↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミカ アナスタシス 下手くそな反乱に巻き込まれた女の子のリベンジマッチ  作者: 下乃空 晋次
アナスタシス・走ることを決める。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/19

迷走・先にある話、やるべきことの整理

 ユリが言うように最低限の文化的な生活ということで、彼女らが用意した朝食を食べた。意外にも普通だった。全て市販品のとても普通な朝食だった。

「だって街に買い物に行くもの。サングラスしてれば目つきはバレないし、着てる格好で大体みんな避けていくし」

 ねー、とマリーをに投げかけるユリ、ユリは黙って頭を下げる。

「この前だってナガイの葬式だったでしょ、一応見守りに行ったのよ。そん時に居たでしょ、あなた、車に乗って」

 そう言って和泉を指差す。和泉は理解してない顔をしているが、ミカは違った。

「あー、あん時の着物ね。居たわ。あんたらやったんやね」

 相変わらず、顔にキライと書いてる顔で話すミカ。茜はなんでそんなにキライなのか聞くべきか思案する。だがしかし、どうすべきか。キライなの?と聞いてどうするその後仲直りしましょうっていうのか、幼稚園児じゃあるまいし。

「買い出しっていっても首都やK市まで60キロはあるんだろう」

 とりあえず茜はあたり触りのないことを聞くことにした。もしかしたら適切な移動手段があるかもしれないという期待を込める。それは和泉も同じ感覚だったに違いない。興味ありげに食器を置き、話を聞こうとする。

「歩いていくわよ、何にもないもの。私たちは疲れないからね」

 答えは残酷だった。前日の夜には出て夜通し歩き、朝から活動してまた、夜通しで帰ってくる。そんな感じらしい。

「そうか、それくらいかかるよなぁ」

 ガッカリした和泉の声。これでは簡単にここから首都やK市へ偵察というわけにもいかない。60キロは流石にミカの探知も届かない。首都の様子がわからない。戻るべきかそうでないのか。それすらも判断できない。首相官邸の地下、災害備蓄庫に居たあいつ。生命をマナを貪り食う邪悪。あれはまた復活するらしい。それはおそらくK市の棲家なのだろう。いや?植物があるなら近くでも良いのか?どうなんだ?頭がぐるぐるする。ナガイの残留思念というなら棲家だろうが、それも仮説以前の手前勝手な自分の妄想の域に過ぎない。ふと気付く、あれはどうやってK市から災害備蓄庫へ行ったんだ?和泉が反乱を起こす直前、歩いていては間に合わない、どうして?

「おい」

 レイに言葉を投げかける。

「お前もあいつも、どうやって災害備蓄庫まで辿り着いた」

 レイは穏やかな視線で返す。

「私は、バイクで急いで帰ってきただけだ」

 質問に対して明確に答えない。少し間が開く、あえて和泉は黙っている。沈黙はブラフだ。向こうから何かを言わせるつもりだった。ただ茜がたまらず聞く。

「私は?じゃあ、あれはどうやって移動したんだ」

 レイは取るに足らない話でもするように返す。

「わからないんだ。あそこで会ったそれについては、私は倒した気でいたからだ」

 レイの記憶の中では、確かにそれはレイに袈裟懸けさがけに切られて棲家の床に臥している。ユリとマリーに目線を送る。

「昨日初めて知ったけども、この通り、切るだけでは死なない様だし」

 ユリに至ってはピースしている。そう言うことか。わからないことだけがわかった。茜が続ける。

「災害備蓄庫っていうのはなぜわかった?反乱発生時には04小隊の二人もあなたの居場所すらわかってなかった」

 レイは表情を変えない。

「すまないが、なんのトリックもないよ。戒厳司令部からの命令だ。開かないとされていた大型搬入路から入るように指示された。入った直後にわかったよ、あのケバケバしいマナの気配がね」

 だから辿り着いた。とレイはいう。全員が黙る。

 さて、これからどうすべきか、全員が悩む。正常な判断なら、首都に帰るべきだ。しかしいまは首都の状況がわからない、素直に帰って良いのかわからない。

 ここにいる和泉も反乱の首謀者、かつ首相暗殺の主犯。連れ帰ったが最後、彼は無事では済まない。彼の罪自体はそれはそれで問題だが、それ以外の根本的な問題、災害備蓄庫に居た邪悪なアレ。あれがマナ無しのマナを絞り取る邪悪。03小隊、マナ無し人間の終焉の地が用意されていた。あんなところに。つまり、アレを手招きし、おそらく管理までしている人間がいる、そいつは政治家なのか、それとも軍人なのか。このまま和泉を連れて帰っても真実は闇に葬られる可能性が高い。

 マナ無しであってもそこで奪われたのは人間の生命だ。簡単に許されるわけじゃない。ただ我々だけで何が出来る?どうする?本当にシンプルな答え、組織人であるならば、和泉を反乱の首謀者として捕らえ、突き出して、然るべきところで判断する。それだけの話。ただ、ただ、それだけは本能がやってはいけないと激しく騒ぐ。だから動けない。でもどうする?

