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第1話 ぼーいみーつがーる いんざれいん の続き



「全く…何でこんなことになっちゃったのかしら」


 バスタオルを頭から被った女が、オレを睨んで言った。


 いやいや、お前が自分で言ったんだろ?

 オレは言ってやりたかったが、鋭い、でもちょっと涙目で睨むそいつにそれを言う気には、さすがになれなかった。


 オレとそいつ……悠羽那の二人がバスタオルを被って突っ立っているのは、グリーンで色彩を統一した、シンプルな部屋。

 窓際にはスチール製の机と木製のベッド。他に大きな家具は本棚ぐらいしかない、女の子の部屋らしくない…っていっても、そんなに女の子の部屋に入ったことがあるわけじゃないが…ように見えて、ベッドサイドに大きめのぬいぐるみが幾つか並んでいるのは女らしいと言うべきか。

 そして、そんな部屋の主が……


「ちょっと、そんな、見ないでよ」

「あ、すまん」

「部屋もそんなマジマジと、イヤラシイ目で見ないでよね」


 ……どこを見ろと?

 そう突っ込みたいところだったが、ここは素直に謝っておくことにして、オレはバスタオルを被ったまま頭を下げた。


 なんでこうなったか、については、単純に言えば駅からの距離のせいだった。

 頭から足先までずぶ濡れになったオレたちは、とりあえず早急に体を乾かす必要があったわけで。

 で、オレは自分の部屋を知らないし、沙央里の家は駅から結構遠い。

 というわけで、一番近い悠羽那の家に来ることになったわけだが……


「ていうか、リビングで良かっただろ?そんなに嫌なら。」

「う、うるさいわね。ここが一番、近所から見られない部屋なんだから、しょうがないでしょっ」

「……」

「まったく……」


 ちょっと顔を赤らめて、ぶつぶつ言う悠羽那。口さえ開けば喧嘩売るわ、キツイ目つきで睨むわ、もうちょっとアレなら美人と言えないこともないのに……

 いやいや。


「しかし、お前が沙央里と友達だったとはね。世の中狭いって言うか」

「……狭すぎだわ」


 悠羽那は疲れたような乾いた微笑を浮かべた。


「しかも、あの子とあたしは幼なじみなのよね……」

「……お疲れさん」

「はぅ」


 まあ、こいつのこの反応を見れば、オレの記憶が間違いないことは分かる。

 ていうか、良くあんなやつと友達でいるよなあ、こいつ……


「な、なによ」


 そんなオレの視線に気がついたか、またちょっと身構える悠羽那。

 男嫌いなのか何なのか、身構えるのはまあ良いんだが、根本的に身構え方が間違っている気がする。布のスカートは長くて厚めの記事っぽいから良いとして、上の薄いブルーのシャツは生地も薄いだろ……下着が透けて見えるんですけど。

