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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第45話認められるために

アルダとハンは、整えられたリビングのテーブルを挟んで腰を下ろしていた。


ザビエクがお茶の準備をしている間、会話はない。

耳に入るのは、カップが触れ合う小さな音だけだった。


……本当に、信用していいのか?


探偵から『カイ』という名前が出ただけで、ここまで来た。

だが、それ以外のことは何も知らない。


力帝が張った罠――

そう考えても、不思議ではない状況だ。


やがて、ザビエクは二つのティーカップに紅茶を注ぎ、静かに席へ戻った。

その所作には、妙な余裕があった。


まるで、警戒されていることすら楽しんでいるかのように。


少しの沈黙のあと、ザビエクが口を開く。


「――あいつとは、協力関係だった」


カイの名を、直接は出さない。


「力帝に殺された元スポンサー、カールも含めてな。計画はあったが……結果は失敗だ」


淡々と語られる内容に反して、その口調には奇妙な感情が滲んでいた。


「素性が割れなかった俺は生き残り、あいつだけが、すべてを背負うことになった」


アルダは、わずかな違和感を覚える。


ただの仲間にしては、言い方が……


ザビエクはカップに口をつけ、視線を伏せた。


その横顔は、後悔とも、諦めともつかない表情を浮かべていた。


アルダは、紅茶には一切口をつけず、ザビエクを睨むように見据えていた。


「……で?それを私達に話して、何が目的なの?」


率直な問いだった。

ハンもまた、無言のまま空気の変化を感じ取っている。


ザビエクは肩をすくめ、どこか自嘲気味に笑った。


「協力を求めたい――と言えば聞こえはいいが、正直に言おう。俺は、あいつを失いたくない」


アルダの眉がわずかに動く。


「随分と……感情的だね」


「そう見えるか?」


ザビエクは視線を上げ、初めて二人を正面から見た。


「だが現実だ。力帝は“まだ”動いていない。代わりに、周囲の人間が動き始めている」


テーブルに、薄い紙束が置かれる。


「――これは?」


「力帝が管理していた一部資料だ。数年前、ある男が盗み出した」


ハンが息を呑む。


「盗んだ……?」


「ベンジャミンという男だ。力帝に認められたがっている、哀れな狂信者さ」


ザビエクの指が、紙の端を叩いた。


「その資料の中に、あいつに関する情報があった」


アルダの背筋に、冷たいものが走る。


「……カイの?」


「名前は伏せられている。だが、特徴が一致する」


ザビエクは一瞬だけ言葉を切り、低く告げた。


「ベンジャミンは、その“証明”として、あいつを殺しに行く」


静寂。

ハンが立ち上がりかける。


「居場所は!?」


「ボロ小屋だ。確かグラニス辺境領、街外れの――」


言い終わる前に、アルダは椅子を蹴って立ち上がっていた。


「話は十分!」


ザビエクは、その背中を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……間に合えばいいがな」


その言葉の意味を、二人はまだ知らない。


----


グレイはカイの連絡を得て、例のボロ小屋の中にて待機していた。


「寒ッ」


隙間風が酷く、潮風で壁が一部錆びている。

そして腐った木の扉が嫌な音を立てながら開き、グレイは溜め息を吐き、腰を下げていた机から身を起こして扉に歩き出した。


「呼んだ癖に遅ぇぞ。そんで?進捗はどうだ」


微笑んで扉の先にいる男に話すが、返事は一向に帰ってこない。


「話し方も忘れたのか――」


そう冗談を言おうとした瞬間、グレイの本能が危険信号を出した。

背筋が凍ったように冷たくなり、毛穴から脂汗が出る。


グレイは灰装を取り出し、2つの鉄球を放出した。


心臓が早鐘を打つ。これが終われば……いや、終わらせねば。


グュン!!!


