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王妃となるのに必要な資質は

作者: いのりん
掲載日:2026/03/19

 成功を収めるには三つの要素が必要だ。

 即ち『努力』と『才覚』と『運』である。


 ちなみに、一番大切なのは『運』だ。


 本当かって?


 努力だけ、才覚だけあっても大金持ちにはなれないし大事な試合に勝てるとも限らない。しかし、宝くじが当たり不戦敗となれば……QED(証明完了)


 また『禍福はあざなえる縄のごとし』や『人間万事塞翁が馬』という名台詞もある。

 短期的にダメな時期があっても、運が良ければ最終的には成功するものだ。逆もまたしかり。だから一番大切なのは『運』である。


 そしてこの世界に『運』は実在する。


 まあ、これは当然だろう。魔力や魔道具などという胡散臭いトンデモがあるのだから、運が存在しない方がおかしい。


 さて、そんな『運』であるがその正体は神からの祝福であるといわれている。生まれついた時にある程度の総量が決まっており、見分け方は簡単。


 というのも神の恩寵が宿る部位は髪だからだ。

 シャレでは無い。運の多い人物ほど髪が金色っぽくなりキラキラと輝くのである。


 なのでこの国——ガモウ王国では、美しい金髪である事が顔の造形や筋肉の有無以上に魅力に直結しているのであった。


 さて、そんな国にフォルトゥナという美しい金髪を持つ伯爵令嬢がいた。彼女はどうやら相当神に祝福されているらしい。


 それである日、嫉妬した姉のアラクシュミーから『容姿にも魔力にも恵まれて、貴女って本当に運がいいわね』なんて皮肉を言われしまうが、その時には


「ありがとう。素敵なところが沢山あるお姉様にそう言ってもらえて嬉しいわ。でも、運だけで見られるとちょっと寂しいかな」


 なんて返していた。

 どうやら、頭も性格も良かったらしい。


 そんな四方よしのフォルトゥナだったので、十五の頃に未来の名君と名高い第一王子、カイロスと婚約することになった。


 さらに同じ頃、『フォルトゥナばっかり恵まれててズルいわ!』なんてよく癇癪をおこしていたひとつ年上の姉、アラクシュミーも何故か急におだやかになった。


 のみならず『今までごめんなさい。お詫びの印にこれを上げるわ、私が作った腕輪で姉妹お揃いなの』なんてプレゼントまでくれる様に。


 歓喜したフォルトゥナは神へ感謝の祈りを捧げた。


(神様、ありがとうございます。自分が恵まれている事を自覚して、これからも慢心する事なく世のため人のために尽くしていきますね)


 しかし、なぜかこの日からフォルトゥナの運気は少しずつ、しかし確実に落ちていく事になる。

 美しかった金髪は干からびた砂漠の様な砂色に変わっていき、その頃には目に見えて運も悪くなってしまった。


 王立アカデミーに通っている彼女。

 学科試験では試験範囲が広い中で前日勉強したところが一問もでず、体力テストの日は自分の番だけ強い逆風が吹き、魔力測定ではファイヤーボールの威力を測る装置が誤作動……といった具合だ。


 努力する習慣も優れた才覚も変わることがなかったフォルトゥナだが、髪の色が変わり結果も伴わなくなった事で彼女の評判は下がっていった。


 だがそれも無理はない。

 運とは神の祝福であるのだから。


 後天的にそれを失うというなら、その人物が神に顔向けできない様なことをして見限られたと判断されるのが『普通』だ。

 実際、過去には敬虔に祈りを捧げ清く正しい生活をしたことで運気が上がった者が多くいるし、その逆例も多い。


(うーん、おかしいわね。清く正しい生活は続けているつもりなのだけれど……それか、『運に頼らずもっと努力しなさい』という神様のお達しなのかしら?うん、そっちの方があり得そうね。)


 首を傾げつつも、フォルトゥナはそう仮説を立て、今まで以上に努力することにした。それはもう、とんでもない強烈な努力だ。


 そして彼女は元々優れていた才覚を完全に覚醒させた。


 学科試験では全範囲を完璧に理解して満点をとり、体力テストの日は自分だけ逆風の中で参加者全員をぶっちぎり、魔力測定ではファイヤーボールの威力を測る装置を蒸発させた。


 しかし、ある日こんな通達が来た。


「カイロス様の婚約者を、私からアラクシュミーお姉様に変更......ですか」


 実は、フォルトゥナの運気が下がったのと対照的にアラクシュミーの運気は爆上がりしていたのである。くすんでいた茶髪は金髪に変わっていた。


 またフォルトゥナには遠く及ばないものの、アカデミーの成績も上がっていた。ヤマが当たったり追い風が吹いたり装置が誤作動した結果である。


「おっほっほ、頑張っていたのに残念だったわねフォルトゥナ。まあ、『ついてなかった』と思って諦めてちょうだい」


 これには、流石のフォルトゥナも少々しょんぼりしてしまった。


(っと、いけませんよ私。人の幸運を妬む様なことをしては……それに国を導く王族には『天運』が何より必要なんですもの。適材適所で仕方ないことだわ)


 とは言え、ショックなのは変わらない。


「ふう……」


 翌日、ちょっぴりセンチメンタルな気分になった彼女はアカデミーのバルコニーにある欄干にもたれ掛かりため息をついていた。ここは過日、彼女がカイロス王子と語り明かし愛を育んだ思い出の場所だ。


