂、あだ名は『適当』が、教壇の横でにっこり笑って言った。
「えっと、本日から転校生がこのクラスに来ます。相生 燕くんです」
はいはい、ご都合主義、ご都合主義。ラノベ、ラノベ。
既に悟りに入った気分だったあたしが心の中で言った時、適当担任はその笑みのまま、付け加えた。
「えー、残念ながら、相生くんは今ちょっと行方不明してしまいましたので、自己紹介できませんが」
はいはい、行方不明、行方不明……って!?
さすがにその瞬間、クラスのみんなが担任の顔を見た。
もちろん、寝ている沙央里は除いて。
って、行方不明って……?
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
「ていうか、適当すぎだろ、先生」
溜息をつきながら、思わずオレはつぶやいていた。
校舎の最上階、職員室で初めて会った担任の教師は、確か天堂という名字だったと思うが、『適当』と名前を変えた方がいいような奴だった。
新しい転入生のオレの名前を知らないのはまだいいとして、今日転校生が来ることすら覚えてなかった教師は、転校生活でも前代未聞だ。
しかもそんなことをさらっと言ったあと、トドメに言ったセリフがこれだった。
『あ、机と椅子、委員長に運ばせるの忘れたから、自分で取ってきてくれ』
いや、先生、オレは今日初めて学校に来たんですけど……
一応、そこは言おうとしたが、
『出て右に行って突き当たりの準備室にあるから、よろしくな』
と軽く言われて、しょうがないと思って出てみたんだけど……右の突き当たりにあったのは階段だけだった。
まあ、そこでオレも戻って確認すれば良かったんだろうけど、階段を降りたのはまずかったかもしれない。
ていうか、この学校、本館を中心に建て増ししたらしい建物が繋がっていて、ちょっと角を曲がるとぜんぜん違う校舎にいたりして。
気がつくと、元来た階段も分からなくなってしまった。
うん、これはダンジョンだな。そのうち、そこら辺からモンスターが出てきてエンカウトバトルしないといけないんだろうな。
……ごめん、適当なのはオレも一緒だった。
というか、元々方向音痴なのをすっかり忘れてた。
多分、転入生に机を取りに行かせた教師はこの学校でもあいつだけかもしれないが、それに乗って学校で迷子になったのは、きっとオレだけだろう。
はう。
いつの間にかたどり着いたダンジョン、じゃない旧校舎らしい廊下は、しんと静まりかえっていた。
考えてみれば、まだHRの時間なので、生徒は多分教室にいるのだろう。
となると、HRが終わるまで案内してもらうこともできない。
何で案内板がないんだろうなあ、学校に。
いや、構内所々に案内板がある学校、っていうのも変だけど。
こういう場合、あんまり動かない方がいいんだよな、確か安全のためには。あと、水は確保しろとか……
って、それは山で遭難した場合の話だし!
何を言ってるんだ、オレ……
トントン
「……ねえ」
「!」
いきなり背中を叩かれて、思わずオレは跳び下がった。
振り向くと、そこにいたのは金髪の少女だった。
制服からすると多分高等部だとは思うが、まだ中等部だといってもうなずけるくらい、多分身長は140cm位だと思う。
でも、逆光に浮かんだ髪は腰までありそうで、ロールが掛かって光に金色に輝いていた。
顔立ちは筋の通った鼻、薄い唇、そして大きな瞳の色は、透き通るような碧。
どこからどう見ても、お嬢様がそこにいた。
そしてお嬢様はオレを見上げながら、小さく首を傾げると
「ねえ、先輩。ここどこか分かる?」
「え?」
「ボク、迷子になっちゃって。にゃはは」
……なんていうか、ちょっと残念な子だった。
「残念だけど、オレも迷子中なんだ」
「あやや。そうなんだ」
「おう。今日、転校したばかりでね」
「そかー、ボクも今年高等部に来たばかりだからね」
いや、もう9月なんだけど……何で迷子になるんだ?