 うん。白い無地の……

 げふんげふん。


「ていうか、言っていいか、悠羽那」

「何よ」

「……脱いでもいいか?」

「……なっ」


 その瞬間、真っ赤な顔で悠羽那は飛び上がった。


「何をあたしに見せようって言うのよっ!」

「いや、見せたいわけじゃないけど」

「だったら、何でそんな、服を脱ごうなんて言うわけ?」

「いや……」

「しかも、ここ、あたしの部屋なのよ!」

「だから、それはお前が連れ込んだんだろうがっ」


 さすがにここまで来たら、突っ込んでも良いと思う。


「それに、二人ともここにいたら、いくらエアコンをドライにしても乾かないと思うぞ?」

「でも……」


 というか、ちょっとは乾いてきてるんだが……着たままだとべっとり肌に張り付いて気持ち悪い。

 しかも、ドライモードだと部屋の温度が上がるせいか、部屋が妙に暑苦しい。

 というか、いくら床を水に濡らしたくないって言っても、高校生が2人いるには、どうみても部屋が狭い。


「別にお前がここにいなきゃならないこと、ないだろ。第一、お前もそのままじゃ、風邪ひくだろ。」

「うーん……」

「着替えた方がいいんじゃないのか?」


 オレの言葉に、自分の格好を再度まじまじと見る悠羽那。


「……はぁ」


 それから大きく息をつくと、肩をすくめて


「そうね、確かに」

「おう」

「じゃあ、あたしは着替えてくるから」

「ここで着替えても、オレは構わないぞ」

「あたしが気にするわよっ」


 思いっきり睨むと、悠羽那はクローゼットを開けて中をのぞき込んだ。

 いや、冗談のつもりだったんだけど……うすうすというか、今までの会話で分かってたけど、この手の冗談はこいつには全く通じない。


 そんなことを思っているうちに、悠羽那はクローゼットを閉めて振り返った。

 腕には着替えらしきものを抱えていた。

 うーん、惜しい……


「……着替えてる間にクローゼット開けて、変なことしたら……殺すから」


 って、オレの心、読めるのか?

 それとも、オレ、独り言、言ってる?


「考えてることくらい分かるわよ。その目で」


 はうう

 勝手に人の心読むなぁ


 じゃなくて!


「変なことって、何だよっ」

「例えば、下着を捜すとか、盗むとか、匂い嗅ぐとか、な、舐めるとか」

「するかっ!オレはそんな変態じゃないっ!」

「……どうだか」


 とても冷たい目だった。

 ……少し、悲しかった。


「あと、脱いだ物はちゃんと場所決めて、固めておいて。くれぐれも、あたしの物に触れないように」

「何でだよっ」

「あたしの物が汚れるからよ。あたり前でしょ?」

「………」


 一瞬、オレは目の前のこいつの首を絞めたいという衝動にかられた。


「あと、絶対に服を脱いだら、うろうろしないでよ。近所の人に見られたら、変に思われるから」

「ああ、わかってる」


 どうも世間が狭そうだから、どこでどういう噂になるか分かったもんじゃない。

 オレも真面目に頷いた。


「でも、だったら何か、替えの服はないかな?できれば、お兄さんのものとか…」

「……あんた、図々しい」


 悠羽那はフンッと鼻を鳴らした。


「第一、家には兄なんていないわ。妹がいるだけよ。あとは両親と」

「じゃあ、お父さんの服、貸してくれれば」

「勝手に取って来れないわよ。それに、父は今、出張中だからほとんどないと思うし」

「そうか」

「妹は今日は久しぶりの検診だから病院だし、お母さんも付き添い。だから……」


 と、言いかけていきなり悠羽那はオレを睨みつけると、


「って、何であなたにあたしの家族のこと、ここまで言わなきゃならないのよ!?」

「いや、勝手にそっちが言ったから」

「………」


 大きくため息をついて、悠羽那はドアに歩いていった。

 そして戸口で振り変えると、キッとオレをにらみつけ、


「ホントに、変なことしないでよ」

「するかっ!」

「……どうだか」


 悠羽那は鼻を鳴らすと、音をたててドアを閉めて出ていった。

 オレはとりあえず、バスタオルで頭を拭きながら、上着とジーンズを脱いだ。

 ……これでちょっとすっきりした。

 特にジーンズは濡れて縮んでピッタリ締め付けていたので、脱ぐとホッとする。本当ならパンツも脱ぎたいところだが、そんなことしてたって知れたら多分、悠羽那に殺されるだろう。

 というか、絶対殺されるな。

 うん。


 頭に邪眼の女が浮かんだところで、オレは頭のバスタオルを解いて濡れた体を拭いた。

 それからそのバスタオルを腰に巻くと、椅子に腰掛けた。


「はあ」


 座ってみると、思わず溜息が出る。

 まあ、考えてみれば駅前以来、ずっと立ったままだったから、思った以上に足が疲れていたんだろう。悠羽那にバレたらギャアギャア言われるだろうが、これくらいは許してもらおう。

 そんなことを思いながら、ふと見ると机に写真が飾ってあった。

 どうやら病院らしいベッドの上に、小学生くらいの女の子。顔はどことなく悠羽那に似ているが、まあ目はアレとして、全体に線が細いところが多分違う……さっき言ってた、妹だろう。

