第拾肆話 溺れる者は
次の時空ジャンプの出口では、雨がポツポツ降っていた。
そうか。私、傘は装備していないんだった。
雪子は今さらながらに気がついた。
ここは雪村が3歳の時間軸。昭和42年10月1日の日曜日。時刻は午後4時。
場所は名護屋市千種区竹越町のはず。
雪子は土手の上に立っていた。
ふと視線を落とすと、目の前に小さな川があり、子どもたちが一列になって石伝いにそれを横断していた。
気がつくと雨の降り方が強くなっていた。
確かあれは香流川だったわよね。そんなことを思い出しながら、雪子がぼんやりと子供たちの様子を見ていると、そのうちの中ほどの1人が足を滑らせたのか、水の中に沈んだ。他の子たちはそれに気づいていないのか、どんどん向こう岸へ渡って行く。
いけない!助けなきゃ!でも、待って。下手に他の時間軸の出来事に干渉したら、その時間軸の未来の歴史まで変わってしまう。それはまずいわ。
どうする。どうしたらいいの?雪子が考えている間も、その子どもは水の中から出て来ない。
ええい!やっちゃえ!雪子は決断した。
まず降って来る雨粒を集めて、それを大きな球状の形にして、自分の身の周りを囲み、スリ硝子のように使って外界から身を隠す。そしてそのまま空中に浮かび、先ほどの子どもの沈んだあたりの水面に近づく。
球体のバリヤの中から手を伸ばし、水中の子どもを探す。
よし!子どもの手を捕まえた。
雪子はそのまま引き上げて、子どもを水のバリヤに隠したまま、土手の向こう側へ移動した。
人目の届かない物陰でバリヤを解く。
よく見ると、その子どもは雪村だった!
助けて正解だった。
いや、ちょっと待て。
コレは、果たして偶然なのか?
それともまた水中に良からぬ者が潜んでいたのか?
雪子が思案していると、近所のおばちゃんが、泥だらけの雪村を見てびっくりしていた。
「どうしたの、この子!?」
「今そこの川で溺れていたんです。」
「多分、ご近所の真田さんの息子さんです。」
「ああ、ホントだ。こっちにおいで。お風呂でキレイにしてあげようかねえ。ところでアンタは…。」
「ああ、私のことは気にしないで。大丈夫ですから。」
そう言って雪子はそそくさとおばちゃんの視界から消えたのだった。
程なくして、雪子は「昭和」の自室に戻って来た。
そして鷹志に内線で無事帰還した旨連絡を取ると、そのまま「照和」の時間軸に戻ったのだった。
あきらかに雪村は誰かに狙われている。
この私が絶対守らなきゃ。
この後の「昭和」への時空ジャンプに向けて、そんな決意をあらたにする雪子であった。
…以下、セーラー服と雪女Ⅰ 本編 「晴れ時々悪意ところにより超能力者」の第1章に続きます。
これで広げに広げた物語の風呂敷が、一旦閉じられました。
ご愛読ありがとうございました(>_<)
でも、雪子やその他のキャラクターの冒険は、まだまだ続きます(^_^;)
ご期待下さい。




