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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第48話王座が軋んだ夜

ベンジャミンは最上階へと上がり、魔動昇降機の扉が開かれると、目の前には会見の準備がされていた。


天井には大きなシャンデリア、記者達が座る椅子、豪華な舞台。


何もかも、立て直す準備は整っていた。


すると力帝の新たな右腕は力帝に台本を渡し、ベンジャミンは見つからないように端に移動した。


しばらくして記者達が饗宴島に辿り着き、ここ、最上階へと数十人が通信魔道具を持って現れる。

それと同時にカイも現れ、他人の姿をさせていながらも目が合った。


その間、ベンジャミンは腹を空かせた狼のように力帝を見つめていた。


力帝は玉座に腰を下ろし、ゆっくりと周囲を見渡した。

その顔には、余裕の笑みが貼り付けられている。


だが、台本を握る指先だけが、わずかに力を込めすぎていた。

カイは記者の一人として列に紛れ、静かに息を整える。


――逃げ場は、もうない


ベンジャミンと一瞬だけ視線が交わる。

言葉はない。


だが、互いに理解していた。


この会見が終わる前に、王は終わる。

やがて、鐘の音が一度だけ鳴り響いた。

会見開始の合図。


力帝が立ち上がり、口を開く。

その瞬間、誰も知らない場所で、

世界はすでに――王を見放していた。


力帝は演壇の中央へと向かい、ゆっくりと腕を広げた。


「まず最初に言っておく。饗宴島に関する一連の噂は、すべて悪意ある捏造だ」


自信に満ちた声。

王としての口調。

それだけは、まだ保たれていた。

だが――


「質問です」


一人の記者が立ち上がる。


「先ほど公開された映像に映っていた檻と死体。あれは“捏造”だと、今ここで断言できますか?」


一瞬、力帝の視線が泳いだ。


「……当然だ。あれは処刑済みの犯罪者であり、管理下に――」


「では次の質問です」


遮るように、別の記者が続く。


「犯罪者だと言いましたが、映像には子供や一般市民と思われる人物も確認されています。彼らも“犯罪者”なのでしょうか?」


会場がざわめく。

力帝の口元が、わずかに引きつった。


「……饗宴島では、独自の司法基準を採用している」


その言葉に、空気が変わった。


「独自、とは?」


「どの法律に基づくものですか?」


「外の世界の法と、どう違うのですか?」


質問が、止まらない。

力帝は台本に視線を落とそうとしたが、

そこに書かれている言葉が、急に薄っぺらく見えた。


「我々は……世界の安定のために――」


「安定のために、檻に人を詰めるのですか?」


「安定のために、公開処刑を?」


「安定のために、島を閉ざし、情報を遮断して?」


一つ一つが、刃だった。

力帝の胸に、苛立ちが込み上げる。


なぜだ……なぜ、従わない


彼のスキルである王権が、反応しない。

いや――

反応しているのに、届いていない。


「黙れ」


思わず、声が強くなる。


「貴様らは知らない。この世界がどれほど脆く、愚かで――」


その瞬間、会場が凍りついた。

記者達の目が、一斉に細くなる。


「……今、“愚か”と?」


「世界が、ですか?」


「それは、あなたが守るべき民のことですか?」


力帝は、はっとした。

しまった、と理解した時にはもう遅い。

言葉は、戻らない。


「違う、そういう意味では――」


「では、どういう意味ですか?」


「説明してください、王」


“王”。

その呼び方に、嘲りが混じり始めていた。

力帝の背後で、

見えない王座が、また一つ、音を立てて崩れる。


遠くから、カイはそれを見ていた。


……効いてるな


剣でも、魔法でもない。

