第拾参話 運命の日
次の時空ジャンプの出口は、気が重いところだった。
だがこれは自分自身の問題だ。確かめない訳には行かない。
雪子はそう自分に言い聞かせる。
昭和37年12月25日午前2時。
雪子は、精霊病院の産婦人科の、廊下のベンチに現れた。
するとすぐ近くのドアが開き、真田英二と年配の白衣の男が出て来た。
雪子は急いで廊下の陰に隠れた。
「この度は残念な結果となり申し訳なかったです。」
「いえ、妻が無事だっただけでも…。」
医者の謝罪の言葉に対してどこまでも好青年な応対をする英二だった。
私、ホントに死んじゃったんだわ。
この日付によると、やはり早産だったのね。
そうだ。急いでお母さんを元気づけなくっちゃ。
そう考えた雪子は真田恵子の室名札のついた部屋を探す。
あった。ここだわ。
雪子は静かに扉を開ける。
ベッドでは恵子が一人で泣いていた。
雪子はできるだけ静かに近寄って行ったが、彼女に気づかれた。
さすがは私のお母さんね。そう思いながらも、あまりにも恵子がしょげているので、思わず自分が別の未来からやって来たとか、心配しなくても、あなたはあと3人無事に産めるとか、要らない情報を伝えてしまった。
恵子は信じられない様子だったけれど、何だか元気になったようだった。
それを見届けて安心した雪子は、うっかりそのまま恵子の目の前で時空ジャンプをして見せてしまったのだった。
まあ、いいか。きっと夢を見たと思うわよね。
などと都合良く考えているうちに、雪子は時空ジャンプから出て来た。
そこは何だか薄暗い場所だった。
確かここは昭和40年の9月15日水曜日。時刻は午後2時。
場所は大久手通のアパートのはず。
雪子が目を凝らしてよく見ると、目の前に狭くて急な階段があり、2階に向かって伸びている。
と、階段のてっぺんで何かがゴソゴソ動き、次の瞬間、それが落ちて来た。
雪子は下で思わずそれをキャッチする。
なんとそれは、まだ赤ん坊の雪村だった!
実体化できていなかったら、キャッチできなかった。危なかった。
雪子はホッと胸を撫で下ろしたが、ある疑念が頭をよぎり、雪村を抱いたまま、急な階段をさっと昇って行った。
しかし2階には誰もおらず、ただ畳敷きの6畳の部屋の中に、雪村用の小さな布団が敷かれているだけだった。
気のせいだったのかしら?
どうしても気になった雪子は、なおも詳しく室内を調べてみたが、どこにも隠れられる場所は無かった。
まあ、いいわ。誰かが暗躍しているのなら、いつか必ずその尻尾をつかんでやるんだから!
雪村を元の布団の中に寝かしつけると、ちょうど時間となり、雪子は次の時空ジャンプに入った。