「ていうか、どこに行こうとしたんだ?」
「んと、トイレ」
「……」
「ちなみに、小さい方だよ。にゃはは」
ごめん、残念すぎてなんか……
とりあえず、顔を見ていると口を塞ぎたくなる。
「どうしたの、先輩?」
「あ、いや……」
オレがそんなことを考えていると、残念なお嬢様がオレを見上げて首を傾げた。
それからポンッと手を叩くと
「そういえば、名前、言ってなかったね」
「お、おう」
「ボク、湊川 絵里栖<みなとがわ えりす>。1年C組だよ。あだ名はね、残プリ」
「残プリ……」
「うん。残プリっていうのはね」
絵里栖が説明しようとしたところで、オレは思わず口を挟んだ。
というか、聞かなくても分かった。
「残念なプリンセスだから、だろ」
「ほえ」
絵里栖はポカンと口を開けると、キラキラした目でオレを見上げた。
「良く分かったね~、残念なプリンセス、略して残プリなんだよ! プリンセスとか言われると、ちょっと照れるよねっ」
「……そうかもね」
いや、褒めてないから。
ホント、いろんな意味で残念な子らしかった。
「で、先輩の名前は?」
「お、おう。オレは、相生 燕」
「あだ名は?」
「ない」
「ふーん。残念だね」
残念な子に残念と言われた。
ちょっと悲しかった。
「まあ、今日転校したばかりだから、あだ名があるわけがないんだけどな」
「そっか~、でも、転校したてで迷子になっているのは格好悪いよね、相生先輩」
「いや、君に言われたくないから」
「あ、そうか。にゃはは」
見た目からすると残念なのだが、とりあえずノリは良かった。
「にしても、いいのか、慌てなくて」
「え?」
「だって……トイレなんだろ?」
「……」
絵里栖は不思議そうにオレを見上げると、パッと目を輝かせて手を叩く。
「ああ、そうだね。急がないとマズイよ、先輩」
「いや、オレじゃないから」
「えっ」
「えっ」
一瞬、間があって。
「……あ、そうだね、ぼくがトイレ行くところだよね」
「お、おう」
「変だと思ったよ。いきなりトイレとか言うから、先輩ってレディに失礼だなって思っちゃったよ」
いや、あなたが言ったんですが、残プリさん。
というか、トイレくらいならすぐに見つかると思うんだけど、さすがに。
とりあえず、辺りを見回すとトイレらしい表示は見えなかった。
が、ちょうどその時、階段を降りてくる小さな足音が聞こえてきた。
「あ、ミーナ」
その音を聞きつけて、絵里栖がニッコリ笑うと階段に駆け寄った。
「……」
駆け寄った絵里栖が、その手を持ってブンブンと振り回しているのは、同じくらいの身長の少女だった。
制服とスカーフの色からして、絵里栖と同じ高等部の1年生だろう。
少女は手を振り回す友達を無表情な顔で見ていたが、ふとオレの方を見て口を開いた。
「……下賤の民が」
「あ、こんにちわって、意味だよ。先輩」
間髪入れず、解説?をする絵里栖。
解説というか、翻訳……?
というより、そもそもそんなつもりでこの少女、ミーナが言っているのかは怪しいというか、意味が分からない。
でも、絵里栖はニコニコしながらミーナに頷くと
「先輩と、ちょっと迷子になってたところだったんだ」
「絵里栖、下賤の民に近づくのは禁忌です」
「うん、ごめんね」
「時の女神は無慈悲ですよ」
「うん、そうだね。もうそろそろ戻らないとだね。」
なんか、会話になっていない気がするが、お互いに納得してそうなのが不思議だ。
そんなオレの気持ちが分かったのか、絵里栖がオレを見ると、うんうんと頷いて
「ミーナはね、女神に使える神官戦士なんだよ」
「へ?」
「なんか、世界を司る女神さまの神殿神官にして魔法戦士、なんだって。その神官が、転生してる、って設定」
「設定?」
「うん。設定。にゃはは」
何事もない口調でとんでもなくファンタジーなことを言った絵里栖は笑った。
オレはミーナの顔を見たが、そこに特に表情はなく。
「……ロリコンがっ」
ごめん、一応、その気はないつもりだから。
多分。
いや、否定しますけど。少なくとも、無表情で毒舌を吐く少女に萌える要素はないと思う。うん。
ただ、何となく、その顔に見覚えがある気はするのだが、ちょっと思い出せない。
それに、その設定っていうのは、やっぱりアレだよな……厨二病?。
「あ、今のは、そんなにじろじろ見ないでって意味だからね」
更にその厨二病語を翻訳?する美少女ボクッ子。
ある意味、最強のコンビかもしれない。しかも、残念な。
「この」
「おう、そろそろ戻れよ」
オレは苦笑しながら、また何か毒舌を吐こうとした中二病少女の頭をポンッと叩いたその瞬間。
「へうっ」
いきなり、変な声を出して中二病少女は頭に手をやった。
と、そのまま絵里栖の影に駆け込むと、隠れるようにオレの方をそっと見ながら
「……え、絵里栖」
「あー、大丈夫、ミーナ」
そんなミーナに、絵里栖はニコニコしながら頷くと、オレに振り返って
「先輩、ダメだよ。ミーナ驚かしたら」
「いや、思わず」
「設定切れると、ミーナはちょー人見知りなんだから」
「……」
絵里栖の影から、半分隠れてオレを見ているミーナ。
ん……やっぱりなんか、どっかで見た記憶が……
「にゃはは、分かったよ。戻ろ、ミーナ」
「……」
ミーナに裾を引かれて、絵里栖は笑いながらオレに手を振った。
「じゃあね、先輩!」
「おう」
「……さ、さよなら」
その絵里栖の影に隠れるようにしながら、ミーナが小声で挨拶をした。
というか、本気で設定切れると印象変わるよな、あの子。
設定が切れてと言うか、設定的には転生人格が消えたらって言うんだろうけどな、厨二的には、確か。
まあ、ある意味ほほえましい風景だよなあ。
そんな二人を見送ってから、ふと思い出した。
オレ……迷ってたんだよね。あいつらに準備室の場所、聞けば良かった……
「……ここ、どこなんだろうなあ」
「旧校舎、特別教室棟、よ」
と、後ろからオレの疑問に答える声がした。
振り向くと、そこには茶髪の目つきの悪い女が立っていた。
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
「学校で迷子とか、意味分かんないしっ」
あたしはあの担任の適当な顔と、目の前の机を持って歩いている男……相生にもう何回目かのセリフをつぶやいた。
そもそも、何であたしがこんなことをしなきゃいけないのかが良く分からない。
『転校生が行方不明』なんてとんでもないことを言い出した適当担任に詳しく聞いてみたら、机と椅子を用意するのを忘れたとか……あり得ないことを言い出して。
しかも、それを転校生に取りに行かせたって、バッカじゃないの? まったく。いくら適当にもほどがあるわ。
しかも、それで取りに行って迷子になるって、どういう方向音痴なのよ、それは!?
