気付いたのは改札前だった
アクセスありがとうございます。
定期を忘れた。
寒さから身を守ろうと、色とりどりの雪だるまのように幅を取る群衆の列の中、一人、暑くもないのに背中に水を感じた。
改札へ続く何本もの列。
鞄の中を漁り続ける私を、後ろからの一歩が前へ前へと押し出す。
ああ、そういえば、昨日雨でケースが濡れたから、ドライヤーの横に置いたのだ。
分かっても、漁ることを止めない。
しかし私はもっと早く気付くべきであった。
探すよりも先に、このきつく固い線の中から、抜けることを。
近づく改札。
列を抜けようともがく私。
後方から感じる突き刺すような視線。
咳払い、舌打ち。
ああ、なぜ、気づかなかったのだろう。
携帯のアラームがオフになっていたことに。もはや意味を忘れてしまうほどにすみませんを連呼して、込み合った列と列の合間をくぐり抜けた時、私は聴いた。
「ドアが閉まります、ご注意ください」
何故か入っていた、ケースなしの定期が、電光掲示板の黄色を浴びて、笑っていた。
御読了ありがとうございました。