「全員で怖い顔してても仕方ないんじゃなぁい。まだだってあの子はまだ起きないわよ」

 ユリは伊織を見る、さっき見た通りだが、伊織の血色はずいぶん良くなったが、まだ起きる気配はない。そうなのだ。彼女も動けない。ユリとマリーに任せて置いていくという選択肢はありえない。

「まだかかるって言うけどいつまでかかるん?」

 ミカが聞く。相変わらず隠そうともしない不機嫌。

「まだ真水のマナを飲んでるからまだかかるわ、それが一杯になって馴染んで」

 ユリが言い終わる前にミカが、殺気を込めて立ちあがろうとするが、レイが制す。

「これしかない、賭けなんだ。じゃないと伊織は助からなかった」

「そうよ、悪い様にはしないわよぉ」

 ユリが勝ち誇った様に言い。ミカは少し歯軋りする。

「でもそんなに長くはかからないわ」

 ユリが改めてて言う。優しいというより獲物を狩るような、少し変わった目つきで伊織を見る。


「ーィル!ねぇ!ヴィルってば!」

 千里の大袈裟な叫び声がする。どうやらぼんやりしていたようだ。昨日の夕方には朔望団の反乱は収束を迎え、一晩空けてヴィルたちは旅団本部の04小隊の居室にいる。

「今回、なぜか旅団が一番割を食ってるんだから」

 千里はすでに何かをまとめたりしている様だ。どうやら聞くところによると、総括班の三人、04小隊長のレイ、03小隊副隊長の木原と中村が行方不明というのだ。特に総括班が全員いないというのが異常事態ではある。

 一旦旅団は反乱に伴い設置された戒厳司令部のもとに置かれ、明日以降再編されることになるだろう。今日は一日中待機ということになっている。晴れているが行くところもないなとぼんやりする。

「ほら!ぼうっとしないで、荷物まとめて!ほら!」

 千里は何を考えてるのだろう。04小隊に配属される前は、総括班の三人含め私たち、全員は01小隊に所属していた。旅団として活動するため、額面上の小隊増設とレイの機動力を活かすため、04小隊を設立。それとは別にミカ、伊織、茜の三名を引き上げ総括班として、それをトップにした体制を作った。旅団という作戦単位は、独自の作戦行動が可能になり、対ヒトガタ戦闘の機敏さと、被害軽減を実現していた。先のK市での活動などが顕著な例である。

「対人戦闘なんか想定してない旅団で反乱鎮圧なんかしようとするからこうなるんだって!もう!」

 ここ旅団本部は引き払われるのだろうか、千里はガタガタガチャガチャと何かをしている。今回の反乱は軍内部のマナ無し同士の抗争に端を発したと言うことになっている。実際はマナ有りからに差別に耐えかねたマナ無しの反乱なのだが、そう正しく認知してる人間は少ない。自分が差別してる側とは認めたくないし、関わりたくないと言う意識が、世間の認識を塗り替えていく。

 ただ今回は首都での騒乱。巻き込まれた人間も多い、さらに首相暗殺までやるとは思わなかった。だから、軍内部のマナ無し同士の抗争という体裁で、同じくマナ無しの03小隊が、その尻拭いをさせられ、それに引きずられるように旅団が巻き込まれたというのが、旅団内部から見える景色。

 ここから先の話、確かに考えられるのは、旅団成立前の状況、連隊規模に戻るということだろう。そうなると自分たちが戻る先は01小隊、マナ有りで対ヒトガタ戦闘のエリートという肩書きのその部隊。ただ彼らはユリやマリーのような変異種を知らない。もっと大量のヒトガタとの物量戦だ。正直楽しくない。

 我々が01小隊に所属しないなら02小隊だろうか、彼らは対ヒトガタやそのほかの事故や先天的な病気等で四肢に影響がある者たちの集まりだ、彼ら自身はそれように開発された義肢で戦う、残念というか、もったいないというか、その義肢の動力はマナであるということだ。

 結局、01小隊も02小隊もマナが使えるという選民意識というのはどうしても滲み出る。ヴィルも千里もそういうのはすごく苦手であった。

 では、03小隊はどうだろう。彼らはマナがないとされる人間で構成されている。人数は中隊規模の100人程度を抱える大所帯だ。ナガイさんが小隊長格のまま昇進を拒否していた。そして、前述の通り、マナ無し人間の唯一の所属先となり人数が膨れ上がっている。

 ただ、一つの問題はナガイの教えを信奉しており、集団としては少し異質である。生き残るためにはなんだってする、マナや兵器の性能だけに頼らずロジックで攻める。そういう根本的なところは共感が持てるが、今は非常に危うい。ナガイの教えの極論は恭順であり、無抵抗主義だ、それはマナがないという時点で人間であるという事を放棄しているに近い。マナがなくても人間だと、至極当たり前な主張をする側の集まりが今回の反乱の主体、朔望団である。