更に加えて、あの適当担任、『とりあえず、委員長、探しに行ってくれ』とか気楽に言うし……クラス委員長はあたしなんですけど。
いや、まあ、担任は昨日のことなんか知るわけがないから、意味があってのことじゃなく例によって適当に言っただけなんだろうけど、だったら他の、男子に言えばいいのに、何であたしなわけ?
まったく……
ていっても、委員長と指名されたからにはしょうがないわ。
理由なく断ったら、何か変だろうし、といって理由を言うわけにも……
しょうがないので、沙央里を起こして一緒に探しに出て……さすがに一人で行くのも嫌だし、そもそもあいつと二人きりになったらマズイというか……みたら、準備室どころか、特別教室棟にいるのを偶然見つけたわけで。
というか、なんで準備室に行くはずが、あんなところに行けるのかが分からない。
まあ、もともとあの適当担任のやつが、職員室から外に出て左の突き当たり、といえばいいものを、右の突き当たりって説明したのがそもそもの間違いだったみたいだけど。
あの教師、『向かって右』と『出て左』の説明も出来ないのかしら。まったく。
でも、だからってなんでそこから逆方向どころか、遠く離れた特別教室棟まで行っちゃうのかしらね。それは方向音痴の一言じゃ済まされないと思うけど。
「いや……方向音痴なもんで。ごめん」
さっきから、あたしの疑問に同じ答えをする相生。
「いや、だから、そんな方向音痴、聞いたことないから」
「でも、ここにいるからしょうがないだろ」
「そういえば、昔からそうだったかもですよ」
と、相生の横を歩きながらうんうんと頷く沙央里。
「家から100m先のコンビニにお遣いに行って、1時間かかったことがあったですよ」
「そしてそこで待っているはずのお前は、家で寝てたんだよな、沙央里」
「……そうでしたよ」
いつもながらのボケだわ、沙央里。
ちなみにわたしも似たような目にあったことが何度もあるけど。
ええ、何度も。
「でも、オレ以上かもしれない奴、さっき見かけたけど」
「へえ。どんな人ですか?」
「ああ。えっと……残念な下級生ペア」
「なるほどですよ」
更に意味が分からない。
そして、それで頷くあんたも、いつもながら分からないわ、沙央里。
「ともかく、その残念な……」
「おっと」
とりあえず、残念な話の続きを問いただそうとした時、目の前にクラスメートの辻井が現れた。
「帰ってきたんだ、有朱さんと、沙央里。それと……転校生?」
「迷子のね」
思わず、嫌みを言っていた。
それくらいは、言ってもいいと思う。
「あはは。俺は辻井 真人<つじい まさと>」
「相生 燕。よろしく」
「おう」
「まあ、こういうインパクトありそうな事件は、自己紹介後にしたかったけどな」
「んー、確かに、あの適当担任が名前言ってたけど、みんな覚えてるかどうか」
「やっぱり」
「ですよね」
頷く相生、辻井、そして沙央里。
あたしはちょっと後ろから、それを眺めていた。
まあ、とりあえず、転校生だもんね。
いろいろ、昨日はあったけど……昨日の今日で疲れてるけど、あたしは。特に精神的に。
でも、まあ、普通の転校風景で。
……ちょっと普通とは違う気がするけど。
でもまあ……
「と、有朱さん」
と、辻井があたしに向き直ると、ニヤッと笑って右手を出した。
「というわけで、引いてくれ」
「え?」
よく見ると、その手の中には何か細長い紙のようなものが握られていた。
って、これってクジじゃないの?