特殊な金属音が夜空に響き、腐った扉に大穴が2つ空いた。

先にいる男は体を捻り、簡単に鉄球を避けると、グレイが鉄球を装填をさせる前に男は接近する。


暗い空間で光る刃を、グレイは体を反って回避し、小屋から飛び出して地面を転がりながら装填、そして飛び上がり宙に浮いた瞬間、再び鉄球を放出させた。


ベンジャミンは鉄球を躱し、一つ目は真横を通りすぎ、二つ目は肩を激しく抉りながら貫通した。

それでも歩みを止めない。


「もしかして痛覚ない感じ?」


グレイは街路にある石を拾い、擬態(モノマネ)スキルを発動させて石を刀と形を真似た。


「スゲェだろ?」


ベンジャミンは何も言わず短剣を振るい、グレイは刀で悠々と受け続けるが、簡単に刀にヒビが入ってしまった。


「クソッ!」


グレイは距離を取って刀を2つの鉄球を真似た。

灰装に装填し、夜景に2回の金属音が鳴り響く。


「ははッ……テメェマジかよ…」


ベンジャミンは近距離にも関わらず、また簡単に鉄球を避けた。

グレイの手足は小刻みに震え始める。


またかよ……


この身体の異常に嫌気が差す。

これがなければ、一体どれだけの命を救えたのだろうか。


グレイは灰装を強く握り締めた。

鼻血が止まらない。

視界の端が、わずかに歪む。


――また、だ。


力を使うたび、身体が軋む。

まるで拒絶するように、内側から壊れていく。


「……ちくしょう」


ベンジャミンは、歩みを止めない。


肩を貫かれたはずの傷口から血は流れている。

だが、その顔には苦悶も、怒りもない。


ただ――


空っぽだ。

低く、感情のない声。


「お前は邪魔だ」


次の瞬間、ベンジャミンの姿が消えた。


――速い。


グレイは反射的に後方へ跳ぶ。

直後、先程まで立っていた場所の地面が抉れ、火花が散った。


「ッ……!」


腕が、痺れる。

受け切れなかった衝撃が、骨に響いた。


擬態した鉄球を撃つ。

だが、弾道を読まれているかのように、すべて空を切る。


「認められるために……か」


グレイは、苦笑した。


「そんなもんのために、人を殺すのかよ」


ベンジャミンは一瞬だけ、首を傾げた。

理解していない。

否――理解する必要がないのだ。


力帝に認められる。

それだけが、彼の世界のすべて。


次の一撃が来る。

グレイは覚悟を決め、灰装に残った魔力を流し込もうとした――


その瞬間。


「おい」


低く、冷たい声が夜を裂いた。

空気が、変わり、ベンジャミンの動きが止まった。


屋根の上。

月明かりを背に、黒衣の男が立っている。


カイだった。


「……遅ぇよ」


グレイが吐き捨てるように言う。


「悪いな」


カイは淡々と答え、視線をベンジャミンに向けた。


「また会ったな、クソ野郎」


ベンジャミンは、初めて感情を宿した目でカイを見た。


「カイィ!!」


短剣を構え、地を蹴る。

俺は短剣を避け、拳を握り締めて突き出し、ベンジャミンの顔を殴る。

一瞬の隙が生まれ、ベンジャミンは急いで短剣を振り下ろし、俺は短剣を掴んでいる右腕を掴んで頭突きをした。


「はがっ……!」


短剣は手から離れるのを見ると、俺は両拳を順番に振るい、ベンジャミンの顔はすっかり血塗れとなった。

俺はベンジャミンの首を掴み、拳を上げる。

その時、俺は殴らず、答えを聞くことにした。


「なぜ俺をそこまで狙う。力帝か?力帝の為か?」


「俺は捨てられた……」


「全部はあの女だ。リリス……あの子のためだ…」


「お前になればあの子は振り向いてくれる……」


怒りが、心の奥底から溢れ出した。


「ふざけねんじゃねえぞ!」


「答えろ!なぜそこまで執着するんだ!」


ベンジャミンは答えず、ただ笑い、生成した短剣を俺の横腹に突き刺した。

そして隠し持っていた魔道具を起動し、俺とベンジャミンは建物の上に瞬間移動した。


「答えろ」


俺は短剣を引き抜き、治癒スキルで傷を治した。

ベンジャミンは唇にべったりと付いた血を拭き取る。


「まだ魔力の余力はあるか?」


「ああ」


するとベンジャミンは初めて本当の笑顔を見せた。


「最後まで殺し合おう」


その笑みに、ほんのわずかだが人間らしい熱が宿った。認められるため――それだけのために。

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