「フォルトゥナ」

「あ、カイロス様」


 そこへ、昨日まで婚約者だった男がやってきた。


「……」

「……」


 互いに何と言って良いか分からず、暫し無言で見つめ合う。それからどちらかともなく視線を外して、共に欄干にもたれ掛かり、どこか遠くの同じ方向を見つめた。


「俺はまだ、君との結婚を諦めるつもりはない」


 少ししてから、そう切り出すカイロス。


「王妃に相応しいのはフォルトゥナだと思っている」

「そのお言葉だけで、充分報われた気がいたします」

「何を言うか、本心だ。努力も才覚も君以上の女を俺は知らん」


 とはいえ、王家の婚姻にはおいて相手の『運』は最重視される。短期的にダメな時期があっても運が良ければ最終的には成功するものだからだ。


 君の身内を悪く言ってすまないが、と前置きしてカイロスは話を続ける。


「そもそも神は何故フォルトゥナでなくアラクシュミーなんかを祝福しはじめたのだ?……くそ!」


 やり場のない怒りを欄干に込め、強く体重をかけるカイロス。すると——


 みしり、という嫌な音がして欄干が壊れた。


 長雨で土台が腐っていたか手抜き工事か、はたまたこっそりと壊れる様な行為に使った生徒がいたのかは不明だが、とにかく壊れた。


 そしてカイロスだけでなく、隣にいたフォルトゥナも空中に投げ出される。命の危機にスローモーションになった思考の中で彼女は


(ああ、きっと私の不運に巻き込まれたのね。彼は美しい金髪だもの。やっぱり私は婚約者に相応しくないのだわ——)


 なんて事を、どこか他人事の様に考えていた。


 すると突然、空中で抱き抱えられる感覚があり、それから衝撃。


 ばきばきばき……ドスン!


「いてて……驚いたな。怪我はないかい?」

「はい、守って下さりありがとうございました」


 奇跡的にふたりとも無傷。

 木がクッションになったようだ。ついてる。


「あっ」

「どうした!?やっぱりどこか痛むか?」

「いいえ、ただ過日お姉様から頂いた腕輪が壊れてしまった様です」


 そう言って割れ落ちた腕輪に目をやるフォルトゥナ。やっぱり彼女はついてないのかもしれない。


 「……っ!?これはもしかして……」


 それを見た王子は、目を見開いていた。


「なあフォルトゥナ、この腕輪、俺に預けてくれないか。詳しい人物に心当たりがあるんだ」


 修理してくれると言う事だろうか?

 申し訳ない気持ちもあるが王家御用達なら腕も確かだろう、願ってもない話だ。


「それと、俺が手配するから君は今から一度王家の医務室へ行き精密検査を受けてくれ。三日くらいかけて全身をじっくりと調べるんだ」


 そこまで必要かと思うフォルトゥナだったが、何かあれば俺も困るからと言われたら首肯するしかなかった。


 そんな事があった翌朝。


「金髪になってる……」


 結局、泊まり込みで検査をする事になったフォルトゥナが鏡をみると髪の色が変わっていた。いや、戻ったといった方が正しいか。


 急な変化に驚きつつ、念の為検査を続けるがその後も身体に異常はなしーーいや、髪の色だけは初日より二日目、二日目よりも三日目と輝きを増し、周囲に光の粒子まで浮かぶゴージャスな感じになっていった。


 そうして三日の精密検査が終わる頃、王家より再びお達しがあった。内容はカイロスの婚約者をフォルトゥナに戻し、アカデミー卒業と同時に結婚するよう内定したというものである。


 喜び七割、アラクシュミーお姉様はガッカリしているだろうなという気遣い三割で帰宅すると……姉は家からいなくなっていた。


 両親に聞いても詳しい経緯を教えてはもらえなかったが、学園を中退しデブゲハ・リョナスキー辺境伯爵へと嫁ぐことが急遽決定したと言う事だった。フォルトゥナからしたら、寝耳に水の話である。


 そんなことがあった後日、フォルトゥナはカイロスと紅茶を楽しんでいた。

 右手には修理された腕輪、金継ぎによる修復が施されておりむしろ壊れる前より立派な意匠になっている。


「腕輪、ありがとうございました」

「気にしないで。それよりも使い続けてくれて嬉しいよ、金継ぎには魔除けの金銀を練り込んだから、これから先はきっと君を守ってくれるはずだ」

「これから先は?」

「いや、こっちの話」


 何か隠している様だが、きっと聞かぬが花というものなのだろう。


「それより、お姉様が少々心配です。辺境伯は優秀な政務者ですが身内となった女性の扱いにだけは少々難があると言う噂をききましたの。」

「はっはっは、辺境伯のことは王家の影が調べたよ。噂と現実ははかなり違う様だった。便りがないのも生きてる証拠さ。」

「あ、そうなんですね。よかった」


 ほっと一息つくフォルトゥナ。

 だから「そう、『少々』どころじゃないからね」というカイロスの呟きは上手く聞き取れなかった。


「ん?今何かおっしゃいました?」

「いや、こっちの話さ。それより今日も素敵だね」

「もう、お上手なんですから」


 アハハウフフと笑いあう。



 成功を収めるには三つの要素が必要だ。

 即ち『努力』と『才覚』と『運』である。


 ちなみに、一番大切なのは『運』だ。


 なにせ、短期的にダメな時期があっても運が良ければ最終的には成功するのだから。運とは神の祝福であり、その影響力は絶大だ。


 だがまあ、神に贔屓されるにはきっと——


(神様、いつもありとうございます。私これからも頑張りますね)


 相応の努力や本人の才覚——例えば性格の良さなど——が必要なのだろう。

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― 新着の感想 ―
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