 その証拠には、隣に移っている強気そうな少女。どう見ても悠羽那だが、ある意味トレードマークの目は、写真ではうれしそうに微笑んでいる。

 そして、その2人の後ろには、ニコニコ笑っている母親らしい女の人。

 写真を撮ったのは父親なのだろうか、映っていないが、いかにも楽しい家族写真に、オレは思わず溜息が出る。


 うちなんて……家族ったってあの父親だけだからな。自分勝手で、日本中転勤しまくって、そのくせ家族旅行など行ったこともない。

 ……考えてみたら、この夏休みの海外滞在、家族旅行のつもりだったのかな……

 いや、あの父親に限ってそれはないか。


 思い直して更に写真でもと見てみるが、それらしい写真は飾ってなかった。机の上だけではなく、部屋を見回してもそれらしいものはない。

 ……いや、それらしいって、どれらしいんだよって言うツッコミはアレだが、まあ……女の子だし。ねえ。

 いや、オレは男だぞ。

 いやいやいや、そういう意味じゃなくて、女の子だったら、こう、彼氏とか好きなやつの写真、ってやつを飾っていそうなものじゃないかと。

 悠羽那のやつ、ここに来るまで何度か、誰にすっぽかされたのかを聞いたのに誤魔化してばかりで答えようとしなかったし。あの態度は、多分男がらみに違いない。

 ……まあ、そんな確信が持てるほど女の子の気持ちが分かるわけじゃないし、そもそもオレも女の子とつき合ったことがないわけで……


 ……やめとくか。何か、虚しくなったし。

 そもそも、オレがこんな捜索をしようとしたことを悠羽那が知ったら、多分、と言うか絶対、オレは殺される……



バタンッ!


「相生くん!」

「な、何も見てないしっ!」


 いきなり、ドアが開く音と悠羽那の声。

 オレは思わず、自白の様なセリフを言いながら、振り返った。




     ☆☆☆☆     ☆☆☆☆     ☆☆☆☆




 何でこんなことになっちゃったんだろう?

 今日何度目なのよ、と自分でも突っ込みたくなるセリフがまたも浮かんだのは、べたつく服とスカートを脱いで、体をすっかり拭いてから。

 とりあえず、脱いだ服は後で洗濯籠に入れるとして。

 あの男を自分の部屋に一人にしておくことには、もちろん凄く抵抗はあったけど……ホントに何かしてないでしょうね?

 もし、してたら……殺す。


 耳を澄ましたけど、隣の部屋からは何も音は聞こえなかった。

 ホッとして椅子に座ったあたしは、思わず息をついた。


 最初から、着たままで服が乾くわけはないことは、あたしも分かってた。

 でも、まさかこんな格好、あいつの……男の前で出来るわけがない。

 無理。絶対。無理無理。


 ていうか、そもそもあいつも言ったように、最初から2人でいる必要がなかったし。

 というより、そもそもなんであいつをあたしの部屋に連れてったのか、考えてみたら自分でも良く分からない。リビングは確かに開けていて外から見えそうだけど、カーテンでも閉めておけば良かったことだし。

 それより何より、そもそも、あたしは沙央里の家を知っているんだから、タクシーでも呼んで連れて行けば良かった気がする。

 はぁ……冷静になればいろいろ思いつくのに、どうして時々あたしはこう、テンパっちゃうんだろう?

 思いたくないけど、これはやっぱり……


 憂鬱になりながら、目の前の実那の机の上を眺める。

 あたしの机の上にもある、同じ写真立ての写真。

 あの子の……実那の退院決定おめでとう写真。

 小学生まで入院退院を繰り返していたあの子の治療がとうとう終わったとお医者さんに言われ、家族で撮った写真。

 あたしと、お母さんと、そして実那がうれしそうに笑ってる。

 確か、あの子が小学6年生だったはず。この頃は、まだ全体に痩せてて、いつも小さな声で話すような子だった。

 この頃が、思えば一番あの子も可愛かった頃よねえ。

 それが、今じゃ……


 部屋を見回して、あたしは溜息をついた。


 つきたくも、なるわ。

 何なんだろ、このポスターだらけの部屋。壁ならまだ分かるけど、ベッドの上の天井に張るのはどうかと思う。しかも、誰かは知らないけどアニメキャラっぽいメイドってあなた……

 それに、ポスターだけならまだしも抱き枕まであったりするのは本当に意味が分からない。女の子のプリントの抱き枕、何に使ってるのよ、実那?

