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2号室のフリーター


 女の最大の欠点は男になろうとすることである。――――メストル

 

 男の最大の欠点は女になろうとしないことである。


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*


 「2号室 二葉緑・春」と綺麗に書かれた表札を確認して、軽く頬を叩く。あの管理人に会った衝撃がまだ残っているようで、少しからだが火照っている。


 どうか普通の人でありますように、と心の中で神様だか仏様だかに勝手なお願いをしてインターホンを押す。


「どちら様ですか?」返ってきたのは普通の女性の声。考えてみれば変人が同じところにそうそういるもんじゃない。これが当たり前なのだ。


「あの、4号室に引っ越してきた四村といいます。ご挨拶に伺いました」


「ちょっと待ってください」


 カチャ、と鍵が外れる音がしてからドアが開いた。チェーンは付いたままだ。


「こんにちは……」恐る恐るといった感じで少しだけ顔を覗かせた。それなりの美人で、あまり化粧はしていないようだ。艶のある髪は肩の辺りでそろえられている。20歳前後といったところか。


「初めまして。これ、つまらない物ですが……」そういって手土産を差し出す。


「ありがとうございます。えっと、高校生?」


「はい、そうです。……あの、同居しておられる方は…………?」表札を見ながら訊ねてみる。緑と春なら男か女かも分からない。


「あぁ、私が二葉緑。……妹の春と同居していたんだけど、結婚して出て行っちゃって。前の.とも去年別れたから今は一人で暮らしてるの」


「あっ、そうなんですか…………って、ぇえ? 妻? 奥さんがいらしたんですか?」


「そうよ」


 当然のように答えられてしまった。どう見ても女性なんだけど……ニューハーフというヤツなのか? 確かに、よく見ると喉仏があるようにも思えるが、それにしてもノーメイクでこの完成度はすごい。


「ん? 顔に何か付いてる?」僕の視線に気付いたのか、少し首をかしげて聞いてくる。その仕草も女性としか思えない。


「いえ、何でもないです。失礼しました!」


「分からないことがあったら聞いてね」


「はい。ありがとうございます」


 そういって、扉が閉まるのを確認してから隣の部屋に向かう。


 もう驚かない。どんな変人が出てきても、もう大丈夫だ。確信を持って3号室のインターホンを押す。

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