第伍話 無事に帰還なのか
「ここでちょっと待ってて。」
雪子を仮眠室前まで連れて行くと、雪村は一旦中座した。
しかし、すぐに色々持って戻って来た。
「はいコレ、僕の冷房除けのウインドブレーカー。朝出て行く時に羽織っていきな。セーラー服のままじゃアヤシイからね。」
「…ありがとう。」
「それからこっちは通行証のコピー。遠目にはバレないからチラ見せで。大丈夫、出て行く時は守衛さん、ほぼ見てないから。」
「何から何まで…ごめんなさい。面倒掛けるわね?」
「いいよ。僕の姉さんなんだろ?」
「信じてくれるの?」
「僕は元来、お人好しなんだよ。」
「ホントにありがとう。お世話になるついでに、もう一つだけいいかしら?」
「何だい?」
「朝7時になった時に、私がウインドブレーカーだけを残して、この部屋から居なくなっていたら、無事に向こう側に帰ったってことなの。でももし…。」
「…?」
「…まるで魂が抜けたように眠っていたら、あなたの家まで連れて帰って。お願いします。」
「解った。請け負うよ。」
「こんな失態、初めてなのよ。本当にごめんなさい。」
「いいから。ドアの表示を❝使用中❞にして中からカギをかけてね。」
「はい。」
「この部屋の合鍵は、朝7時過ぎたら使うよ。では幸運を!」
そんなやり取りをして雪村と別れた後、雪子は仮眠室のベッドに入った。
目を覚ますと、そこは照和の実験室の座席の上だった。
「さて、次の行動の計画を練らなくっちゃ。」
雪子は考える。
まず、先ほどの時間軸の翌朝に戻って、向こうの自分の身体がどうなったのか確かめる。
次に、その時間軸の自分が生まれたあたりまで遡り、本当に自分が死んでしまったのか確かめる。
いや、先に、両親の馴れ初めも見ておこうかな…。
そしてその後、雪村の生い立ちを追いかけてみるか。
冷蔵庫からサンドイッチを出して頬張りながら、雪子は早速、連続時空ジャンプのための座標データを入力し始めた。
連続だから、滞在は各所3時間てところかしらね?
ああ、それから向こうでの活動資金を何とかしなきゃだわ。
でももし、安定的な物理的なボディが手に入ったのだとしたら、やり方は考えてあるのだった。
また株や競馬で儲けるとしても、一時的に現金を貯めておく必要がある。
でも、あちら側に銀行口座は作れない。
じゃあ、どうするのか。
それは「たった一つの冴えたやり方」。
…とてもアナログな方法、タイムカプセルである。