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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第46話歪んだ証明

夜風が、屋上を吹き抜けた。


血と鉄の匂いが混じり合い、冷たい空気の中で、ベンジャミンの笑顔だけが浮いて見える。


「最後まで殺し合おう」


その言葉に、迷いはなかった。

それが“願い”であり、“救い”なのだとでも言うように。


「……勝手な話だな」


俺は吐き捨てる。

かつて、同じことを願っていた自分を思い出しながら。


「認められたいなら、他にやり方があるだろ。そこまでして俺になりたいか?」


「ああ」


即答だった。


ベンジャミンは短剣を構え直す。


「俺には、これしか残っていない」


次の瞬間、地面が砕けた。


踏み込み。

速さはさっきより増している。

いや――迷いが消えた分、研ぎ澄まされた。


俺は横に跳び、拳を振るう。

拳はベンジャミンの顔を殴り付け、刃は俺の頬を掠めた。


重い。


腕が痺れる。


「チッ……」


治癒スキルで誤魔化しているが、魔力消費が明らかに増えている。

長期戦は不利だ。


――それでも。


「お前が“証明”になるつもりなら」


俺は一歩、前に出る。


「俺は、それを叩き潰す。それが、俺が選ばなかった生き方だからだ」


ベンジャミンの目が見開かれた。


怒りではない。

憎しみでもない。


恐怖だ。


自分の信じてきたものを否定されることへの、純粋な恐れ。


「そうか!」


ベンジャミンは短剣を投げる。

俺は受け、躱し、時にわざと傷を負いながら距離を詰める。


腹を切られ、肩を裂かれ、血が流れる。


だが――止まらない。


「人に認められなきゃ、自分の価値がないと思ってる時点で……」


俺はベンジャミンの懐に入り、腹に拳を叩き込んだ。


鈍い音。


「お前はもう終わりだ」


「ぐ……っ!」


ベンジャミンが膝をつく。


それでも立ち上がろうとするその姿は、どこか必死で、

――どこか、哀れだった。


哀れだと思った瞬間、自分の胸の奥が冷たくなった。

同情じゃない。

――かつて、似た場所に立っていた自分を見た気がした。


「……なあ」


俺は拳を下ろし、問いかける。


「リリスは死んだ」


「俺が殺したんだ」


一瞬。

ほんの一瞬だけ。

ベンジャミンの表情が、崩れた。


その顔を見て、胸が痛むと思った。

だが、それ以上に――

"まだ壊れ足りない"と思っている自分に気づいてしまった。


「……俺が殺したかった」


その声は、かすれていた。


「証明さえできれば……」


その瞬間、俺は悟った。


こいつは、もう戻れない。


「俺はお前になる。お前を存分に壊したら、俺が置き換わってやるよ」


俺はベンジャミンの胸倉を掴む。

建物の下の街路を見ると、金属音での通報を受けて警備隊が駆けつけていた。


「なぜだ!なぜそこまで俺を狙う!」


その問いに対しても、ベンジャミンはただ笑うだけだった。


「なぜなんだ!!」


リリスを理由にヤツは殺し続けた。


一頻り怒りをぶつけた後、俺は疲労感で冷静になり言った。


「俺はもう殺し飽きた。気が変わる前にとっとと失せろ」


吐血するベンジャミンを背に、俺は踵を返した。

振り返らなかった。

――振り返った瞬間、俺はあいつを殺していた。


……分かっている。

これが正しくないことくらい。

それでも、止まれなかった。


そして俺は、グレイの元へ駆けつけた。

グレイは地面に横たわっている。

死んだような顔をしているグレイの顔を覗き、俺はこいつのスキルを思い出した。


"擬態"

それは、姿を変え、物体をも姿を変える事が出来る。


そして今、俺が饗宴島に必要なのは、素性がバレない方法。


俺はグレイにゆっくり、手を伸ばした。


「お前の治癒スキルがありゃ…俺を助けれるはずだ……」


「でも、それがお前の選択なんだろ……?」


「手間が省ける。理解してくれ」


そうして俺はグレイのスキルを奪った。


その瞬間、グレイの人生が記憶に刻まれる。


中級スキルを持って生まれた少年は、優しい義両親に預けられた。

やがて学校へ通い、ある国の騎士となった。

婚約者も現れ、順調に事が進んでいたある日――婚約者は不治の病に倒れた。

治すため、男は呪詛師の元へ行き、一つの魔道具を授けられる。

そして男は武器を彼女に向ける。


カイの目に映ったのは、床に広がるかつて愛した女の血と肉だった。


意識が戻り、俺はすぐ自分が何者であるか見つめ治した。

少しの間が空き、深呼吸をして落ち着いた俺は、手紙のような魔道具を取り出し、カリドへ連絡をつける。


『準備は整った。今夜が出発だ』


それだけを送り、手紙は宙を飛んで何処かへと消えた。


闇に紛れるように街を抜ける。

擬態した姿は、鏡で見れば他人そのものだった。


それなのに、胸の奥に残る感触だけが、妙に生々しい。


――奪ったのは、スキルだけじゃない。

グレイの記憶が、まだ脳裏の奥で燻っている。


誰かを救おうとして、誰かを殺した男の選択。

理解できてしまう自分が、何より不快だった。


「……進むしかないか」


立ち止まれば、飲み込まれる。

後悔も、罪悪感も、全部まとめて。


饗宴島。

そこには、俺が壊したものと、これから壊すものが待っている。


今夜で、戻れない場所がまた一つ増える。

それでも――俺は、歩みを止めなかった

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