第1話 ぼーいみーつがーる いんざれいん
雨が降っていた。
灰色の空から大粒の雨が、音をたてて落ちていた。
大粒の、かなりひどい雨。
朝は少し雨がやみそうだったけど、昼過ぎからまたひどくなって。
1時頃からこの1時間ほど、土砂降りとなって降っている。
ひどく降っている。
ホント、ひどく降ってる……あたしがここで待ち始めてから、ずっと。
ていうか、なんで1時間もあたしが待たなきゃならないのよ、この雨の中っ。
まったく、沙央里のやつ……
あたしは手の中の、最近機種変したばかりのスマホを見ながら、思わず溜息をついていた。
まったく、あの子は……
まあ、朝から電話しても沙央里が出ない……それはまあ、いつもがアレだからそれは予想できた。朝、電話したら寝起きじゃない沙央里が電話に出たら、そっちのほうが奇跡だと思う。
それはいい。それはいいんだけど……
昼からずっと電話しているのに出ないって、それはどうなのよ?
しかも『圏外か、電源が切れている』メッセージって……まさかいつものように、電池切れで放置ってオチじゃないでしょうね?あの子、今まで何回、そのオチで待ち合わせに遅れたりすっぽかしたりしてきたと思うの?
それで、電池の持ちが悪くなったからって、この間新しい携帯に買い換えたわよね?しかも、今時ガラケーに。
『これじゃないと、操作分かんないから』って、電話しても出ないんじゃ、操作も何も意味ないでしょ!!
もう……
まあ、自分でも分かっている。昨日のうちに確認できなかったのが最大の失敗だってことは。
あの万年眠り姫に、当日にスケジュール確認しようと思った時点で既に負けだったってことね。いや、どうしたら勝ちってわけじゃないけど。
でも、万が一の期待をして、1時から待ち合わせのここで待ってみたわけだけど……
あたしはまた息をついて、辺りを見回した。
待ち合わせたのは、駅前のロータリー。
ローカル私鉄の駅としては、ロータリーがあるだけまだマシだけど、地元民として言わせてもらいたい。ロータリーの真ん中には噴水か、歴史上の人物、せめてアニメのキャラクターーまでにしてほしい。何代か前の市長、どう見てもただのおじいちゃんの銅像って、何かの罰ゲームとしか思えない。
しかも、それがどこかを指さしているとか、何か格好を付けているならまだしも、杖にすがって立ってるだけの銅像とか、もう嫌がらせだとしか思えない。絶対、あの銅像の下で待ち合わせね、なんて恋人たちなどいるわけがない。なのに、更に足下にベンチを、しかも『恋人たちのベンチ』って標識立ててあるって……市役所だか地元商店街だか知らないけど、センスがあるとかないという問題じゃないと思う。
その上、そのロータリーがバスも通る広い道の真ん中に銅像とベンチだけ、というそこに座っているだけでどう見ても『見世物』状態。更にそのベンチの上に雨や陽を避けるためらしい屋根が掛かっているけど、それが運動会のテントかっていうような布の屋根で、しかも申し訳のような大きさ。まず絶対、誰もそのベンチに座る人なんて、恋人たちどころか一人だっていた試しはない。
ない……んだけど。
驚いたことに、今日はそこに人が座っていた。
ていうか、あたしが来たときくらいからずっといるんだけど。
待ち合わせは駅のロータリーで、と約束したとしても、地元民は雨が降っていたら駅から出て右側すぐ隣の百貨店に入るか、左の歩道橋へと繋がる石段の下の小さな石のベンチに逃げるかする。またされそうな気がしたあたしは、左のベンチにこうして座っているわけだけど。
でも、あたしがここに来たちょうどその時、駅からまっすぐ歩いてあのベンチに座った男がいた。
いや、別に興味があってみているわけじゃないんだけど。
だけど、『駅で待ち合わせ』といった沙央里が列車で来るはずがない……沙央里の家は隣の駅よりこっちの方が近い……以上、ぼんやりあたりを見ているしかやることがない。
それで目に映るのは、降り続く雨と、その雨の水たまりのところどころ出来たロータリーを時々走っていくタクシーやバスくらい。この時間、列車は1時間に一本なので、駅から降りてくる人もいない。
だから、まあ珍しいものを見る気持ちで……というか、間違いなく珍しいわけだけど、あんな所に座る奴は……ただぼんやり見ていただけで。別に興味はなかった。
うん。興味はないわ。
別にイケメンには見えない……まあ、この距離じゃ、顔は良くは見えないけど。頭はぼさぼさ、妙に南国っぽいシャツにジーパンという格好。挙動も別に何をするというわけでもなく、ぼんやり上を向いたり、あたりを見たりするだけで。
どう見ても、この辺の人じゃないわね。というか、まあ、あそこに座っている時点で、この辺の人間じゃないのは間違いないけど。多分、年もあたしと同じくらい?