言葉だけで、世界が、王を削っていく。

そして力帝はまだ気づいていない。

自分が今、“自分より弱い存在”だと、世界に判断され始めていることを。


新たな右腕が舞台に姿を出した瞬間、ベンジャミンは記者の椅子を倒しながら進み、力帝と右腕の前に現れた。


心神喪失したと思われていた男が現れ、力帝は目を見開く。


「久しぶりだな。ヴァルガス」


ベンジャミンはまるで友人と再開したかのような、満面の笑みを浮かべる。

貪食の力を模倣し、瞬きの一瞬でベンジャミンはナイフを放つ。


刃が照明で眩しく輝き、右腕が力帝に飛び掛かって、体を盾して投擲物を防いだ。


「ごはっ!」


力帝の真っ白なスーツに、真っ赤な血がベッタリと付着して、遅れて警備隊達がベンジャミンを包囲した。


「力帝様!」


複数の重装をした警備が力帝を囲い、そのまま周囲を警戒しながら奥へと避難した。


「う、うそだろ!」


「ヒャァー!!」


記者達は逃げるが、一部は欲に釣られて倒れた血を流している力帝の右腕を、必死になって撮っていた。


ベンジャミンが周りの警備隊を相手にしている間、俺は重装の格好に擬態し、素早く力帝の背後へと回った。

そして奥の分厚い扉が開かれ、廊下を進み俺は力帝と重装警備と共に部屋へと入る。


「力帝様、収まりがつくまで待機していてください」


「あ、ああ」


力帝は目を丸くさせ、信じられない顔をしていた。

今までずっと信頼していた側近に殺されかけた。


「お前も行くぞ」


「はい」


重装警備隊はまた会見の場所へと戻り、廊下に差し掛かった瞬間、目の前にいた重装警備に向けて、剣を生成し、脇を思いっきり突き刺した。


「がっ……!」


唯一武装されていない脇を刺し、異変に気が付いた警備隊は後ろを振り向く。


「貴様ッ!」


腰に下げていた小さな筒は、非殺傷用の魔法の棍棒へと伸縮し、警備は棍棒を振り払う。


俺は屈んで、棍棒はそのまま上を通りすぎ、その隙を狙って敵の顔面に拳を叩き込む。

痛ましい打撲音が廊下に響く。


「一体何が起きてる」


力帝は部屋から出て、廊下へと向かう。

廊下の辺り一面が、重装警備隊の死体で溢れ、その中で1人だけが立っている。


その時、力帝は直感で感じた。


「カイ……!」


力帝は拳を握り締め、息を荒くさせる。

自分の人生を壊された仕返しに、貴様を殺すと言わんばかりに。


俺は重装の頭を覆う黒い防具を脱ぎ捨て、素顔を露にさせた。


俺とリリスを地の底まで叩きつけた張本人。

すべての血が沸騰するような、激しい怒りに身を包まれた。


「アアアア!!!」


「ウオォォォオ!!!」


2人は雄叫びをあげ、俺は走って力帝に体当たりをした。

壁に衝突し、拳を突き出すが、力帝は簡単に拳を掴み、反撃を繰り出した。


力帝はドスンと腹を殴り、俺の拳を掴んだまま腕を振って、壁に叩きつけ、俺は肘を振り下ろし力帝の腕の関節を強打させた。


「ぐっ!」


怯んだ瞬間に、俺は顔面に拳を叩きつけ、そのまま力帝は階段を転がり落ちた。


完全に俺の力が効いてる。


そう感じるのもつかの間、壁に叩きつけられた衝撃で背中が酷く痛む。


「力帝…いいや、ヴァルガス!」


ヤツの名前を呼びながら、俺は階段を降り、力帝は壁に手を着いて立ち上がり、一瞬、力帝は逃げようとした。

そして俺はすかさず生成した短剣を投げる。


「があっ!」


力帝の背中や肩に突き刺さり、力帝はリビングの机を掴んで俺に向けて放り投げた。

急いで階段から、キッチンへと飛び降りて回避し、力帝と俺は距離を詰めずに睨み合う。


側にある包丁が目に入った瞬間――


ドンッ!!


その時。

力帝の横の扉が蹴り飛ばされ、現れたのは少し傷を負っているベンジャミンだった。

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