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3号室のニート


 最高の授業には最高の教師と最高の生徒が必要だ。――――詠み人不明

 最高の教師と最高の生徒で最高の授業が出来るとは限らない。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*


「――――した哺乳類の細胞は三種類に分類できるんや。固定性分裂終了細胞群、増殖性分裂細胞群、可逆性分裂細胞群の三つや。この三つはな、加齢とともに減少するんやけど、例えばヒトの末梢血液中のリンパ球の数が歳とともに減んのは、リンパ球を供給する幹細胞が少なくなるからや。この幹細胞は増殖性分裂細胞群にはいるさかい、細胞の数だけでも老化を把握することは可能なんや。この技術を発展させていろんな病原菌による細胞の死滅の割合なんかも分かるようになったら、病気の早期発見にも繋がるんや。っちゅうことは、近い将来細胞の数を正確に把握できるようになったら、ヒトの寿命も簡単に分かるんやないかと俺は思うねん。四村君はどう思う?」


「そうですね。ぼくもそう思います」


 正直、何を言ってるのかさっぱり分からない。もしかしたら火星語でも話してるんじゃないだろうか。


 場所は3号室、参成青さんの部屋。小難しいことを話し始めてもう30分は経ったと思う。


 普通に引越しの挨拶をして手土産を渡すまではよかったが、その後、玄関に乱雑に置かれた医学書に気付いてしまった。ぼくはある理由で医者を目指しているのだが、その勉強のために、と人からもらった医学書と同じものを参成さんも持っていたのだ。「これ、おもしろいですよね」口は災いの元。そこからスイッチが入ったのか参成さんは熱く語り始め、今に至る。


「――――内皮細胞を増殖させるには、脳や癌細胞に含まれているFGFという成長因子が必要やっちゅうことはわかっとるんや。このFGFがないと細胞は休止するだけやなくて、アポトーシスが誘導されて死んでしまう。ほんで、そのFGFの分泌を抑制するのがヒロリンーαやねん――――」


 参成さんは東京大学医学部医学科の超優等生だったらしいのだが、あまりにも優秀すぎて東大の講義に飽きてしまい、中退したそうだ。常人からすれば考えられない話である。

 

 今は時々論文を書いて生活していて普段は滅多に外に出ない、いわゆるニートらしい。散髪はもう何年もしてないのか、ただファッションで伸ばしているのか、おそらく前者だけど、髪は肩まで届く茶髪でボサボサ。背も高くて顔も整っているのでちゃんとすればそれなりにかっこいいと思うのだが、服装もくたびれたジャージで背中も曲がっている。黒縁メガネをかけているのは東大生の名残か、ニートのトレードマークなのか……


 ぼくは全く話を聞いてないのだが、参成さんはまだ熱く語っていてとても抜け出せそうにない。


 そろそろ欠伸をこらえられなくなりそうになったところで、ぼくの携帯が鳴った。電源を切っていなかったのはマナー違反かもしれないが、正直助かった。


「――すみません」参成さんにそういってから電話に出た。


「はい、もしもし」


「もしもし壱井だけど、四村君?」聞こえてきたのは小一時間ほど前に聞いた管理人の声。


「はい。あの、急ぎの用事ですか?」参成さんの手前、形式的にそう聞いたが、できれば外に出る口実になってくれればありがたい。


「今、参成君に捉まってるんでしょ。この電話を口実にそれっぽい会話して、逃げたら?」管理人ナイス! なかなか気が利くな。と思いながら一人芝居をする。


「……今じゃないとダメなんですか? ――はい。わかりました。すぐ行きます」


「うふふ。感謝しなさいよ」


「参成さんすいません。管理人さんに呼び出されちゃって……」心底残念そうにいう。


「かまへんかまへん。じゃ、これからよろしくな。また暇なときに語り合おうや」どう考えても語り合った(. . .)気はしないのだが、そこは気にしないことにしよう。


「はい。よろしくおねがいします。失礼しました」そういって部屋を出る。


 類は友を呼ぶとはよくいったものだ。なんで同じところに変人が集まるのだろう。とんでもない所に引っ越してしまったのかもしれない。

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