どう見ても、誰か待っている感じよね……
もしもあそこが待ち合わせ場所だったら、相手の子も地元じゃないんだろうな。
あの小さな屋根では濡れるわよね……というか、濡れてるわね。あの布の屋根、ずいぶん水が下がって垂れ下がっちゃって、あんまり屋根の役に立ってなさそうだし。まだ9月だから暖かいとはいえ、気にならないのかしら。
別に気になるわけじゃない。わけじゃないんだけど……
あたしは一つ、溜息をついて立ち上がった。
まあ、同じ待ちぼうけの同士?というか。とりあえず、屋根のあるところに言ってもらわないときになるというか。その……ほら、あたしって心優しい方じゃない?
うん。まあ。
そんなこんなで、自分に言い訳しながら、あたしは今度は携帯を出してぼんやり眺めているらしい男の方へ歩いていった。
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
雨が降っていた。
灰色の空から大粒の雨が、音をたてて落ちていた。
大粒の、雨。
というか、こんなに雨が降ってると知っていたら、途中で傘でも買ってくればよかった。時差ボケの頭で飛行機から列車を乗り継いで、眠気と戦いながら移動したものだから、外などほとんど見てなかった。
その結果が……これだ。
空を見上げて、オレは思わず苦笑する。
それにしても、まさかこんなことになるとは思わなかった。
引っ越しの荷物は全部送られていて、オレは手ぶらだった……それはいい。
引っ越し先の住所は結局聞けなかったが、家まで従姉妹の沙央里が案内してくれる約束になっていたので何とかなると思っていた。
それが、沙央里とは今朝、飛行機を降りてから電話しているがぜんぜん連絡が付かず……『圏外か、電源が切れている』メッセージって、それは電源切ってるか電池切れかってことじゃないのか?
それでも待ち合わせの駅に来てみたら、雨が降っているのに誰もいやしない。雨が降っているのにベンチの一つもなくて、ロータリーのど真ん中の変な銅像の下、小さな屋根付きのベンチが一つだけ。
時差ボケのせいでどこでも良いから座りたかったからとりあえずふらふらと座ってはみたけれど……大して屋根が役に立ってない気がする。
まあ、昨日までは雨と言えばスコールだったから、それに比べればひどいというほどじゃない。
日本の……9月の雨だ。
溜息をついて、オレはポケットからスマホを取り出して、時間を見た。
……2時、少し前。
時間になれば来ると思っていたら、待ち合わせから1時間……もうすぐ2時になろうとしても姿がないというか、留守電の返事すら来ない。
沙央里どころか、駅舎にもローロータリーにも雨が降るばかりで、人っ子一人……
……何か、一人いるけど。
ミディアムの髪の女が、駅の横の石段あたりに座っている。
オレの覚えている沙央里は三つ編みだったが、まあ髪型は変わるからな。
でも……多分あの女は違うと思う。沙央里の顔、特に目は未だに良く思い出せないけど……あんなキツイというか、目つきが悪くなかったはず、と思う。
いや、まあでも、あそこのあの女もカワイイとは言わないけど、美人と言って良いレベルだとは思うけどな……
いやいや。
オレはスマホをアンロックすると、見るでなく内蔵の写真を開いてみた。
……あんまりないが、ほとんどが風景、そして野郎の写真ばかりだった。
まあ、しょうがないよなあ。
夏休み前の学校は……2ヶ月もいなくて。その前が……男子校が約半年?
