第肆話 朝までオールで
「あなたの人生に多大な影響を及ぼしてしまったことを謝罪するわ。」
「えっ、いや、そんなあ…。」
「私の推測が正しければ、多分、ついさっきの事象が、あなたの過去・現在・未来に渡って幅広く影響するのよ。」
「…。」
「でも、運が良ければ、一時的な現象で済むかもしれない。しばらく様子を見るしかないわね。」
「そうなんだ。」
クルマはいつの間にか名護屋市内に入っていた。
街の明かりが賑やかになりつつあった。
「ところで、雪子さんはどこまで乗って行くの?」
「どこでも大丈夫だけど…せっかくだから最後までつき合うわ。」
「僕、このままバイト先まで行っちゃうけど…。」
「どうぞ。」
「バイト先は、東区のNHK名護屋なんだけど。」
「いいわよ。」
「…そうなんだ。」
間もなくクルマは、地下鉄栄駅近くのNHKのビルの前に到着した。
時刻は午後8時30分を回っていた。
雪村はNHK前の路地にクルマを路駐した。
二人はクルマから降りた。
「じゃあ、僕はこのまま泊りで、タイトルデザインセンターのバイトだから。」
「そう。送ってくれてありがとう。クルマはこのままで平気なの?」
「明日の朝早く出るから大丈夫。」
「へえ。おおらかな時代なのね。」
「雪子さんは、この後どうするの?」
「そうね。せっかくだからこの世界を色々見て回って、朝まで映画でも見ようかしらね。」
「ホントに?」
「さあ、どうかしら。」
「じゃあ、元気で。」
「あなたもね。きっとまた、近いうちに会うことになりそうだけど。」
「へえ?」
「バイト、頑張ってね。」
「うん。」
雪村は名残惜しそうにNHKのドアの向こうに消えて行った。
「さてと…。」
おもむろに雪子は、栄の街中へと歩き出す。
タイマーの関係で、どの道、明日の朝7時までは暇なのだ。
「名護屋テレビ塔は、まだ電波塔の役割を果たしているようね。」
デジタル放送の開始はまだまだ先の話だ。
雪子は歩きながら、戻ったら次はどうするか考えていた。
そうだ。この身体はどうなるのだろう?
中身の精神体は照和に戻る。
じゃあ、外身の運命は?
解らない。
しかしどうする。
セーラー服を着たままじゃ、一人でホテルにも泊まれないぞ。
さっき冗談のつもりで雪村に言ったけど、こりゃあホントに、朝まで映画館でオールナイトか?
それも無理があるな。
雪子は回れ右をして、NHKに戻り、何気なくドアをくぐり守衛の前を通る。
「あ、ちょっとキミ待ちなさい。」
まあ、そうなるよね。想定内だ。
「すいません、さっき入った兄に用事があるんです。」
「誰かな?」
「タイトルデザインセンターの、真田雪村を呼び出していただけますか?」
守衛さんはイイ人で良かった。すぐに内線電話を入れてくれた。
雪村はすぐ戻って来た。
「どうしたの?」
「実は朝まで居るところが無くて…クルマのキーを貸してもらえるかしら。」
「どうするの?」
「あなたのクルマの助手席で、一晩中留守番してるわ。」
「…ちょっとこっちに来て。」
意を決した雪村は、守衛さんに軽く会釈して、雪子の腕を引いた。
「キミを信用する。特別だからね。」
そう言うと雪村は、そのまま雪子を地下二階の仮眠室に連れて行ったのだった。