2号室のフリーター
女の最大の欠点は男になろうとすることである。――――メストル
男の最大の欠点は女になろうとしないことである。
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「2号室 二葉緑・春」と綺麗に書かれた表札を確認して、軽く頬を叩く。あの管理人に会った衝撃がまだ残っているようで、少しからだが火照っている。
どうか普通の人でありますように、と心の中で神様だか仏様だかに勝手なお願いをしてインターホンを押す。
「どちら様ですか?」返ってきたのは普通の女性の声。考えてみれば変人が同じところにそうそういるもんじゃない。これが当たり前なのだ。
「あの、4号室に引っ越してきた四村といいます。ご挨拶に伺いました」
「ちょっと待ってください」
カチャ、と鍵が外れる音がしてからドアが開いた。チェーンは付いたままだ。
「こんにちは……」恐る恐るといった感じで少しだけ顔を覗かせた。それなりの美人で、あまり化粧はしていないようだ。艶のある髪は肩の辺りでそろえられている。20歳前後といったところか。
「初めまして。これ、つまらない物ですが……」そういって手土産を差し出す。
「ありがとうございます。えっと、高校生?」
「はい、そうです。……あの、同居しておられる方は…………?」表札を見ながら訊ねてみる。緑と春なら男か女かも分からない。
「あぁ、私が二葉緑。……妹の春と同居していたんだけど、結婚して出て行っちゃって。前の妻とも去年別れたから今は一人で暮らしてるの」
「あっ、そうなんですか…………って、ぇえ? 妻? 奥さんがいらしたんですか?」
「そうよ」
当然のように答えられてしまった。どう見ても女性なんだけど……ニューハーフというヤツなのか? 確かに、よく見ると喉仏があるようにも思えるが、それにしてもノーメイクでこの完成度はすごい。
「ん? 顔に何か付いてる?」僕の視線に気付いたのか、少し首をかしげて聞いてくる。その仕草も女性としか思えない。
「いえ、何でもないです。失礼しました!」
「分からないことがあったら聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
そういって、扉が閉まるのを確認してから隣の部屋に向かう。
もう驚かない。どんな変人が出てきても、もう大丈夫だ。確信を持って3号室のインターホンを押す。
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