その意味では、学校では女の子に出会うこともなかったけど……ていうか、あったら怖いわ。それは男の娘……いやいや。
でも、別に女の子に飢えてるとか、そういうことじゃない。
ナイデスヨ?
それに……ん?
指で流した写真、黒い衣装の何かに、オレは手を止めた。
何か、これって……ぐはっ
オレが慌てて写真画面にタッチした、その時。
「……ねえ」
顔を上げると、ピンクの傘をさした女がオレを見下ろしていた。
「そこの……あんた」
☆☆☆☆ ☆☆☆☆ ☆☆☆☆
「……」
一瞬、声をかけたあたしの顔を見上げて、男はボッとした顔を上げた。
というか、ビックリしたんだろうけど。にしても、ちょっと驚きすぎじゃない?
「お、オレかっ」
やっと気がついたのか、そいつは焦ったように携帯を胸ポケットに入れながら立ち上がって言った。
というか、焦りすぎじゃない?なんか、あたしが携帯を除こうとでもしたみたいな焦り方なんだけど。失礼な。
「……あんた以外、誰がいるのよ、ここに」
思わず、そんな言い方をしちゃったのは、多分そんなことを思ったせいだと思う。
さすがのわたしも、そこまで無駄にアグレッシブな言い方を、幾ら男相手でもいつもするわけじゃないし。
あたしの言葉に、そいつはまたちょっとあたしの顔を見ていたけど、ゆっくりと立ち上がって
「まあ、確かに」
「なによ」
「いや……すまん」
言って、そいつは素直にちょっと頭を下げる。
ちょ、ちょっと、何かそう素直に来られると、何かあたしがやな女みたいじゃない。
ていうか、うん。ちょっとやな女にみえたかも。
って、別にナンパしてるわけじゃないんだから、どう思われようがどうでもいいでしょ!?まったく……
「ここじゃ、濡れるわよ。待つんなら、屋根のあるベンチ、あるから……あそこに」
「……なるほど」
あたしは慌てて顔を階段の方に向いて、さっきまであたしが座っていたベンチを目で指した。
そいつはちょっと目を細めると、ベンチの方を……
いや、別にだからどうってわけじゃないけど。
シャツは結構水を含んで色が変わりかけていて。
べ、別に好みってわけでもイケメンでもないけど。
ぼさぼさ髪から落ちる水が、あたしの肩に落ちそうな距離。
というか、近くない?いや、そんな、別にそこまででもないかも、だけど……
ちょ、ちょっと顔、近い気が。
「は、早く動きなさいよ、ボケッとしてないで。あたしが濡れちゃうじゃない」
あたしは思わず、一歩引きながら言った。
「ほら、ボッとしないで。そんなだから、1時間も待ちぼうけ食らうのよ、全く」
「大きなお世話だっ」
と、いきなり目の前のそいつが声を上げた。
って、思わず、あたしは後ずさり。
「それに、なんでオレが1時間待ってること、知ってるんだよ、お前!」
「そ、それは……」
「そういえば、お前、オレが来る前からそこに立ってたよな……」
「……」
って、見られてた?
というか、見られててもおかしくないとは思うけど。
見られてても別に恥ずかしいわけじゃないけどっ
と、あたしが黙っていると、そいつはニヤッと笑った。
「ははーん、お前も待ちぼうけ、食らわされたな?」
「ち、違うわよっ!」
「人に言う奴に限って、自分がそうなんだよな」
いや、ホントだけど。
でも、やっぱりこういう言われ方されると……頭にくるわっ
なんなの、こいつ。偉そうにっ
「……失礼な奴ね、あなた。」
あたしは大きく息を吸って、顔を睨みつけた。
「何なのよ、あなた。名前、言いなさいよ!」
「名前聞いて、どうするんだ?」
「もちろん、警察に届けるのに必要じゃない」
「おいおい」
肩をすくめたその顔が、やっぱりカチンとくる。
あたしとしては、ここで一気に言ってやるつもりで
「冗談よ。ともかく、お前呼ばわりされたくないだけよ。」
「なら、お前から名乗れよ。」
「え?」
そ、そう返すわけね?