慌てて教室の中を覗いてみると、黒板にいつものように座席表が書かれていた。
そして、そこに番号が書かれていて、みんなで番号を書いたクジを引くのが2年A組の席替えのルール。
「適当担任が、転校生も来たことだし席替えしろ、って言ってったんで」
ニヤニヤ笑いながら辻井が説明した。
まあ、前の席替えは夏休み前だったから、1月以上経っているのでタイミングとしてはおかしくない。適当担任しては、珍しくまともなことを言ったと思う。
だけど……
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ」
あたしは慌てて辻井を遮った。
「そもそも、なんで委員長であるあたしを差しおいて、席替えしちゃってるのよっ」
「いや、席替えは委員長の仕事じゃないし、そもそも」
「ぐっ」
た、確かに席替えの時の仕切りは委員長じゃなく、クラスの宴会部長、じゃない放送委員の辻井がやるのがこのクラスの決まりというか、慣例だった。
この手のお祭りというかリクリエーション的なものの仕切りって、適当に盛り上がって適当にルール通りしないといけないものだけど、その辺のさじ加減が辻井はうまい。
顔もそれなりだし話も面白いので、割に女子の人気も高くって、あの沙央里でさえ『実はここだけの話ですけど、おつき合いしているですよ』なんて妄想をあたしに話したこともある。というか、何度か言ってるけど。
あの沙央里に限って、あり得ないから。うん。
そんな、沙央里の戯言はともかく。
「にしても、人がいない間に勝手に進めちゃうってどうなのよ?」
「いや、有朱さんが出て行く前に、ちゃんと話したって」
「うそっ」
「嘘じゃないし」
「先生、言ってたですよ」
「うそっ」
「嘘じゃないし」
「ですよ」
……そういえば、何か適当担任が言ってた気がする。
あと、クラスで歓声が上がったのを聞いた気がする。
とりあえず、起こした沙央里が何か言ってたけど、そんなことは気にせずに教室を飛び出した気がする。
……気がするけど……
「で、でもやっぱり勝手に進めるってどうかかと思うわよ!」
「勝手じゃないから。ちゃんとみんなクジ、引けるから、ほら」
「2本じゃないの!」
辻井が握っているクジは、たった2本だった。
黒板の座席表の方も、もうほとんど名前が埋まっているし。
「……しょうがないわ。じゃあ、沙央里、あたしが先に……」
言って、とりあえずあたしが手を伸ばした時、沙央里が小さく首を振った。
「わたしはもう、引いたですよ」
「え?」
「というか、俺が代わりに引いておいたから」
「ありがとうですよ、真人くん」
「……え?」
て、なんであたしの分も引いておいてくれないわけ? 沙央里だけって、係として不公平じゃないの?
まったく、そんなじゃあ沙央里の戯言が本当かもって誤解しちゃうじゃないの。
しょうがない。
もう一人が誰か知らないけど、残っている2本のクジの1つに、あたしは手を伸ばして
「もう一つって、オレ?」
「ですよ」
「OK」
と、相生が手を伸ばすとクジを先に引いていた。
「えっと……23番」
「おめでとう、特等席だ」
「ついてるですよ」
「おー」
あたしは黒板の座席表を見た……23番は最後列、窓際だった。確かに、特等席ね。
ちょっと悔しい気がした。
あと、残った席は……って?
「……辻井くん」
「うん?」
「……残り、一つよね?」
「おう」
「……」
あたしは最後のクジを引いた。
そして、黒板の座席表の、たった一つ残った座席番号と見比べた。
ていうか、残り一つなんだから引くまでもなかったけど。
24番。
「悠羽那、最後列でラッキーですよ」
「さすが委員長、日頃の行いだな」
「……」
特に裏などないのだろうと思う、辻井と沙央里の言葉。
さすがに、これは……誰かの陰謀じゃないと思うけど。
思うけど……
23番と24番は、隣だった。
まあ、番号からして当然……って、何落ち着いてるのよ、あたしはっ
「さて、そろそろ予鈴なるし、座ってないと」
「熊、いつも時間通り来るですよね」
「おう。机、手伝うわ」
「あ、サンキュー」
周りで何か言っているけど、それはともかく置いておいて。
ま、まさか昨日のことをクラスのみんなが知っているはずはない。と思う。うん。
沙央里あたりは、祥子さん経由で何か知っているかもしれないけど。
いや、今朝の感じでは何も知らないみたいだった。もちろん、
だから、別に普通にしていれば問題ないはずよ。
でも……やっぱり隣はまずいわよ、やっぱり。
そうだ、席替えのルールでは、個別取引は、予鈴が鳴るまでならアリ。
黒板を見ると、沙央里はあたしの前。
よし、ここは沙央里に変わってもらう交渉をっ