 突き詰めるとマナ無し同士の争いだからその泥は全部お前らが被れと言われんばかりに03小隊は昨日の反乱から苛烈なところにいる。首相官邸、その後、反乱の別の中心であった教育省への突入。そして今は首都の治安維持と、崩落した災害備蓄庫の捜索、そしてそこから発生した、従前よりも凶暴なヒトガタへの対処。そしてさらに反乱に関わったとされる人の逮捕まで。彼らはこの反乱の責任をその骨肉をもって報い、主義が違う側の犯した罪をその血で洗うようなことをしている。03小隊の助けになれば良いのか?いや、彼らが欲しいのは施しでも同情でもない。思いを巡らせるヴィル自身も、レイがいないという点で少し、どうして良いのかわかっていない、なんだかそんな気がする。


「もー!ヴィル!ほら!行くんだから!」

 また千里がわめいている。どこに行くんだろうか。

「どこに?引越し?」

 早いんじゃないか、と内心思いつつ、ちゃんとしっかり千里を見る。彼女は行軍の準備をしている。数日はその任に耐える装備を準備して立っている。

「なに寝ぼけた事言ってんの!!レイを探しに行くのよ!」

 心配じゃないの!というが自分は心配はしていない。

「別にレイは死んじゃいないよ、待ってれば帰ってくるよ」

 旅団は大きな波に飲まれているが彼女は多分そんなの気にせず歩いて帰ってくる。その確信は揺らがない。さっきの妄想もレイが帰ってくるまでの繋ぎの話。そんな気分。

 レイは簡単には死なない。それがわからない千里ではない、何か別に考えがあるんだろうか。いや実は本当に心配しているのだろうか、ただ、彼女はいま何か行動を起こすようだ。こういう時の千里の無計画で無鉄砲なところは大好きだ。そしてそれに付き合うと大体いいことがある。血が騒ぐぐらいの、とても良いこと。

 自分は今どういう顔をしているんだろう。千里は笑って返してくるが、どうだろう。真顔なのか、笑っているのか、ニヤついているのか。

「わかった」

 ヴィルはそう言って立ち上がった。

「再編成されるまではまだ04小隊なんだから」

 こちらが準備するまでの間に、居室でオペレーターらしく地図を広げ、災害備蓄庫の線を地図にひいていく。

「だって、災害備蓄庫って元は避難壕でその出口はいくつもあって、ものによっては首都の外にあるんだよ。探すだけでも大変じゃない」

 レイの行動を振り返る。K市単独捜索から反乱発生。災害備蓄庫への転戦命令。故障中の大型搬入路は結局開いていることになっており、そこから入る連絡だけを一方的に受けて、そこからは不明。災害備蓄庫は地下で爆発が起こり崩落、状況を全部把握しているわけではないので、何がどこまで崩落して、その中をどこまで行けるのかもわからない。悩む。しらみつぶしに全部見るか、首相官邸から順に辿る?どうする?悩む千里を尻目に準備を終えてヴィルは居室のドアを開ける。

「準備できた。行こう」

 匂いと気配でわかるから。ヴィルはそう言ってまとめた荷物を背負い、歩き出す。二人は車に乗り込んだ。その先は首相官邸の近く、やはりそれっぽいところには03小隊員がいて近寄れないようにしている。

「地図」

 と一言だけいってヴィルが地図を見る。そして窓を開けてじっと気配を感じとる。指でたどる。首都の外まで続く何本かのうちの一つ。

「たぶんここ。念のため確認する」 

 その分岐点へ行くことのにした。車を走らせる、ちょっとした非日常が昨日あっただけ。攻撃性の高いヒトガタはまだ衆人の目には晒されていない。だから街はもう喧騒を取り戻している。もう少しすると日常に戻って行く。そんな街を抜けて行く。

 分岐点へ到着した、やはり地下壕の崩落で、地面が大きく陥没し、そのあたりへの立ち入り禁止がなされている。分岐の一つは首都へ戻り、もう一つは首都の外、明確な境はないが、さらにしばらく行くともうそれは異常繁殖した植物の世界。先ほどと同じように窓を開けて気配を探る。迷うはずもない。

 あっち。ヴィルはそう言って千里に言って、首都を背にして車を走らせる。


 意外なことに、自分たちを呼ぶ通信が入る。通信元は01小隊だった。

「おい、いまどこに何をしている?」

 答えに窮する、帰ってこいと言われても帰るつもりもないからだ。総括班不在の際の旅団の指揮命令権はこの01小隊にある。ただ現状はそうはいっても戒厳司令部がある以上、それはお飾りにすぎないが、建前や規則上はそういう整理。

「01小隊小隊長だ、頼みたいことがある」

 意外だった。もしやと思い、千里は返事をする。

「こちら04小隊オペレーター、小隊長の捜索を行なっている」

 場所についても正直にいってやった。少し間が開く。

「そうか、引き続き頼む。総括班も見つけたら教えてくれ。以上」

 とても意外な連絡だった、てっきり引き返せという命令だと思っていた。ヴィルも目をパチクリさせている。お互いに目を合わせる。

「意外にみんなこの旅団のこと好きなのかな?」

 千里はニヤついていうが、ヴィルはそうでもなかった。ヴィルの考えが読めないがとにかくお墨付きはついた、探しに行こう。千里は車のアクセルをふかして先へ行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。