や、やるわね。
じゃない、別にこっちはやましいわけじゃないしっ
あたしはもう一回、大きく息を吸うとはっきりと言ってやった。
「……有朱<ありす> 悠羽那よ」
「ふーん」
「で、あんたは?」
「……相生 燕<そうじょう えん>だ」
「つまんない名前ね」
「ほっとけっ」
こっちはどこかの貴族みたいな漢字じゃないけど、そこそこ珍しい名字だと思う。
あっちはありふれた名字じゃないとは思うけど、珍しいというほどじゃない。
とりあえず、何となく、勝ったわ。
いや、何がってわけじゃないけど。
「で、1時間、どこの女に待ちぼうけ食らったのよ、相生くんは」
あたしはちょっと優越感を持ってそいつに言ってやった。
「相生くん……」
相生はちょっと嫌そうな顔をすると、あたしの顔をじっと見た。
「……その呼び方は嫌だな、有朱さん」
「……」
そうきましたか。
名字で呼ばれるのは好きじゃないって、読まれた感じが悔しいけど、図星だった。
どう考えてもあたし、アリスって呼ばれるのは柄じゃないと思うし。顔は純国産のつもりだし、アリスというと誰が考えても例の金髪でエプロンドレスの西洋少女のイメージだと思うし。更に、ロリ……というか、カワイイ女の子って感じ。
そんなイメージは、うちの厨二少女なら喜んで名乗りそうだけど、あたしには絶対、似合わない。
「……有朱さん、はやめてよ」
「だったら、有朱」
「呼び捨てるなっ」
「んじゃあ、悠羽那サン」
「……」
そのサンがいやみったらしいカタカナぽいのが気になる。
ていうか、絶対悪意あるわよね。
くぅ
「……あんた、年は幾つよ?」
「17才、高校2年だ」
「……あたしもよ」
同じ年……年下なら有無を言わせず「さん」付けにさせようと思ったのに。
しょうがないわ……
「……悠羽那、でいいわよ」
「わかった、悠羽那」
「……」
「どうかしたか、悠羽那?」
「……」
自分で言ったことだけど……思いっきり敗北感。
はぅ
「……なによ、相生くん」
「却下」
「な、なんですって?」
「くん付けは禁止。ていうか、こっちは呼び捨てされてるんだぞ?」
「ううっ……じゃあ、相生、でいいわけねっ!?」
「おう」
とりあえず、名前を呼び捨て会うのだけは、絶対拒否する。
名字だってホントは嫌だけど、この際……しょうがない。
そもそも、男の子と呼び捨て合うなんて、生まれてこの方一度もしたことないし。まして、名前とか、あり得ない。
あ、あたしはあの父親の娘だし。うん。
あたしは頭を大きく振って、もう一人の親の顔を振り払う。
「で、相生はどこの女に待ちぼうけ食らったの、結局」
「どうしてもそっから話すのかいっ」
「当たり前でしょ」
「……」
相生は、ホウッと息をつくと苦笑いしながら
「まあ、確かに女だけど……そんな色っぽい話じゃないけどな」
「ふーん」
「従姉妹と待ち合わせ、したんだけどな。1時に。」
「従姉妹?」
「ああ。それで、そいつが来ないと、オレは今日は野宿でもするしかないかも」
「野宿?」
「ああ。従姉妹の家の持ち物のマンションが、オレの引っ越し先でね。そこまで今日、案内してもらうことになってるんだけど。だから、来ないと泊まるところがない」
「連絡はつかないの?」
さっき、電話をポケットに入れてたはず。
あたしは聞いてみる。
「電話にも出ない。ていうか、電源切れてるらしい」
相生は肩をすくめた。
どうやら、沙央里のような従姉妹らしい。
あの子……あの手の子は遅刻常習というか、ドタキャン常習だから。
あたしも、何度あの子に……
「そういう子が相手の時は、前もって釘指しとくのは必須って言うか、もう前の日の夜とか直前でも釘刺さないと無理よ。それをしなかった、あんたも迂闊ね」
「……」
「というか、その手の子は自覚もないし、それでドタキャンしても『ごめんね~』で済ましちゃう天然だから、釘刺さなかったあんたが悪いわ。うん」
「……」
あたしが言うと、相生は何か言いたそうにしたけど、すぐにホウッと息をついて
「まあ、そんな暇、なかったしな。それに、そもそも会うのも電話するのも何年ぶりだかだったし。」
「ふーん」
「確かに、あいつ……沙央里は昔から天然で寝てばっかりだった記憶があるんだけど」
そうそう、沙央里は万年眠り姫の天然で……
……沙央里?
