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空中転生 -落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -(改)  作者: 蜂蜜
第1章 幼年期

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第六話「『大猿』」

「あんた……そんなに小さいのにどうやって魔法を……」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!

 避難所に行きましょう! 案内してください!」

「あたしはあんた達を助けるためにアヴァンから来た騎士の一人よ!

 逃げるわけには……」

「剣を失くした剣士に、いったい何ができるって言うんですか!

 今はつべこべ言わずに、身の安全を確保するのが先決ですよ!」


 俺はごたごたと文句を言う赤髪の少女の手を引く。

 騎士だかなんだか知らないが、この少女は到底戦える状態ではない。


 さっきの猪の突進で腕に傷を負っているし、剣士には欠かせない剣がないのだ。

 俺もさっきは運が良かったからいいものの、いつ魔力切れを起こすかわからない。

 毎日頑張って練習を重ねていたとはいえ、年齢が年齢だし。

 己の能力を過信しすぎると痛い目を見る。


「なんなのよ、あんた……小さいくせに」

「悪口ならあとでいくらでも聞きますから、早く!」

「……わかったわ」


 さっきから、小さい小さいとうるさいな。

 あんたも大して変わらんだろ。


「……痛っ」

「どうかしましたか?」

「さっきので足を捻ったみたい。

 気にしないで。大丈夫だから」


 と言い張っている彼女だが、一歩歩くごとに苦悶の表情を浮かべている。

 うーん……やったことはないが、やるだけやってみるか。

 もし失敗したら、無理やりにでもおぶるか、お姫様抱っこでもして歩けばいい。

 少し言葉を交わしただけでわかったが、この手のタイプの女の子は気を付けて扱わないと痛い目を見る傾向にある。

 が、今はそんなことを気にしている余裕はない。


「大地の神よ、この者に癒しを。

 『ヒール』」


 唱えると、俺の手のひらに柔らかな緑色の光が灯った。

 その光が少女の患部を優しく包み込むと、少女の表情が徐々に和らいでいった。


 なんか成功した。

 初めて使ったんだが。


 今からでも治癒魔術師を目指しても遅くはないだろうか。


「あんた、治癒魔法も使えるの?」

「詠唱だけ覚えていたので、試しに使ってみたらうまくいきました」


 ちなみに、治癒魔法だけは初級から詠唱が必要になる。

 最近読んでいた魔術教本のページがちょうど治癒魔法だったのが功を奏した。


 少女は立ち上がって、「本当に治ってる……」と驚きながらも、やや恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。

 案外ツンデレも悪くないな。


「避難所はここから真っ直ぐ行って、赤い看板の建物が見えたらそこを右に曲がる。

 覚えた?」

「覚えられないので一緒に行きますよ!」

「……もう! 本当になんなのよあんた!」


 傷が治ったところでどっちみち戦えないんだし、今は黙ってついてきてほしいものだ。

 やや強引に少女の手を引き、言われた方角へ走り出した。


「バカ! そっちは逆よ!」

「すみません」


---


 その頃、ルドルフとロトアは。


「すまん、待たせた。状況は?」

「魔物の数は、村の人口をはるかに上回っている。

 俺もかなりの数を斬ったが、斬っても斬っても数が減らない」

「何か根源があるのかしら……。

 なんのきっかけもなく村を襲撃するはずがないものね」


 二人は無事に、建物内にいる守り人達と合流し、状況を確認しあっている。

 村の人口四千人の中に、「守り人」という少数精鋭がいる。

 名前から想像できる通り、彼らは村の治安維持や村周辺の安全確認、必要があれば魔物退治を仕事としている。

 守り人の人数は総勢百人程度。

 だが、既にその約四分の一にあたる三十人弱の守り人が犠牲になっている。


「この地響きが、妙に気掛かりなんだよな」

「同感だ」


 大量の魔物の襲撃を知らされたのとほぼ同時に、大きな地響きが絶えず鳴り響いている。

 さながら、巨大な怪獣の足音のようである。


「まずは、あいつらをいかに全滅させるかだな」

「固まって動けば死ぬリスクは格段に減るだろうが、非効率なせいでさらに犠牲者を増やしてしまうかもしれない。

 かといってバラバラに動けば、かえって守り人の人数が減って、結局非効率になる可能性だってある」

「クソっ! どうしたらいいんだよ!」

「腹を立てても仕方がないだろう、クレッグ」

「俺には妻も娘もいるんだよ!

 こんなことやってねえで、一刻も早くあいつらのもとへ行ってやりたいんだ!

 お前はどっちもいないから気楽でいいよな!」

「なんだと!?」

「はいはい、喧嘩は後で好きなだけやってちょうだい」


 ロトアは立ち上がり、クレッグとアーレントの頭を軽く小突いた。

 二人はその一撃で状況を思い出したのか、やや不満そうにしながらも座った。


「まず、俺が魔物の流れに逆らって、何か根源がないかを探る。

 他のやつらで、迫り来る魔物たちの対応を頼む」

「でも、それじゃお前が危ないだろう」

「俺を誰だと思っている。

 あまり自慢げに語るのは気が引けるが、俺は『剣帝』の二つ名を持つ剣士だ。

 そう簡単に死んだら、恥ずかしくて死にたくなっちゃうね」

「その場合お前は二回死んでることになるけどな」

「ん……? まあ、そんなことはどうだっていい。

 とにかく今俺が言った作戦でとりあえずは動いてもらう」


 各々の有する武器を握り直して、出撃の準備をする。


「――絶対に、この戦いに勝つぞ!」

「うおおおおおおおおお!!!」


 全員が声が枯れるくらいの雄たけびをあげた、その時だった。


 内臓まで震えるほどの地響きが、集った守り人達のすぐ近くから聞こえた。

 更には、軽く吹き飛ばされそうなほどの突風。

 否、衝撃波に近い風が、建物ごと守り人達を襲う。


 そして、


「――――ウオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 耳をつんざくような咆哮が、辺り一帯に轟いた。