キンコーン
「えっ」
その時、交渉終了の予鈴が鳴り響いて。
「……委員長、入れ。授業を始める」
熊、と呼ばれる教師が、教材を持ったまま立っていて。
廊下から見える教室は、みんな席について静かにしてて。
……最後列、窓から2番目の席だけが空いていた。
ゲーム、オーバー。
はぅ
「……はぃ」
あたしは熊に頭を下げて、教室に入った。
そして、机の上にあたしが鞄が置かれた24番の席に座った。
誰かが鞄を動かしておいてくれたらしいけど……礼をする気になれない。
まあ、どうせ前の席にいるあたしの幼なじみなんだろうけど……もう寝てるし。
そして、隣は……
いや、見てなくていいから。
大丈夫です。あたしは。うん。
かわいそうな子を見るような目で、見るんじゃないわよっ
はぁ。
落ち着こう。
こういう時、焦るともっとマズイ方向に行くのよね、あたしは。例えば、昨日みたいに。
うん。
でも、昨日のことは、落ち着いて考えても、とりあえず学校的には誰も知らないはず。
沙央里なら知っていても、万年眠り娘の言うことだから気にしなくていいとして。
あとは静かに、何もなく学園生活を暮らしていれば、問題ないはず。人目を引かなければ。
……相生が、この学校のことを分かっていれば、だけど。
もう一度、相生の方を見てみる。
どう見てもイケメンじゃない……じゃなくて、分かってそうもない、この学校のことを。
まあ、沙央里がちゃんとした説明が出来るとは思えないし、そもそもそんな時間があったかどうかもわからない。なんたって、万年眠り娘のことだし。祥子さんから聞いていたら……分からないけど。
あとは、ともかくこの男にちゃんと説明しないと。今じゃないけど、今日の早いうちに……
「有朱」
「は、はいっ」
いつの間にか、熊があたしの正面に立っていた。
その巨体があたしを見下ろして
「教科書、見せてやれ」
「はい?」
「相生が今日はまだ教科書がないそうだから、見せてやれ」
見ると、相生の机の上には、ノートしか置いてない。
そういえば、昨日もこの街に来たところだと言っていた気がする。
昨日の雨の中……濡れて……下着
って、何思い出してるのよ、あたしっ
「あ、えっと、貸せばいいんですね」
「……何を言っている?」
あたしは慌てて教科書を相生に渡そうと手に取った。
が、その時、熊はいきなりあたしの机を掴むと、隣の机にくっつけた。
「って、小学生じゃあるまいし、何でこんな?」
「騒ぐな、小学生じゃあるまいし」
「ぐっ」
そのまま、教壇に戻っていく熊。
周りの目線も……感じる。
うん。ここは、大人しくするしかないわよね。
大人しく……
「……何してるんだ、悠羽那?」
「言っとくけど」
「?」
「この境界線からこっち、絶対入ってこないでよ」
「……」
とりあえず、絶対境界線を教科書とペンケースで設定する。
小学生の頃から、教科書を忘れた隣の男子と机を並べる時に必ずやってきた決まり。
当たり前のことだけど、鈍そうなので一応、相生に断っておく。
「……マジ?」
「マジに決まってるでしょ!」
「……」
やっぱり、分かってなさそうな顔。田舎ではこんな基本も習わないのかしら?
というか、習うもなにも常識だと思うんだけど。
まったく……
なによ、その残念な子を見る目は……
残念なのはそっちでしょ?
「……一応聞いてみるんだけど」
あたしが睨んでいるのに、空気を読めなそうな相生は、そのなぜか残念な子を見る目で
「空中はありか?」
「もちろん、ダメよ。」
「いや、一瞬だったらいいとか」
「ダメに決まってるでしょ」
「いや、普通は3秒ルールが……」
「ダメだって言ってるでしょ、このボケっっっっっ!!」
「……誰がボケなんだ、有朱?」
気がつくと、あたしは立ち上がって相生を見下ろしていた。
そして、そんなあたしの前、熊がその巨体で立ってあたしを睨んでいた。
あたしは……
……ボケは、あたしだ……
はぅ
あたしは机に突っ伏した。
死んだ。
ていうか、滅したい……
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
キンコーン
「ではこれで授業を終わる」
「起立!礼」
熊は来た時と同じく、終わりのチャイムぴったりに出て行った。
あのガタイ、あの風貌で、几帳面な数学教師って言うのがギャップだと思う。残念とも言わないし、萌えもしないけど。
なんて熊のことは今はどうでも良い。
あたしは机に突っ伏して死んだままだった。
ていうか、死にたい。
あたしは真面目でクールな委員長のはずなのに。いつから『ちょっとかわいそうな子』になっちゃったんだろう?
ていうか、なってないけど。なってないよね?