 ていうか、男だったら何に使うのかって話もあるわけだけど。


 見ているだけで、さすがにげんなりする。

 こんなのに囲まれてて、厨二設定バリバリの妹……あたしの妹があんなにアレなわけはない、と思っていた時期があたしにもありました、て何かのラノベの題名みたいな話よね。

 しかも、それがリアルという。

 更に恐ろしいことは、このコレクションの半分近くがお母さんのコレクションの流用だという事実……もちろん、お母さんたちの部屋は、恐ろしくてあたしはここ何年も除いたことさえない。


 そもそも、小学生まで入退院を繰り返していた世間知らずなあの子が、中学生で一気に厨二まっしぐらになったこと自体、あのお母さんの教育の賜物だったわけで。

 もちろん、あたしも中学生になる頃……というか、その前からその手の『英才教育』(本人談)はされそうになったけど、あたしの常識力で腐女子フラグを折りまくり、全力でお断りし続けた結果、お母さんの魔の手から逃れることが出来たけど。

 ……まあ、物心付く前にはそんなお母さんの魔手に気がつかなかったから、アルバムを見るとその場で閉じたくなるような写真があったりするのは……アレは黒歴史よ、うん。

 ていうか、黒歴史過ぎてあたしの幼稚園までのアルバムは閲覧禁止レベルなのが悲しすぎます、お母さん。

 

 でも、小学生まで純粋無垢に育っちゃった実那は、家にいるようになってからお母さんの魔の手に掛かって『英才教育』を受けちゃった結果、立派な中二病になったんだと思う。というか、それをうれしそうに語らないでください、お母さん。娘の中二病がそんなにうれしいんですか?

 まあ、中二病までならあたしもガマンするわ。そもそも、自分に降ってこないように回避しまくって実那を守れなかったあたしにも責任あるし。ただ、実那が……腐女子になってないか、はさすがに心配なんだけど。そこまでいったら人生終わりだと思うから。

 ……でも、そんなお母さんが16で結婚して17であたしを産んでいる、どっちかというとリア充だってことが謎なんだけれども……


 とりあえず、本棚をざっと眺めてそれっぽい本がないかを確認する。

 ラノベくらいなら良いけど、いわゆるBLとかあったら、さすがに……ねえ。


「……はぁ」


 見たところ、それはなさそうなのでひとまず安心して、あたしは椅子に戻った。

 とりあえず、髪は何とか乾いてきたのでバスタオルは体に巻いておく。ブラとパンツももうちょっと乾きそうもないし、この部屋にもうバスタオルはないし。

 お風呂場に行ってタオル取ってこようかな……まさか、あの男が廊下に出ることはないと思うし。というか、外から鍵掛けちゃえば出られないか。

 実那とお母さんはまだ戻ってこないはず……


ガチャッ


「ただいま~」

「……帰りました」


 って、戻ってきたら声がするはずだし……って、ええ!?


「あら、この靴……誰かいるのかしら」

「……リア充がっ」


 いや、靴だけでリア充呼ばわりはどうかと思うわ、実那。

 って、突っ込み入れてる場合じゃないしっ

 どーするの!?というか、どうすればいいの?


 そうだ、あたしが部屋に戻って、鍵掛けて静かにしてれば分からないかも。

 いやいやいや、それは最悪でしょ。

 靴は見つかってるんだし、そんなことをしたら『二人っきりでお楽しみ中なんだから気を利かせてよ』モードだってあの腐女子ペアに解釈されるだけじゃないの!

 そうじゃなくって、えっと……


 そ、そうだ、あたしの部屋に鍵を掛けて、あたしは急いで風呂に入って『あ、お帰り。あたし風呂に入ってて気がつかなかったから』ってことにしちゃえば良いかも。

 って、なんでそれが通用するのよっ!

 靴はどうなるのよ?そもそも、今から風呂に行こうとしたら、風呂場に入る前に二人に見つかるでしょ!

 そうじゃなくって!


 そ、そうよ。

 とりあえずあたしが窓から逃げ出して……

 あたしが間男かって!そもそも、あたしだけ逃げても意味ないしっ!

 お、落ち着こう。落ち着いて。

 深呼吸。深呼吸。

 はぁ


 とりあえず……


「悠羽那、いるの?」

「……大人しく出てきなさい」


 あんた、どういう設定なの、実那?