「さ……沙央里って?」
まさか、こいつが待っていたのって、沙央里ってこと……?
あたしの問いに、相生は頷いた。
「ああ。神無月 沙央里。オレの従姉妹」
……あたしが知る限り、この街に神無月って名字は一軒だけ。
そして、そこの娘の沙央里も一人だけ。
沙央里……あんた、ダブルブッキングした上に、どっちも忘れるってどういうこと?
幾ら天然だっていっても、人としてどうなのよ!?
あんたのボケには慣れてたつもりだったけど、これはさすがに……
はぅぅ
多分、その時のあたしは、がっくりと肩を落としているように見えたと思う。まるでマンガのキャラのように。
「で、悠羽那はどこの男に待ちぼうけ食らったんだ?」
そんなあたしを知ってか知らずか……というか、知らないはずだけど、相生が言った。
顔を見ると、ニヤニヤしている。
「あ、あたしは……」
男じゃないしっ
……って、言いたいっていうか、言えたらいいなって言うか。
というか、言えない。まさか、あたしも沙央里に待ちぼうけ食った、なんて。
「やっぱり、男か」
あたしが黙っていると、相生がまたニヤリと笑って
「すっぽかされて、しょうがないから帰るわけか?連絡、とれた風でもないし」
「……」
「ああ、そういうの、慣れっこなのか?」
違うしっ
って、言えないけど、言いたいけど、言えないけど……
「……う」
「う?」
「……うるさいっ!」
思わず、あたしは噛みついていた。
相生は、思わず後ろに下がって……
その後ろには、例の屋根の支柱が立っていた。
その支柱の上あたり、屋根の布に水が溜まっていた……
ばしゃん
大きな音と共に、溜まっていた水が落ちた。彼の頭の上に。
「ぷっ」
ぼさぼさの髪からジーンズまで、完璧にずぶ濡れになった相生を見て、あたしは思わず吹き出した。
もちろん、八つ当たりみたいな所もあるけども、だけど……
情けない顔をした彼を見たら、笑わずにはいられなかった。
ていうか、お腹痛い。
「……いい気味。自業自得ってやつね」
あたしは腹を抱えながら、かろうじて言った。
それから情けない顔をした彼から2,3歩下がりながら
「ばっかじゃないの?そんな水被るなんて……」
その瞬間、大きな音と共にロータリーを路線バスが通っていった。
バスはあたしの後ろを走り過ぎていった。
そして、あたしの後ろには、今朝からの雨で水の溜まった大きな水たまりがあった。
ばしゃっっっ
「……で、水がなんだって?」
顔をぬぐって目を開けると、相生がニヤニヤ笑っていた。
ええ、そうね……自業自得よね。
分かってるわよ。分かってるけどっ
相生だって、更にびしょ濡れになっていた。
でも、そんなのは背中から下着まで濡れている感触の前には、何の慰めにもならなかった。
はぅぅ
<to be continued>
連載というにはある程度の感覚で掲載が必要かなと考えて
一旦本来の半分程度で切りが良く掲載しましたが、
やはり本来の分まで書き足しました。
引き続き、次の話で加筆分が読めます。