誰か、『うん』って言って欲しい。
はぅ
「悠羽那~」
「……」
誰かが呼ぶ声がする。
というか、隣の奴なのは分かってるけど。分かってるからこそ、反応する気になれない。
多分、机を直さないとまたマズイことになる。そう言いたいんだと思うけど。
分かってます。分かってるけど、あんたに今呼ばれたくないわ、相生。
ほっといてよ……
「悠羽那さん~」
「……」
「かわいそうな子の悠羽那さん~」
「……」
誰がかわいそうなのよっ
……あたしだけど……
でも、いったい誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ!
……あたしだけど……
い、いや、そもそもこんなことになったのは、こいつのせい……
「かわいそうなボケの悠羽那さ……」
「うっるさいわねえ!」
さすがにカチンと来て、あたしは相生の制服の襟を掴んだ。
「誰がかわいそうなボケよっ」
「……悠羽那さん」
「はぅ」
反撃が痛い。
いや、でもっ
再度、何か言ってやろうと顔を上げた時、教室の入口のあたりを見た相生がつぶやいた。
「あれ、確かミーナ、だっけかな」
「……ミーナ?」
相生の目線の先を見た。
多分、我ながらギギギ、と音がしそうな動きだったと思う。
「……何で知っているの?」
「いや、なんでって言うか……授業はじまる前に言ってた、残念な下級生?」
「……」
もう一度、そこにいる残念な下級生を見る。
……だから何で半分だけ隠れてみてる必要があるのよ、実那……
「……うん、確かに残念ね。ていうか、厨二だわ」
「だな」
「ちなみに、言いたくないけど……あたしの妹よ。」
「えっ」
家族って選べない。
選びたかったわ、妹とか、母親とか。
あと、父親も……
と、いつの間にか実那が教室に入ってきていた。
いつもの無表情……いや、ちょっと顔が赤いかも。微妙に。
実那はあたしの前で立ち止まると、右手でスッとあたしの隣、相生の顔を指さした。
「……この陰獣がっ」
「え?」
ナニイッテルノ?
意味が分からない。
昨日は『お大事に』とか言ってなかった?
いや、それだって意味分かんないけど。
「昨日の姉だけでは物足りず、次は誰の純潔を狙うかっ」
「って、ちょっと、実那!?」
「ミーナですからっ」
って、そこに反応しなくて良いから。
ていうか、人のじ、純潔とか大声で言わないでよ、あんたはっ
って……み、みんなに聞こえてる?
思わず辺りを見回すと、実那の大声が聞こえたのか、クラス中があたし達を見ていた。
って、ちょっとちょっと、これ……
「あのね、実那……」
とりあえず、あたしは厨二病の妹を止めようと手を伸ばした。
でも、実那はあたしを見上げると、次のセリフを吐きだした。
「陰獣に純潔を奪われてしまったのは仕方がないかもしれません。が、お姉様、心まで奪われては駄目で……へうっ、ぐぎゃ」
その瞬間、あたしは実那の襟を掴んで、教室の外へと連れ出した。
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
「あんなところで、何言ってんのよ、あんたは!」
「いや、オレに言われても」
「……」
オレの後ろ、顔だけ隠してびくびくしている厨二病の妹。
その妹に説教をしている目つきの悪い姉。
そして、その間に挟まったオレ。
場所は静かな音楽室。
「ていうか、なんでオレまでこんなとこ、連れて来られたんだよ?」
「え? だ、だって左手が、あんたの襟を掴んだままだったから」
「おい」
そんな理由だけで全速力で階段を降り、廊下を駆け抜け、特別教室棟の音楽室まで引っ張ってこられたのか?
しかも、右手では妹を引っ張って。
ある意味、感心する。馬鹿ヂカラだって。
でも多分、本人はテンパってただけだろうと思うけど。これまでの経験からして。
「ご、ごめん、なさい」
一方、厨二病のミーナは、今は設定が抜けてしまっているらしく、オレの後ろに隠れて悠羽那の顔を見上げておどおどしている。
多分、こっちが素なんだろうけど、確かに絵里栖が言ったようにちょー人見知りっぽい。
厨二設定中の暴言と比べると、ギャップが大きくて笑える。
萌えないけど。多分。
まあ、設定が切れたのは、悠羽那がここまで引っ張ってくる前、長ゼリフに思わず頭を叩いたせいだと思う。
例によって『へぅ』とか言ってたしな。
まあ、その直後、凄い勢いで引っ張ってこられたけどな、2人とも。
「だいたい、何しに教室に来たのよ、実那?」
「え……英語の辞書を、借りに」
「……」
少し甲高い、小さな声の実那。
悠羽那は何かを言おうとして口を開けた。
でも、すぐに閉じると、ミーナの顔を見ながら首を振った。
「……そう」
「……」
オレの後ろ、裾を握ったまま小声で答える妹に、腕を組んだまま目を細める姉。
こうしてみると、写真以上に姉妹に見える。
まあ、目つきはアレだけど。
「そういえば」
ミーナの顔を見て、オレは思い出したことを聞いてみる。
「朝に会った時はそこまででもなかったのに、何で教室ではオレにあそこまで厨二なセリフ言ったんだ?」
「……気付かなかった、から」
「え?」
「二人、並んでたら、思い出したから」
「……なるほど」
確かに、あの、部屋で見られた時は一瞬に近かったしなあ。
にしても、教室にしても、あの暴言と今の姿……設定って偉大だな。いや、厨二か。
どっちにせよ、この人見知りぶりからして、これを克服するために設定作ったのかもしれない。精いっぱい良く解釈してだけど。
にしても。
「えっと……何でオレの後ろ、隠れっぱなしなんだろ、ミーナちゃん」
「え」
ミーナは顔を上げてオレを見た。
「お姉ちゃん、怖い」
「実那っ」
「あはは、オレも怖いよ」
「くっ」
「お兄ちゃんの方が、優しそう」
「そうだろ……って!?」
お兄ちゃん?