 ルドルフたちは建物を出て、咆哮のあがった方を見る。

 そこには、彼らがいまだかつて見たことのない大きさの猿型の魔獣が、ルドルフたちをギロリと見下ろしていた。


「なんだよ、あれ……」


 守り人の一人が、膝をついて絶望の声を漏らした。


「ロトア」

「……ええ、間違いないわね」


 二人は顔を見合わせることなく、互いの意見を合致させた。

 ルドルフは己の『鳳凰剣ほうおうけん』を固く握りしめ、小さく呟いた。


「――『大猿(おおざる)』だ」


 『大猿(おおざる)』。

 別名、『ゴライアス』。

 俗称は後者である。


 この世界には、四種類の有名な魔獣が存在する。

 『大蛇(おおへび)』、『白龍(はくりゅう)』、『暗黒騎士(あんこくきし)』、そして『大猿』。

 これらは総称して、『世界四大魔獣』と呼ばれている。


 この魔獣たちの正確な生息地は不明であり、一部の研究者は「絶えず世界中を動き回っている」という説を唱えている。

 その世界最恐魔獣たちの一角を担う『大猿』が、不運にもここラニカ村を襲撃対象に選んでしまったのである。


「無理だ……」

「終わりだ……」


 『大猿』の恐ろしいところは、この巨大な体躯だけではない。

 『大猿』は非常に知能が高く、魔物を「率いる」ことが出来る点である。


 森に潜んでいた魔物たちを呼び寄せ、大群として人里を襲う。

 魔物の主食は人間などの動物の肉であるため、此度の襲撃で大量の食糧が賄えるというわけだ。


「……クソッ! やるしかねえ!」


 ゴライアスは燃え盛る家々や建物をことごとく破壊し、猛威を振るう。

 数十分前までの光景は、もうそこにはない。


 ルドルフはたまらず、飛び出した。


「はァァァァァッ!」


 蒼い雷をまとった『鳳凰剣』は、ゴライアスの巨大な腕を斬り落とさんとする。

 しかし、ルドルフは直径にして一メートルはあろうかという腕に弾かれ、建物の壁へ吹き飛ばされた。

 受身を取る間もないくらいのスピードで背中から叩き付けられたルドルフの視界は、衝撃で脳が揺れたせいか、少しずつぼやけていく。


 ルドルフの特級剣術をもってしても、ゴライアスの腕を斬り落とすことは容易ではない。


「ルドルフ! 大丈夫か!」

「ああ……なんとかな」


 駆け付けた一人の守り人が、ルドルフに治癒魔法をかける。

 治癒魔法は傷を塞いで完治させるだけではなく、打撲傷などの痛みを和らげてくれる効果も持つ。

 ルドルフはゆっくりと立ち上がり、ゴライアスを睨み付ける。


「急に飛び出して悪かった。みんなは無事か?」

「ロトアさんの鼓舞のおかげで、今は体制を立て直している。

 ゴライアスに集まってきた魔物たちの対処をしてるところだ」

「そうか。それなら、そのままあいつらには雑魚処理を頼もう。

 ゴライアスの相手は俺がする」


「俺はここに残って、お前のサポートをするよ。

 治癒魔法なしじゃ、流石の剣帝様でもきついだろ?」

「はんっ、あんまり舐めんじゃねえぞ。

 ……と言いたいところだが、実際お前の言う通りだ。

 迷惑をかけるが頼むぞ、クラリス」

「ははっ、死ぬ時はお互い様だ」


 クラリスとルドルフは目を見合せて、互いに素敵な笑みを浮かべた。

 ルドルフはゴライアスに向き直り、剣を構える。


(全く手応えがなかったのは、あの体毛のせいだ。

 あの分厚い体毛さえ何とか出来れば……!)


 ゴライアスの体長は、推定二十メートルほど。

 八階建てビルよりほんの少し低いくらいである。

 その巨大な体躯故、あらゆる体の部位が大きい。

 それは、体毛単位でも同じ話である。


 一本一本がとても太く、そして、硬い。

 ゴライアスの体毛は、剣術未経験者では斬ることすら不可能なほどの硬さを誇る。

 その白銀色の体毛が、ルドルフの剣撃を吸収してしまったのである。


 つまり、ゴライアスの体毛を何とか出来れば、勝機は見えてくる。


(奴の毛を斬り裂いた瞬間に、皮膚に一撃入れてみるか)


 ルドルフは再び、地面を強く蹴ってゴライアスへ飛んで行った。

 今度は先程とは違い炎をまとった『鳳凰剣』を振りかぶり、声を上げた。


「『盛炎(せいえん)』ッ!」


 ゴライアスの肩に乗り、体毛を焼き尽くす勢いで切り刻む。

 そして、皮膚が露出したその瞬間に、剣を突き刺す。


「なっ――!」


 しかし、そう上手くはいかなかった。

 ゴライアスの体毛は、ルドルフの技によって焼き尽くされた瞬間に再生したのである。


 ルドルフは危険を感じ、ゴライアスの首筋を蹴ってクラリスの元へ戻った。


「どうだ? 攻撃は通ったか?」

「いや、ダメだ。

 多分、俺だけじゃ奴に一撃入れることすら不可能だろう」


 体毛を焼き払っても、再生してしまう。

 それならば、ルドルフだけの力じゃ敵わない。


「……ロトアの力を、借りるしかない」

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