 って、冷静に突っ込んでどうするのよ?

 いや、冷静になった方がいいとは思うケド。

 落ち着いて。落ち着いて……


 いられるかっ

 ていうか、とりあえず、あいつを何とかしないとっ!


 あたしは廊下に飛び出して、部屋のドアを開けた。


バタンッ!


「相生くん!」

「な、何も見てないしっ!」


 って、あんた、クローゼットを……

 じゃない、それは今はいい、ていうか良くないけど、じゃなくてっ


「ちょっと、落ち着きなさい、大変なんだから!」

「え?何が?_」


 ポカンとしている相生。

 て、分かってるの?そんな場合じゃないから!


「落ち着きなさい、大変なんだから」

「お、おう」

「だからね、大変だから、落ち着きなさいってば!」

「……いや、お前が落ち着けよ」


 わ、分かってないわね、この大変さが!


「だからっ」

「落ち着くんだろ、ほら、深呼吸」

「いや、だから」

「ほら、ひっひっふー」


 それはラマーズ法だから!

 男、関係ないから!

 じゃなくて!


「なに落ち着いてしゃべってるのよ!そんな暇な言って言ってるでしょ!」

「いや、言ってないし。というか、落ち着けって言ったのは……」

「いいから、悠長にしゃべってる暇、ないの。早く服、着てちょうだい。」

「……服?」

「ええ。実那とお母さんと帰ってきちゃったからっ!」

「………へ?」


 だから、へ、じゃないからっ


「えっと……実那って?」

「あたしの妹よ!二人とも、帰ってきたってこと!」

「だから……」

「だから、あたしは、あんたなんかと誤解されたくないから!」


 誤解って言うか、曲解?理解?妄想?

 あー、どれでも良いけど、ともかくあの二人にされちゃったら、きっとあたしのこれからの人生真っ暗だから!!

 きっとっていうか、絶対!


「さっさと服着なさいよっ!」

「いや、でも…」


 ともかく、こいつが、男があたしの部屋にいて、二人に見られる。

 破滅よ、破滅!


「いいから、早くっ!」


 あたしは相生の腕を掴んで強く引っ張った。

 タオルが落ちた気がしたけど、この際……後回しっ


「わ、分かったよ」

「ええ、じゃあ、わたしも……」


 服に手を伸ばした相生に、あたしもとりあえず服を……

 ……あれ、あたしの服って……実那の部屋に置いてきたっけ。

 ていうか、あたしって、今……

 ……こいつも……


「……」


 その時、妙な視線を感じて、あたしは振り返った。

 そこには、ドアの隙間があって。

 ドアの隙間から、半分だけ見える、無表情な……


「……お大事に」


 いや、実那……それ、意味分からないから。

 って……実那?


 ちょっとちょっとちょっと!

 これは……

 いや、まだよ。お母さんに見られなければ……


「……悠羽那ちゃん」


 見られなければ……


 意味不明な言葉を言い捨てて消えた実那の後ろ、お母さんが立っているのが見えた。

 ていうか、お母さん、その手は……親指立てて右手、突き出して……?


「……GJ」


 あたしはそのまま、お母さんがにっこり笑ったまま、去って行く姿を……

 あたしは、振り返った。

 そして、そこに立っている、元凶に……

 って、な、なんて格好してるのよ!


「…あ、あんた、その格好、何とかしなさいよっ!」

「え?」

「だから、その……せめてタオル」

「……」


 彼は下を見た。

 ……パ、パンツ……


「……ゆ、悠羽那……お前もな。」

「…え?あ……きゃあっ!」


 一瞬、あたしは自分の姿を見下ろした。

 ていうか、見なくても状態は解ってた。

 ……なんでこんな時って、自分の動作がスローモーションのように感じられるのかしら……


 次の瞬間、床に落ちたタオルの上、あたしはしゃがみ込んでいた。


「って、見るな!見ないでよ!っていうか、いっそ消えてよ!」


 というか、消えたかった……あんた、出来るならあたしを滅してよ、実那………

 はぅ




 これが、全ての始まりだった。




追加分です~

前と合わせてみてね。

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