えっと……
オレはミーナの顔を見た。
実那は限りなく普通の顔でオレを見上げていた。
えっと……ギャグじゃなく、マジですか?
えーー
「あんた、実那に何したの!?」
「ぐへっ」
次の瞬間、オレの制服の襟が強い力で締め付けられた。
ていうか、息、できません……
「ふ、不埒な真似したんだったら、殺すっ」
「してない、してません!」
「嘘っ」
「うそじゃないっす」
「このっ」
「待って、お姉ちゃん」
危うく気が遠くなりそうになったところで、ミーナが悠羽那の腕にすがって止めてくれた。
「わたし、何にもされては」
「じゃあ、なんでお兄ちゃんなんて言ってるのよ、実那はっ」
「だって」
ミーナは悠羽那の腕にぶら下がったまま、オレと悠羽那を見た。
「……お姉ちゃんの、彼氏だったら……お兄ちゃんに、いつかは」
言って、顔を真っ赤にしたミーナ。
……って!?
「な、何言ってるの、実那っっっっ」
「ちょっ、それはっ」
「へうっ」
悠羽那は実那を払い落とすと、顔を真っ赤にして実那に向き直り
「か、彼氏じゃないしっ、こいつは」
「え、だって」
「だってじゃないからっ」
「でも」
「でもでもないっ」
「……昨日、家で一緒に、し、下着で」
「あれは、その……偶然、偶然なのよ、分かる、偶然!」
「……どんな、偶然?」
「どんなって」
悠羽那は一瞬、口ごもったが、すぐに大きく頷くと
「ぬ、濡れたから、水たまりで、偶然。だから、家で服を乾かしてただけで、何の関係もないから。」
「……」
「だから、偶然だから。うん。偶然」
「……そっか」
悠羽那の顔をじっと見ていたミーナが、ニッコリ笑った。
「偶然、なんだ」
「ええ、偶然」
「……うん」
もう一度、ミーナは頷くと、またニッコリ笑って
「あ、そろそろ戻らないと。」
「ああ、そうね」
「うん。じゃあ」
ミーナは音楽室のイスの間の階段をトントンッと降りて出口へと歩いていった。
と、ドアを開けて振り返ると
「……照れなくてもいいのに」
「ちがっ」
ガラガラ
とクスクスと笑いながらドアを閉めて出て行った。
……理解してないよな、あの子。
まあ、あの説明で納得したら、それはそれでどうかと思うけど。
まったく。
まあ、姉妹のことにオレが口を挟んでもしょうがない。
ちょっとした誤解など、後でどうでもなるだろうし。
そういえば、そろそろ次の授業は……
「……相生くん」
って、相生と呼ぶんじゃなかったっけ?
オレがそう言おうと振り返ると
「……」
えっと……な、何かオレ、悪いことしたっけ?
例によって……というか、いつも以上にキツイ目で見られてるんですけど……
「……悠羽那、さん?」
「……」
かわいそうな子、とかボケとか言い過ぎたのがまずかったか?
ここはとりあえず、謝っておく手か?
などと思っていたところで、悠羽那が大きく溜息をついた。
「……相生。一応聞いておくけど」
「うん?」
「……あんた、あたしのこと、好きなの?」
「ぜんぜん」
「なら、いいのよ」
「そういうお前は?」
「まったく」
ですよね。
うん。
「まあ、ミーナの誤解のことなら、まあ誤解なだけだから……」
「あの子のことはどうでもいいのよ。それより、もっともっと重大なことだって、あんた、分かってるの?」
「重大? 誰にとって?」
悠羽那は大きく頷いた。
「あんたと、あたし」
「何が?」
「だから……」
オレが聞くと、悠羽那はもう一度、溜息をついた。
「やっぱり、分かってなかった。あの……沙央里のボケ娘めっ」
「いや、沙央里はいつもボケだろう」
「そうじゃなくてっ」
悠羽那はオレの襟を掴むと、いつになく真剣な顔でオレの顔を見た。
「うちの学校はね、不純異性交遊は禁止なわけ」
「……結構、どこでもそうだと思うけど」
前の男子校でも、やっぱり不純異性交遊は禁止だった。
正直な話、俺個人としては同性交遊の方が怖かったけどな……いやいや。
「そうじゃなくてっ」
でも、悠羽那は襟を持つ手に力を入れると、大きく首を振って
「だから、うちの学校の校則第1条で、不純異性交遊は禁止されているのよ」
「……で?」
「その校則に、だからもし違反したら、即退学になるのよっ」
「……はい?」
ごめん、多分、今、耳が変だった。
きっと。
「退学?」
「ええ。退学」
……
……
マジですか?
