ふれるといたい
君に最初に触れたのは、愛されたかったから。
君に最期に触れたのは、愛していると伝えたかったから。
最初に君の手に触れたときは痛かった。
最期に君の手に触れたときも、やっぱり痛かった。
最初は愛されていなかったから痛かった。
最期は愛されていたから痛かった。
これは僕と君のありふれた物語。
***
出会いは高校生の時だった。
陸上部だった君が、放課後に校庭で走っている姿に僕は一目惚れをした。
友人に協力を仰ぎ、君と友達になった。
君が何気なく『よろしく』と差し出してきた手を、僕が握って握手をしたのが''最初に君に触れたとき''だった。
僕のことを友人としか思っていない君に、愛されたいと望んだから胸が痛くなった。
それから友人の協力のおかげか、君と恋人になれて、
最終的には君と夫婦にまでなれたことは僕にとっての一番の幸福だった。
そして月日は流れ、僕は60歳で末期癌になった。
もう長くはないだろうと思った。目を開けることも、喋ることもできなくなってしまったから。
君は最期の日までお見舞いに来てくれたね。
僕の手を握ってくれた君の手を、力が入らない指先で触れた。これが''最期に君に触れたとき''だった。
僕のことを愛してくれている君を、残して逝かなければならないことに胸が痛んだ。
これは僕と君のありふれた、ただ一つの物語。




