第参話 情報の開示
クルマが走り出し、愛知教育大学の正門を出る。
ここは刈谷市の中でも田園の方。街道沿いの明かりもまばらだ。
「まずは乗せてくれてありがとう。」
助手席で雪子が話し始める。
「色々聞きたいことがあるよ。」
そういう雪村の言い分も、もっともである。
「説明はします。その前に一つだけ確認させて。」
「何かな?」
「今日は何年何月何日?」
「1984年の4月27日の金曜日だよ。昭和なら59年。」
「昭和の昭の字は、照らすっていう字から下の点4つを取ったものかしら?」
「そうだよ。なに?まさかキミ、未来からやって来たとか言わないよね?」
「あら、そういう発想ができるのね。」
「昔、知り合いにたくさん本を借りて、随分思考を鍛えられたからね。」
「…それ、多分、村田京子さんね?」
「!?」
「私も当時は、よく彼女の家に行ったわ。幼なじみですものね。」
「???」
「ごめんなさい。話が逸れてしまったわね。」
「…。」
「今からたくさんのことをあなたに説明します。話の内容は荒唐無稽だけど、ウソは一つも言わないと、真田英二と真田恵の名のもとに誓います。」
「ええ!?」
突然、両親の名を出されて、雪村は一瞬、ハンドルから手が滑った。
「私の名は真田雪子。空から降る雪に子どもの子と書きます。」
「この時空の調査のために、あなたの斜め後ろの過去からやって来ました。」
「私は物理学に精通し、超能力も持っていますが、先ほどの大立ち回りには関わっていません。…ここまでで何か質問は?」
「…同じ苗字だけど、キミは僕の何なの?」
「あなたの…そうね、姉にあたるかしら?」
「…そうだ昔、母さんに聞いたことがあるぞ。僕が生まれる前に、すぐ死んでしまった姉さんが居たって…。」
「この時間軸だけでは、そうなっているようね。」
「…?」
「少なくとも私の知りうる、他の並行宇宙のすべての時間軸には、私が居て、あなたが居ないのよ。」
「だから私は、あなたを私の下位互換、もしくは変異体と推測しているわ。」
「そうか。並行宇宙の話なら読んだことがあるぞ。可能性の数だけ無限に分岐する過去・現在・未来だ。」
「そうよ。でね、ここからの話が少しややこしいのだけれど、実は私、幼い頃から中学校を卒業するまで、時々あなたに出会っているのよねえ。」
「えっ、それってどういう…?」
「多分、今日のこの出合いが、あなたに影響を与えたんだと思うの。」
「…。」
「さっき頭をぶつけたでしょ?それで私はあなたから肉体を構成する僅かな部分を受け取り、私はチカラの一部をあなたに譲渡した。そう思ってる。」
「じゃあ、焚火の前での出来事は…。」
「全部あなたがやったこと。私から受け取ったチカラを使ってね。」
「そう…だったんだ。」