「嘘だろ?」
「嘘や冗談でこんなこと、言わないわよ」
まあ、笑えないし。
うん、笑えない。
ていうか、悠羽那の顔は全く笑っていない。
マジで?
「いや、でも、別にホントにつき合ってるわけじゃないし……」
「噂だけでも、生徒会か理事会の耳に入ったら、それで終わりなのよ。即、退学」
「なんでだよっ」
「校則違反には、他に罰則はないのよ。退学しか」
ええっ
どういう学校なんだよ、ここは……
「いや、でも、普通は退学以外にも、停学とか謹慎とか登校禁止とか……」
「ないの。不純異性交遊は校則違反。だから、即退学」
うわ……シンプルイズベストですね。
じゃなくてっ
「正確には、生徒会で校則違反の決議が出て理事会の査問委員会に諮られるか、直接理事会から査問委員会に諮られて、退学が決まるのよ」
「査問委員会……」
なんか、凄く重いんですけど……
ていうか、なんでいちいち理事会の査問委員会?
「なんでそんな強烈な校則なんだよ、ここは?」
「うーん、一応ここは教育重視な学校だから、生徒の適切な発育のため、だって」
「……」
「でも、この校則が作られたのは、あたしたちが中等部に入学した後なんだけどね。あたしたちが中等部に入った頃は、ここって女子校だったんだけど」
「へえ」
「それが4年前、共学になってね。その時、理事長が決めたらしいの、校則」
何となく、それは納得いくような。
まあでも、それにしても……
「というか、共学になった年に理事長の娘も入学したから、そのために変えたってもっぱらの噂けど」
……いや、それは公私混同というか、むちゃくちゃ自己中だろ、その理事長……
「だから、噂が広がって……その上、状況証拠を増やして、それが理事会の耳に入ったら、いくら本当はそうじゃないって言っても、あたしたち、退学になっちゃうのよっ!」
……納得した。
というか、するしかないことは分かった。
てか、最悪だ……
「……とりあえず、状況は分かった」
オレは目の前の悠羽那の肩を掴んで頷いた。
「ともかく、妙な噂にならないように、自然に行動するしかないな」
「そうね」
悠羽那も大きく頷いた。
「ともかく、ただの転校生とクラスメイトの女生徒、って感じで……」
ガチャーン
「だから、押さないでってば」
「うわっ」
突然、大きな音がした。
オレたちは音のした方を見た。
「……あはは」
「ども」
そこ……音楽室の入り口に、倒れ込んでいるドア。
そして、その上に同じく倒れ込んでいる、沙央里、辻井……その他、クラスメートたち。それと……?
「……実那?」
「あ、えっと……」
倒れ込んでいたミーナが立ち上がると、小さな声で言った。
「まだ、辞書、借りてないから……」
「……」
でしたね。
うん。
そうでした。
「……沙央里、お前……」
「わ、わたし達は音楽選択ですよ、次」
「え?」
オレは悠羽那の顔を見た。
悠羽那は……
「……あ」
おい。忘れてただろ。
ていうか、大事なこと忘れるなよ……
オレはもう一度、教室の入り口に目をやった。
「あ、えっと……うん。何も見てないですよ」
「俺たち、二人で抱き合ってたとか、そんなの見てないから」
もう一度、自分の姿を確認する。
悠羽那の手はオレの襟。オレの手は悠羽那の肩。お互いの顔は……
「え」
「ち、ちがっ」
オレも悠羽那も、慌てて手を離してみんなの方を見た。
「ご、誤解しないでよっ」
「そ、そうそう。別に…」
でも、クラスメートたちはニッコリ笑った。
「大丈夫。二人のことは…秘密ですよ」
「そうそう。俺も口固いし」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
「でも、知らなかったよな、いつの間に……」
「沙央里も知らなかったの?」
「へえ……そうなんだ……」
そして、オレと悠羽那はその場に立ち尽くすしかなかった……
残プリさんの部分は結構ノリノリで書いてましたが、
その後あたりはダメダメな感じ全開でした。
還ってきて、コメディの神様っ(涙)