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6号室の天才双子


 足して2で割る案は最悪になる――――加賀見俊夫

 引いて2を掛ける案は最弱になる


+*+*+*+*+*++*+*++*+*+*+*+*++*+*+*+*+*+*+*+*+*+*


「――参成様にお会いしたんですかっ!」

「ですかっ!」


「うん、まぁ、引越しの挨拶に……」 イライラ度39%。


「なにか失礼なことはしておられませんかっ!」

「せんかっ!」


「……多分してないと思うよ……ちょっと医学について語り合った(. . .)みたいだね……」 イライラ度51%


「参成様とっ!? すばらしいですわっ!」

「ですわっ!」


「君たち、そんなに参成さんのこと尊敬してるの?」 イライラ度58%


「そりゃ、もちのろんですっ!」

「ですっ!」


「あれだけの才能をお持ちなのに、けしてそれを見せびらかさない謙虚さっ!」

「謙虚さっ!」


「そうなのかなぁ…………」 イライラ度72%


「そしてあのステキな甘いマスクっ!」

「マスクっ!」


「ステキ…………」 イライラ度86%


「そしてあの関西弁っ!」

「関西弁っ!」


「へー。うん。そうだね。すごいよねー。かっこいいよねー」 イライラ度106%


「さすが参成様っ! 男性にも好かれる好青年っ!」

「好青年っ!」


 イライラ度125%

 もう限界だ。我慢できない。


 先ほどから僕の前で、小さい身体をピコピコさせながら参成さんの素晴らしさを熱く語っている双子ちゃんは、睦月桃華・紅華姉妹。

 

 よく喋る方が桃華ちゃん。語尾だけ言うのが紅華ちゃん。この違いがあるから見分けが付くけど、見た目だけなら違いが全く分からない。一卵性双生児というヤツだ。少し茶色がかっている髪は全く同じ位置でポニーテールにしてあり、茶色い目も全く同じ形の猫目だ。


 2人はあの有名な睦月製薬の娘で、2歳のときに義務教育を終了、3歳で開成高校を卒業し、去年、5歳の時にハーバード大学を卒業した超をいくつ付けても足りないくらいの天才。


 あまりにも順風満帆すぎた彼女たちは、ハーバード大学を卒業してから放浪の旅に出た。そして行き着いた先がこのアパート夕凪。睦月製薬の人間はこの子達を恐れて文句の1つも言ってこないらしい。


「あのさー。僕、ちょっと用事を思い出したからもう行くね。これからよろしく」


「用事とは何ですかっ!」

「ですかっ!」


 天才なら察しろよ! 苛立つ気持ちを抑えてあくまで冷静に対応する。


「まぁ、ちょっとね、急ぎの用事なんだ」


「……おかしいです」

「です」


 急に声のトーンが下がった双子ちゃん。


「七瀬さんには挨拶されないのですか?」

「ですか?」


「順番に挨拶されているのでしょう? なら、七瀬さんはまだのはずです」

「です」


 双子ちゃんの目が潤んでくる。


「それに、その紙袋、お土産です、よね。私、たちにく、ださったのと同じ、です。誰にあげるの、ですか?」

「ですか?」


「ぐっ……いや、そのー、えっとー…………」


「ひっ、ひどいですっ! そんなっに、わっ私たちと、話すのっ、がっ、いやでっすか?」

「でっすか?」


「あっ、いや、ちがうんだ、そういうことじゃなくて、えぇっと…………」


「びどい……びどっいでず……ぞんな、きらわなぐでぼ、いいじゃないでずっ、が……」

「が……」


 ……泣いてしまった。


 僕が悪いのか、これ? 

 僕のせいなのか?

 謝らなきゃいけないのか?


「……ごめん」


「ゆずしませんっ! じぇっ、たいにゆずびまぜん! あぱーとの、びとたちに、いいずげてやりまずっ!」

「まずっ!」


 これはまずい……引っ越してきて早々変な噂が流れたらヤバイ…………管理人に出ていけ、何ていわれたら終わりだ。


「ごめんっ! この通り! 何でもするからっ!」

 

 そういって頭を下げる。


「今、何でもするとおっしゃいましたね」

「したね」


 双子ちゃんの雰囲気が変わる。


「この誓約書にサインしてください」

「ください」


 差し出されたのは双子ちゃんへの絶対服従を誓う誓約書。


 彼女たちの泣き顔は悪魔の微笑みに変わっていた。

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